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TORU 史上最強の悪ガキ  作者: 神村 律子
番外編PART2
26/28

その美少女、危機一髪につき

 杉野森学園高等部は、あの矢田通に告白した転校生の話で持ち切りだった。


 その転校生の名は、沢本さわもと瑠璃佳るりか。高等部一年。かなりの美少女である。クラスメートはおろか、全学年の男子生徒が溜息を吐いた。

「どうしてなんだよ」

 通は確かに女子には人気はあるがモテはしない、というのが「定説」だった。それを覆したのが転校生で、しかも美少女となると、彼らは「定説」を変更しなくてはならないと思っていた。


 そして、翌日。

「おはよう、美津子」

 通学路で落ち合った香が声をかける。

「おはよう、香」

 美津子はごく普通に応じた。しかし香はニヤッとして、

「今日はご機嫌ね、美津子」

 美津子は親友のその途方もない切り出しにキョトンとして、

「どういう意味よ?」

「矢田君、転校生の告白を断わったんでしょ? 信ちゃんから聞いたわ」

 美津子はビクッとした。その話は全然知らなかったのだ。香は美津子の様子に気づき、

「あ、もしかして、何も知らなかった?」

と決まりが悪そうに尋ねる。すると美津子はムッとして、

「知りたくもないわ!」

 プイッと顔を背け、彼女は大股で歩き出す。

「美津子、女の子がそんな歩き方したらダメだよ」

 香が追いかけながら言う。しかし美津子は、

「大きなお世話!」

と更に大股で歩いた。そして、前方を歩いている通に気づいた。

「あ……」

 通は瑠璃佳と並んで歩いていた。美津子はますますヒートアップした。

「失礼」

 彼女はわざと通の肩にぶつかって二人を追い抜いた。

「いてえな、美津子! 何するんだよ!?」

 意味がわからない通が怒鳴るが、美津子は完全無視を決め込み、スタスタ行ってしまった。

「美津子、待って!」

 香は通を睨みつけてから、美津子をまた追いかけた。

「何なんだよ、あいつら?」

 通がぼやくと、瑠璃佳が、

「私のせいですか? 私が矢田先輩と歩いているから、大田先輩が怒って……」

「関係ねえよ。あの女、昔から癇癪持ちなんだ。気にするなって」

 通は瑠璃佳に言うが、彼女を見ない。瑠璃佳は通を待ち伏せしてここまで一緒に歩いて来たのだが、彼が一度も自分の顔を見てくれないのに気づいていた。

「あの」

「何だ?」

 やはり通は瑠璃佳を見ない。

「矢田先輩、私の事、嫌いなんですか?」

「な、何でだよ!?」

 やっと通は瑠璃佳を見た。瑠璃佳は悲しそうな顔で、

「だって、さっきから全然私の顔を見てくれないから」

「あ、いや、女の子の顔をジロジロ見るなって、死んだ親父によく言われたからさ」

 通はバツが悪そうに言った。それは嘘だ。本当は、瑠璃佳を至近距離で見るのが恥ずかしいのだ。

「そうなんですか」

 瑠璃佳は少しだけ元気になったようだ。

「優しいんですね、先輩」

「そうかあ。そんな事ないと思うぞ」

 二人の姿を見た高等部の生徒達は、

「矢田通が大田美津子から転校生に乗り換えた」

と勝手に解釈し、その噂は瞬く間に広がって行った。杉野森学園の外にまで。


 そしてその噂を聞きつけてほくそ笑んだ奴がいた。石動いするぎまこと。杉野森学園とはライバル校関係にある大東苑学院だいとうえんがくいんの生徒だ。

 允は以前、通の妹の久美子を拉致して通を潰す作戦を実行したが、久美子の思わぬ強さに返り討ちとなった。その怨みを晴らす時が来たと思ったのだ。

「今度こそ、あいつの弱点を利用して、潰してやる」

 允は狂気めいた顔で笑った。


 竹森信一は、教室で通と美津子の間に漂う不穏な空気を感じていた。

「何があったんだ、通?」

 信一が小声で尋ねる。通は、

「訳がわかんねえんだよ。あの女、朝から機嫌が悪くてさ」

「ホントか?」

「ホントだよ!」

 信一は通の「事情聴取」を諦め、香に近づいた。

「何があったのさ、あの二人?」

「それがね……」

 香から理由を聞いた信一は呆れてしまった。

「何のために断わり方を教えたのかわからないな」

 信一は香に礼を言って、もう一度通に近づいた。

「通、あの子にきちんと教えた通りに言ったのか?」

「言ったよ。そしたらさ、友達からって言われてさ。そこまでお前に教わってなかったし……」

 信一は項垂れた。

「小学生か、お前は……」

「うるせえよ! しょうがねえだろ、成り行きでそうなっちまったんだからさ!」

 通が開き直る。

「大体、俺が誰と歩こうが、あいつには関係ないだろ」

 通はわざと美津子に聞こえるように言った。美津子がピクンとする。

「美津子」

 香が止める間もなく、美津子は通の前に行ってしまった。教室の一同がザワッとする。

「ええ、そうですね。私が悪かったです、矢田通さん。今後一切貴方とはお話しないようにしますので、それでご了承下さい」

 美津子は笑顔でそう言うと、ツンと顔を背け、自分の席に戻った。

「上等だ! こっちもお前と話さなくていいのなら、せいせいするぜ」

 通も一歩も引かない。信一と香は顔を見合わせて溜息を吐いた。

「……」

 さすがに通のその言葉は美津子にはダメージが大きかった。彼女は必死になって涙を堪えていた。

「矢田君、今の言い過ぎよ!」

 香が大声で言ったので、通はビックリしたようだ。

「香、何だよ、お前まで……」

「私も矢田君とは口利かないから!」

 香もプイと顔を背け、席に戻った。通は信一を見上げた。すると信一も、

「今回は全面的にお前が悪い。僕もしばらく距離をおかせてもらうよ」

 通はその言葉に唖然としたが、

「ああ、そうかい!」

と言うと、ムスッとして腕組みをした。


 そして放課後。

 瑠璃佳は、朝の事が気になったので、通に声をかけるのをやめて、その日はクラスメートと下校した。

「あ」

 瑠璃佳達が大通りから細い脇道に入った時だ。その道を塞ぐように大東苑学院の柄の悪そうな連中が五人、並んでいた。

「沢本瑠璃佳ちゃんだな?」

 石動允が進み出て尋ねる。瑠璃佳達はギョッとして後退りしたが、他の連中がすばやく回りこみ、囲まれてしまった。

「おめえらには用はねえ。消えろ」

 允は瑠璃佳以外の女子生徒を追い払った。彼女達は真っ青になって走り出した。 

「何なんですか、貴方達は?」

 瑠璃佳は震えながら言った。允はニヤリとして、

「矢田通をぶっ飛ばす会の会員だよ」

と言った。その言葉に瑠璃佳は目を見張った。

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