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TORU 史上最強の悪ガキ  作者: 神村 律子
アスタロトの逆襲
13/28

プロローグ 再会

 アタシの名前はエンジェル。おとめ座スピカ星系の住人だ。地球人から見ると、まさに「天使」の姿をしている、所謂「異星人」である。

 以前、地球人の男の子を瀕死の重傷にしてしまい、彼にアタシの血を分けた。そのせいでその子は最強の少年になってしまった。

 そしてその事を敵対するうしかい座アークツールス星系の連中に知られ、その少年を巡っての戦いが始まった。ちなみにアークツールス人は、地球人から見ると「悪魔」の姿に見える。

 当事者である少年矢田通君の活躍(?)もあり、アークツールス人の中の悪意ある連中は一掃された。


 それからしばらく後の事。アタシは、スピカ軍地球侵攻部隊の総司令官であるミカエル様に呼び出された。

「失礼します!」

 敬礼して入室する。ミカエル様に拝謁するのは、何度経験しても慣れる事はない。

「ご苦労、エンジェル。楽にしたまえ」

「は!」

 一歩前に進み、ミカエル様を見る。

「アークツールスとの和平交渉は順調だ。もうすぐ地球を去る事になろう」

 アタシはキョトンとした。

「は? 地球は諦めるのでありますか?」

「そうだ。アークツールスも手を引く事に同意した」

「まさか。連中が諦めるとは思えません」

 ミカエル様は、アタシがそう言うのを見越していたように笑った。

「同意せざるを得ないのだ。地球の住環境をスピカやアークツールスのレベルまで回復させるには、途方もない時間がかかるからな」

「地球が汚れ過ぎている、という事でありますか?」

 アタシの質問にミカエル様はフッと笑い、

「端的に言えば、そういう事だ」

「はい」

 アタシは納得した。地球の住環境の劣化は、目を覆いたくなるものがあったからだ。

「そこでだ」

 ミカエル様はアタシに画像が写った携帯型の3Dグラフを渡した。

「これは?」

「アスタロトが虚空の果てから戻ったらしい。サタンからのホットラインで知らされた」

 サタンとはアークツールス軍の総司令官の名だ。

「アスタロトが?」

 アスタロトこそが、前回の戦いの元凶だ。通君の怒りの鉄拳で、二度と戻れない虚空の果てに飛ばされたはずなのに。

「どうして戻れたのですか?」

「ギリギリのところで踏みとどまったようだ。呆れた執念だとサタンも言っていた」

「はあ」

 私もそう思う。

「奴の狙いは我々ではない」

「え?」

 アタシは嫌な予感がした。

「奴の狙いは地球。いや、通だ」

 ああ、やっぱり。あの粘着男、まだ通君を怨んでいるんだ。気持ち悪いなあ。

「そこで、君に地球に降下してもらい、通の警護に当たってほしいのだ」

「ええ?」

 アタシは故意にではなく、本当にビックリして大きなリアクションを取ってしまった。

「嬉しくないのか?」

 ミカエル様は意地悪な質問をする。アタシが通君に気があるのをご存知なのだ。

「べ、別に嬉しくはありませんが、自分が一番よく彼らの事を理解しているので、適任だと思います」

 アタシは精一杯の見栄を張って言った。ミカエル様には丸わかりだったが。

「それではすぐに地球に降下し、通と接触してくれ」

「了解しました!」

 アタシは自分でも驚くくらい、気分が高揚していた。

 通君に会える! ウキウキしてしまった。


 一方、その矢田通のいる日本。東京の一角にある私立杉野森学園高等部。喧嘩バカの通は相変わらず喧嘩に明け暮れていたが、すでに高校生では相手になる者がいない。彼は教室で椅子にふんぞり返っていた。

