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TORU 史上最強の悪ガキ  作者: 神村 律子
アスタロトの逆襲
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第三章 悪ガキ復活!

「あんのバカァッ!」

 自宅のベッドでフリーズが解けた美津子が、怒りの雄叫びを上げた。

「お姉ちゃん、何があったの?」

 美津子より女らしいと噂の弟の晶が尋ねる。

「うるさい!」

 美津子はそう怒鳴ってしまってから、

「あ、ごめん、晶。あんたは悪くないよ」

と詫びた。自分に姉が謝るなんて世界が終わるのではないだろうか、と晶は真剣に心配した。

「何だかんだ言って、美津子は矢田君が好きなのよね」

 香は嬉しそうだ。美津子はキッと香を睨み、

「違う! エンジェルさんをたぶらかしたのよ、あのチビ!」

「美津子……」

 ここまで素直でないと、只呆れるしかない。

「それより、瞳さんが心配です。あの宇宙人に連れ去られてしまったんでしょ?」

 久美子がすかさず話を本筋に戻した。晶は久美子を見て、

「一体何があったの?」

「えーとね、後で話す」

 久美子は苦笑いして誤魔化す。晶は自分だけ蚊帳の外なのがわかり、ガッカリしたが、

「う、うん」

と素直に応じた。彼は誰にも逆らえない性格なのだ。多分幼稚園児にも反論できないだろう。

「通の事だから、もう終わってるんじゃないの?」

 信一が楽天的な事を言う。

「そんな簡単にはいかなかったよ……」

 そこに突然エンジェルが現れた。

「エ、エンジェルさん!」

 晶以外の者が、驚いて叫んだ。彼女はテレポートして来たので、本当に突然の来訪だった。

「誰?」

 エンジェルと晶がお互いを見て尋ねた。信一が素早く、

「こちら、エンジェルさんでスピカ星系の女性。こちら、美津子さんの弟さんで晶君」

と二人を紹介した。

「よろしく」

 エンジェルはニッコリしたが、晶は怪訝そうな顔で会釈した。

「通がどうかしたんですか?」

 信一が代表してエンジェルに尋ねた。エンジェルは途端に沈痛そうな顔になり、

「瞳さんにボコボコにされて、今スピカ軍の医療施設で治療中よ」

「えええ!?」

 今度は晶を含めた全員が驚いた。

「たまにはいい薬よ、あいつには」

 美津子は尚も素直ではない。香が、

「美津子、いい加減にしなさいよ。久美子ちゃんに悪いでしょ!」

「ああ、香さん、私は気にしてませんから。美津子さんには、兄は迷惑しかかけていませんし」

 久美子が慌ててフォローした。するとエンジェルが、

「私がここに来たのは、みんなが危ないからなのよ。すぐに逃げないと、アスタロト達が来るわ」

「ええ!?」

 また驚く一同。エンジェルは全員を見て、

「アスタロトはまだ地球に降りていないようだけど、奴は地球人を皆殺しにするつもりなのよ」

「……」

 さすがの美津子も押し黙り、香と顔を見合わせた。信一は腕組みをして、

「それで、通の容態は?」

「危ないわ。精神的なダメージが大きいの」

 久美子が涙ぐみ、

「お兄ちゃん……」

と晶にすがりついた。晶はビックリしたが、何とか久美子を支えた。

「しっかり、久美子ちゃん」

 信一は溜息を吐き、

「あいつ、女の子には絶対手を挙げないからな。しかも相手が瞳ちゃんだなんて……」

「通……」

 美津子は俯いて呟いた。

「みんなに通に呼びかけて欲しいんだ。あいつ、魂の抜け殻みたいでさ」

 エンジェルの言葉に美津子はベッドから出た。

「行きましょう、エンジェルさん。時間がないんでしょ?」

「ええ」

 彼女達は、エンジェルの力でスピカ軍の医療施設へとテレポートした。


 その頃、アスタロトと瞳は、アメリカ合衆国の首都であるワシントンに降り立っていた。

「ここがこの地球で一番強い国か」

 アスタロトはニヤリとした。

「ここを潰せば、後は思いのままという事だな」

「はい、アスタロト様」

 瞳もニヤリとした。その時、アスタロトはエンジェル達が五次元に飛んだのを感じた。

「スピカ人め。何か企んでいるな」

 それと同時に、彼はかつての本国であるアークツールス軍の追っ手が迫っている事も気づいた。

「サタンめ、とうとうこの私を消すつもりか。しかし、そんな事はさせぬ」

 アスタロトは上空を見上げ、

「行くぞ、瞳」

 瞳は背中に翼を出した。彼女は只アークツールス人の血を輸血されただけではなさそうだ。

「はい、アスタロト様」

 二人は飛翔した。成層圏まで上昇すると、そこにはたくさんのアークツールス軍の兵士がいた。

「アスタロト、国家反逆罪で逮捕する」

 その一団の隊長が言った。アスタロトはフッと笑い、

「そのような事がお前達如きにできるかな? 瞳、相手をしてあげなさい」

「はい、アスタロト様」

 瞳はそう応じて、凄まじい速さでアークツールス軍に向かった。


 美津子は、たくさんの管を着けられてベッドで眠っている通を見てまたフリーズしそうだった。

「私……」

 酷い事言ってごめん。心の中で泣きながら通に詫びた。

(通が、通が……)

