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TORU 史上最強の悪ガキ  作者: 神村 律子
アスタロトの逆襲
20/28

エピローグ 永遠にさよなら

 アスタロトの生体反応はまだ確認できていた。死んではいないらしい。

「今度こそ戻っては来られまい。いや、もう戻ったとしても、通と戦おうとは思わんだろう」

 司令部のVIPルームで、ミカエルが言った。彼は通達を司令部を救ってくれたお礼に招待したのだ。

「そうだといいけどね。ホントにしつこいカマヤロウだからさ」

「サタンも警戒を続けると言って来ている。仮に戻って来ても、今度は彼がアスタロトを許さんさ」

 ミカエルはフッと笑って言った。

「ミカエル様って、素敵ね、通兄ちゃん」

 瞳が小声で言う。通は呆れて、

「お前のその軽はずみな性格が、みんなに迷惑かけた事を反省しろよ、瞳」

「はーい」

 大好きな通兄ちゃんにたしなめられ、瞳はスゴスゴと引き下がった。

「では、我々は準備があるので失礼する」

 ミカエルは部屋を立ち去りながら、

「エンジェル、ゆっくり別れを惜しみなさい」

「はい」

 ミカエルはそのままVIPルームを出て行った。

「今の、どういう意味?」

 不思議に思った信一が尋ねる。エンジェルは苦笑いして、

「アタシ達、地球侵略を諦めたの」

「え?」

 美津子と香は顔を見合わせた。

「そう言えば、エンジェルさんて、侵略者なんだっけ」

 改めてギクッとする。

「地球の住環境が、私達に合わないんだ。最初は改善しようと思ったんだけど、それには何百年もかかるらしいし」

 エンジェルの言葉に晶が反応した。

「地球人類が、地球を汚染してしまったから、あなた方は侵略を諦める、という皮肉な結果になったのですね」

「そうね」

 エンジェルは寂しそうに言った。美津子が通に、

「あんた、一緒に行きたいんでしょ?」

「何でだよ?」

 通はそう言ってしまってから、しまったと気づいてエンジェルを見た。

「いいよ、気を使わなくても。アタシはモテるんだから。あんただけが男じゃないし」

「あのなあ……」

 あまりにも身もフタもないエンジェルの言い方に通はムッとした。

「アハハ、ふられたあ!」

 美津子が笑いながら言ったので、

「う、うるせえよ、ブス!」

「何よ、チビ!」

 エンジェルはギクッとしたが、香達は何も反応しない。

「あれ?」

 通も切れた様子はない。

(何だ、そういう事か)

 やっぱり美津子には勝てない。エンジェルはそれを改めて感じた。

「矢田君て、美津子に何言われても怒らないのね」

 香が面白がって言う。

「な、何よ、香。どういう意味?」

 美津子は未だに気づいていないようだ。通もムッとして香を見た。

「何だよ、香? 何の事だよ? 俺は年中このブスに怒ってるぞ」

「何よ、チビ! もういっぺん言ってごらんなさいよ!」

 美津子がまた「NGワード」を言うが、通は切れない。だから美津子は気づかないのか、とエンジェルは思った。

「ああ、何度でも言ってやるよ、ブス。これで満足か、ブス!」

「あんたねえ!」

 美津子が通に掴みかかるのを香と信一が止める。

「お兄ちゃん、いい加減にしてよ!」

 久美子が通を窘める。瞳は呆れてそれを見ていた。

「勝てないなあ、美津子姉には……」

 彼女はエンジェルを見て、

「そう思うでしょ、貴女も?」

と同意を求めた。エンジェルは肩を竦めて、

「そうね」


 そしていよいよ地球に降りる時が来た。通達は転送装置のある場所に移動していた。

「瞳ちゃんは、検査の結果、異常は見られないわ。今後も何も起こらないと思うけど。もし、心配なら連絡頂戴」

 エンジェルがそう言うと、

「お前なあ、隣町に引っ越すんじゃねえんだぞ? どうやって連絡するんだよ?」

 通がすかさず突っ込む。しかしエンジェルは、

「アタシ達はどんなに遠く離れても、会話できるのよ、通」

と通の耳元で囁いた。途端に通は真っ赤になった。

「貴方とアタシは血を分け合ったの。だから、いつも一緒よ」

 エンジェルの言葉に、ほんの少しだけ美津子がギクッとした。

「でも心配しないで、美津子ちゃん。通を連れて行ったりしないから」

「べ、別に私は……」

 美津子は赤くなりながらも必死に否定した。

「こいつは関係ねえだろ、天使女!」

 通も赤くなった。

「じゃ、地球に送るね」

 エンジェルは急に真顔になり、通から離れた。

「多分、永遠にさよならね。みんな、元気でね」

「そんな事言わないで、たまには遊びに来て下さい、エンジェルさん」

 信一がいつもの乗りで言う。エンジェルは苦笑いして、

「ありがとう、信一君」

 いつの間にか、美津子、香、久美子、瞳が涙ぐんでいる。

「みんな、そんな顔しないでよ。笑って別れましょ? ね?」

 エンジェルはそう言いながらも目を潤ませている。

「元気でな、エンジェル」

 通が言った。エンジェルはニコッとして、

「やっと名前で呼んでくれたね、通。ありがとう」

「お、おう」

 通は照れて俯いた。

「元気でね、エンジェルさん」

 美津子達が言った。

「みんなもね」

 エンジェルは転送装置のレバーに手をかける。

「さよなら!」

 レバーが下がり、通達を光が包む。

「じゃあな、エンジェル」

 もう一度通が言った。エンジェルはその声を聞くと、我慢できなくなり、泣き出した。

「大好きだよ、通!」

 その声は通に聞こえたかどうか、エンジェルにはわからなかった。通達は光と共に消えていたからである。


 そして通達は、自分達の住む町に戻った。

「帰れたな」

 通が呟く。

「そうだね」

 信一が答える。

「あのね、通兄とおるにいちゃん」

 いきなり瞳が話し出す。

「何だよ、瞳?」

 ビクッとしながらも、通は瞳を見た。美津子達も瞳を見る。

「私、家出して来たの。だから、兄ちゃんの家に住ませてくれない?」

「な、何ーっ!?」

 これには久美子も驚いていた。

「そんな、家出だなんて。瞳さん、どうしたんですか?」

「ちょっとお父さんと喧嘩しちゃってさ」

「そのくらいの事で家出するな!」

 通が怒ると、

「兄ちゃんだって、昔、漫画捨てられただけで家出したじゃないの。言われたくないわ」

 瞳が逆襲した。美津子と香は顔を見合わせて笑った。

「う、うるせえよ! そんな昔の事、持ち出すんじゃねえ!」

 通は赤くなって怒った。

「それにさ」

 瞳はいたずらっぽく笑って、

「久しぶりに兄ちゃんと一緒にお風呂入りたいし」

 通はその発言に崩壊しそうだった。久美子も呆れている。美津子と香は目が点になってしまった。

「アハハ、ウソウソ! もういくら何でも、一緒には入れないよ」

 瞳はゲラゲラ笑って通を指差す。

「お前なあ……」

 通は脱力してしまった。

「兄ちゃん」

 瞳が真顔で言った。

「何だよ?」

 それでも通は何かあると思って警戒している。

「助けてくれてありがとう。兄ちゃんなら、必ず勝つって思ってたよ」

「あ、ああ」

 違う話か、と安心する通。瞳はまたニヤッとして、

「でさ、私と兄ちゃんの子供なら、世界征服できると思わない?」

「何ーッ!?」

 しばらく瞳におもちゃにされる通だった。

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