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TORU 史上最強の悪ガキ  作者: 神村 律子
アスタロトの逆襲
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第四章 転移の秘密

 エンジェルが転移した通は、見た目は美少女だが、中身は喧嘩バカの権化だ。

「おらあ、もう一発!」

 落下するアスタロトに追いつき、また蹴りを見舞った。

「グホア!」

 アスタロトは口から血を吐き、更に落下する。

『そうか。アスタロトの奴、地球に長くい過ぎて、身体が弱ってるのよ。チャンスよ、通!』

 エンジェルが囁く。通(身体はエンジェル)はニヤリとして、

「よおおし、一気に止めだ!」

「させない!」

 間に瞳が割り込み、

通兄とおるにいちゃん、アスタロト様をいじめないでよ、瞳泣いちゃうから!」

「え?」

 通は学習能力が欠如している。エンジェルはそう思った。さっきまで振り切れそうなくらい上昇していた通の戦闘計数が、急速に低下したのだ。

「ぐわっ!」

 瞳の右ストレートが顔面に炸裂し、通は鼻血を吹き出しながら落下した。

「アスタロト様!」

 瞳がアスタロトに抱きつく。そして落下を止めた。

「こらあ、瞳、何するんだああ!?」

 鼻血を止めながら、通が戻って来た。

「アスタロト様、私達も転移をしましょう」

「う、うむ」

 瞳の言葉を聞き、通は仰天した。

『おい、瞳の奴、今、転移って言わなかったか?』

『言ったわね。やばいわよ、通。もっと強くなっちゃうわ、あいつら』

 エンジェルが答えると、通は、

『んなこたあどうでもいい! 瞳とあのカマヤロウが、キスするんだぞ!』

『ああ、そうね』

 エンジェルはあまり何も感じていない。

「ふざけるなああ!」

 通は二人の転移を阻もうと突進した。

「危ない!」

 瞳はアスタロトを抱え、逃げ出した。

「瞳、考え直せ、そいつはカマだぞ!」

「違うわ。アスタロト様は、紳士よ。兄ちゃんと違ってね!」

 瞳はすっかりアスタロトの虜なのだ。何を言っても無駄である。

「瞳、五次元にテレポートしろ。ここで転移しても、あまり強くなれない」

「わかりました、アスタロト様」

 瞳はアスタロトを抱きかかえたまま、テレポートした。

「あ、逃げやがった!」

 通は慌ててテレポートした。


「う、うん……」

 気を失っていた美津子は、スピカ軍の医療施設のベッドで目を覚ました。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 再び弟の晶が尋ねる。