 美津子があまりオロオロするので、久美子が逆に冷静になった。

「美津子さん、しっかりして! 兄は大丈夫ですよ」

「う、うん」

 美津子は力なく微笑み、そばにあったソファに崩れるように座った。

「ドクター、どうなんですか?」

 エンジェルが医者らしきスピカ人に尋ねた。

「何とも言えんな。肉体的には回復しているが、精神的にはまだ危険域だからな」

「そうですか」

 エンジェルは久美子達に目配せして、通が眠っている治療室に入った。信一、香が続き、久美子が美津子を抱きかかえるようにして入った。

「お兄ちゃん!」

 久美子が涙声で叫ぶ。しかし、兄の反応はない。信一が、

「通、起きろよ。冗談はもういいからさ」

と言ったが、通はピクリともしない。

「矢田君、起きて、お願い」

 香の呼びかけにも反応はない。エンジェルは悲しくて見ていられなくなった。

「起きてよ、通……」

 美津子がフラフラしながら通に近づく。

「美津子さん!」

 倒れかけた美津子を久美子が支えた。

「お願いよ。このままじゃ、私、ホントに嫌よ。自分が許せなくなる……。起きて、お願い……」

 美津子は泣いていた。顔が涙でグシャグシャだ。

「起きてよー!」

 美津子は通にすがりついた。それでも通は目覚めなかった。

「通……」

 美津子は通の顔を右手で撫でた。久美子も堪え切れなくなって泣き出した。香も信一にすがって泣いている。晶まで涙ぐんでいる。

「こんなにみんなが心配してるのよ! 起きなさいよ!」

 遂に美津子は悲しみを通り越して怒り出した。久美子達は呆気に取られた。エンジェルも驚いて美津子を見た。

「起きろって言ってるのがわからないのか、このチビィッ!」

 美津子がそう叫んだ時、ドクンと心電図が大きく反応した。

「何だと、このブスがあああ!」

 通が全ての管を引きちぎって起き上がった。

「通!」

 美津子はまた泣き出し、彼に抱きついた。信一達は唖然としている。

「わわ、美津子、どうしたんだよ!?」

「良かったあ、このバカァ……」

 美津子は通に抱きついたままで泣いた。

「お兄ちゃん!」

「通!」

「矢田君!」

「矢田さん!」

「通!」

 皆が、この悪ガキの復活を喜んだ。


「話にならん脆弱さだな」

 瞳はほんの三分で、アークツールス軍の兵士を消し飛ばしてしまったのだ。

「ではもう一度地球へ行こうか」

「はい、アスタロト様」

 瞳が答え、地上に降下しようとした時である。

「そうはいかねえぞ、カマヤロウ!」

と声がした。

「何!? 誰だ?」

 アスタロトはまるで時代劇の悪役のような顔で周囲を見回した。

「その声は!?」

 瞳の形相が険しくなる。

「正義の味方、矢田通様だあ!」

 キランと輝き、彼方から飛翔して来るエンジェルが転移した通だった。

「バカめ、またやられに来たか。愚かな地球人だ」

 アスタロトは鼻で笑った。

「さっきのような訳にはいかねえぞ、カマヤロウ!」

 通は瞳を無視し、一直線にアスタロトに向かい、彼の顔面を蹴り飛ばした。

「ぐわおおお!」

 アスタロトは不意を突かれてこれをまともに食らい、地上に落下して行く。

「アスタロト様!」

 瞳が慌てて救出に向かう。

「あんたは邪魔!」

 通と入れ替ったエンジェルが、容赦なく瞳を殴り飛ばす。

「きゃああ!」

 瞳もアスタロトを追うように落下した。

「同じ過ちは繰り返さないのが、喧嘩屋の鉄則なんだよ!」

 通がアスタロト達を追いながら言った。


 その頃、スピカ軍の医療施設では、今度は美津子が倒れていた。

「しっかり、美津子!」

 香が声をかける。久美子と晶が心配そうに見守っている。

「だからいない方がいいって言ったのに」

 彼女は信一と顔を見合わせた。

「一日に二度も、通が他の女性とキスするのを見たら、ショックだろうからね」

と信一は肩を竦めた。

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