「あ、うん……」

 美津子は通とエンジェルがキスしているのを見たのを思い出し、赤面した。

「美津子って、ホントに意地っ張りね」

 香が呆れ顔で言う。美津子はムッとして香を睨み、

「何でよ!?」

「だって、矢田君とエンジェルさんがキスしたのを見て気を失うくらい矢田君の事が好きなくせに、好きじゃないとか言い張るんだもの」

 香の真っ直ぐな主張に、美津子はまた気を失いそうだったが、

「ち、違うわよ! 誰だって、人がキスしてるの見たら、驚くでしょ!」

「でも、私も久美子ちゃんも晶君も倒れなかったわよ」

 香がそう言うと、

「あの、僕は?」

と信一が口を挟む。香はクスッと笑って、

「だって信ちゃんは、たくさんキスしてるから慣れてるでしょ?」

「え?」

 信一はそれを聞いてビクッとしたが、ちょっと天然な香は気づいていない。むしろその発言で、美津子と久美子が赤くなった。晶は意味がわからないのか、ポカンとしている。

「とにかく、矢田君が帰ったら、素直に自分の気持ち伝えなさいよ」

 香が諭すように言ったが、美津子はプイッとソッポを向いて、

「私は元々素直よ!」

と言い放った。


 その頃通達は迷子になっていた。

『もう、何も考えずにテレポートするから、現在地がわからないでしょ!』

 エンジェルはプリプリして言った。

『わ、わりい』

 さすがに通も焦っていた。

『取り敢えず、我が軍の本部に戻るわよ』

 エンジェルが身体を支配し、テレポートした。


 瞳とアスタロトは、アスタロトの城に戻っていた。

「地球人め……」

 地球の大気成分は、アークツールス人にはかなりきついのだ。アスタロトは限界を超えてしまい、衰弱しているようだ。

「アスタロト様」

 瞳が潤んだ目でアスタロトを見ている。

「瞳、さあ、転移しよう。お前と一つになれば、もっと強くなれる」

「はい、アスタロト様」

 アスタロトと瞳は見つめ合った。転移とは、男女の恋愛関係とは違い、あくまで力を一つにする方法である。よって、何もその方法は「キス」に限られたものではない事がわかって来ている。

「瞳……」

 しかし、エンジェルもアスタロトも、下心があるから「キス」を選ぶのだ。しかも、瞳の場合、アスタロトによって暗示をかけられており、彼女自身もアスタロトとの「キス」による転移を望んでいた。

「アスタロト様」

 二人は口づけし、転移が始まった。アスタロトの身体が輝き、瞳に溶け込む。そして瞳が輝き、やがて二人は一つになった。

「わははははは!」

 身体は瞳、心はアスタロト。通にとっては最悪の形態になった。

「私は完全に回復し、しかも瞳の力も手に入れた。もはや、サタンすら恐れる必要はない!」

 アスタロトは軽く気を解放した。すると、城の壁が吹き飛んだ。

「想像以上だ。私は最強になった!」

 アスタロトは瞳に下心はあったが、恋愛感情はない。只彼女を利用して強くなりたかっただけだ。

「さてと。手始めにスピカ人共を血祭りにあげるか」

 瞳の顔で、アスタロトは狡猾な笑みを浮かべた。


 通達は、スピカ軍の医療施設に到着していた。

「転移、解くよ」

 エンジェルがそう言うと、

「待って!」

と香が止めた。

「どうして、香ちゃん?」

 エンジェルが不思議に思って尋ねた。

「だって、今解くと、また出る時にキスするんでしょ?」

「え、ええ、まあ……」

 エンジェルは、香達が、転移するのにキスする必要はない事を知っているのではないかと思い、ギクッとした。

(でも、違うみたい)

 彼女は、香達が心配している事が別にあるのに気づいて、ホッとした。

「また矢田君がキスすると、倒れる人が約一名いるから」

 香はチラッと美津子を見た。すると美津子は、

「何よ、別に私は関係ないわよ」

「無理しない方がいいわよ、美津子」

 香は嬉しそうに忠告する。

「無理なんかしてないわよ」

「そう?」

 それを聞いていた通が痺れを切らし、

「ああ、面倒くせえ事言ってんじゃねえよ!」

と怒鳴り、転移を解いてしまった。

「あら」

 強制的に通から分離されたエンジェルは驚いた。

「こんな事もできるんだ」

 すると美津子は、

「ほーら、ごらんなさい。通はね、エンジェルさんとキスしたいから、転移を解いたのよ」

と勝ち誇ったように言った。するとその言葉にカチンと来た通が、

「だったら悪いか?」

と開き直る。その言葉に今度はエンジェルがドキッとした。

(やだァ、通ってば。勘違いしちゃうじゃないの)

「悪くないわよ、別に。好きなだけキスすればいいじゃないの、このチビ!」

「何だと、このブス!」

 二人の罵り合いはしばらく続いたが、警報によって止まった。

「何だ?」

 通がエンジェルを見た。

「未確認飛行物体が接近中らしいわ。しかも、サタン級のね」

「何ィッ!?」

 通達は仰天した。エンジェルは近くにあった通信機で連絡をとり、

「どうやら、貴方のご親戚の方のようよ、通」

「瞳か!?」

 通は駆け出した。

「待ちなさいよ、通!」

 エンジェルが慌てて追った。

「どうするの、美津子?」

 香が尋ねた。美津子は、

「知らないわよ」

と顔を背ける。香は信一と顔を見合わせた。

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