「いい加減、喧嘩するのやめなさいよ、通」

 幼馴染で、只一人通を押さえ込める存在の大田美津子が言った。気の強さなら誰にも負けませんという顔つきの美少女だ。しかし通は、

「向こうから仕掛けて来るんだからしょうがねえだろ? 俺だって好きで喧嘩してる訳じゃねえよ」

「嘘ばっかり。喧嘩したくて、ウズウズしてるくせに」

 美津子の皮肉に通は、

「うるせえよ、ブス」

「何ですって!?」

 美津子は通の襟首を捻り上げた。

「もういっぺん言ってごらんなさいよ、このチビ!」

 美津子のその言葉に、近くにいた生徒達が真っ青になって遠くに逃げ出す。「チビ」とか「寸足らず」とかの言葉は、通には絶対言ってはいけない禁句なのだ。

「言ってやるよ、ブス。気がすんだか、ブス!」

「あったま来た! もうあんたとは絶交よ!」

「おう、望むところだ」

 通は歩き去る美津子にベーッと舌を出した。周囲は二人の緊張感に溢れたやり取りを唖然として見ていた。

「美津子、言い過ぎよ」

 同級生で親友の宮田香がたしなめる。彼女はお嬢様な美少女である。

「何でよ!? あいつは私に三回もブスって言ったのよ!」

「あのねえ……」

 呆れてしまう香。

「通、謝った方がいいぞ、美津子さんに。女の子にあの言葉は、酷いと思うぞ」

 小学校からの親友である竹森信一が言ったが、通は、

「冗談じゃねえよ。あいつはもっと酷い事言い返したじゃねえか。何で俺が謝らなきゃならねえんだよ!?」

 通に「チビ」と言って無事ですむのは美津子だけだ。信一は通が口ではああ言いながらも、美津子には本気で怒っていない事を知っている。

「全く……」

 まさに「夫婦喧嘩は犬も食わない」の類いである。


 そして下校時。通は信一と校門を出た。

通兄とおるにいちゃん!」

 そこへピョコンと女子高生が現れた。他校の生徒のようだ。

「おお、瞳じゃねえか? どうしたんだ? 学校は?」

 通がそう尋ねたのは、通の父方の従妹いとこである矢田瞳だった。美津子がきつい感じの美少女なら、瞳はまさしく癒し系美少女だ。

「今日は創立記念日で休みなの。だから、兄ちゃんに会いに来たのよ」

「フーン」

 通は笑顔で応じた。

「あ、この人、信ちゃんね? 懐かしいわあ、何年ぶり?」

 瞳は信一を見て言った。信一は、

「小学校以来だから、五年ぶりくらいかな?」

「そうだね。あの時よりカッコよくなってるよ。彼女いるの?」

 瞳は興味津々の顔で信一に迫る。通が、

「残念だけどいるぞ。お前じゃ太刀打ちできねえよ」

「あらま、ショックゥ」

 瞳はニコニコして言う。彼女は昔からこんな感じで、とても気さくな女の子。信一は苦笑いだ。

「ああ、瞳ちゃん。久しぶりね」

 美津子が声をかけた。彼女は通を全く見ていない。隣の香は呆れている。

「ああ、美津子姉みつこねえ! 久しぶりー!」

 瞳は美津子と手を取り合って喜ぶ。そして香に気づき、

「もしかして、この人が信ちゃんの彼女?」

 そう言われて香はドキッとした。信一はニッコリして、

「そうだよ。僕の彼女、宮田香さん」

「よろしく」

 香は信一の紹介にホッとして挨拶する。瞳も香に微笑んで、

「矢田瞳です。よろしく」

 そしてしばらく女三人の止め処ない会話が続いた。

「行くぞ、信一」

「あ、ああ」

 呆れた通が歩き出す。信一も仕方なく彼について行く。

「ああ、待ってよ、通兄ちゃん!」

 瞳が追おうとすると、

「放っておきなさいよ、瞳ちゃん。それより、どこかで美味しいものでも食べない、久美子ちゃんも誘って」

「ああ、それいい! 行こ行こ、美津子姉」

 三人はペチャクチャ喋りながら、通の妹である久美子がいる中等部に向かった。


「はァい!」

 通は突然現れたその金髪の美少女に仰天した。

「て、天使女?」

 通の前に現れたのは、地球人の女の子に変装した、スピカ人のエンジェルだった。

「またその呼び方する! 怒るよ、ホントに!」

 エンジェルは口ではそう言いながらも嬉しそうだ。

「信一君も元気そうね。香ちゃんとはうまくやってる?」

 信一はニコッとして、

「おかげ様で。エンジェルさんも、相変わらずお奇麗ですね」

「あらん、ありがとー。でも、香ちゃんに悪いから、お礼のキスはしないわね」

 エンジェルがあまりにハイテンションなので、通も信一も引き気味だった。

「何しに来たんだよ、お前?」

 通は素っ気ない態度で尋ねた。エンジェルは苦笑いして、

「実はさあ……」

と来た理由を話した。

「またかよ」

 通はアスタロトの顔と声を思い出してうんざりした。信一が、

「で、そいつはもう近くまで来ているの?」

「多分ね。でも、アスタロト達は地球の環境に私達ほど適応していないから、長時間はいられないはずなんだ。いるとしても、何もできないとは思うんだけど」

 エンジェルが考えながら言うと、通は、

「だったらお前も来なくていいじゃん。それにあのカマヤロウは、一度ぶっ飛ばしたんだから、心配いらねえよ」

「相変わらず冷たいんだから、通は。そんなにアタシが嫌いなの?」

 エンジェルが通に擦り寄って尋ねると、通はビクッとして、

「こら、引っ付くな!」

と逃げた。エンジェルはケラケラ笑って、

「何よ、美津子ちゃんが怖いの?」

「だ、誰があんな奴、怖いもんか!」

 ムッとする通。信一は肩を竦めた。エンジェルは真顔になって、

「アスタロトは強くなってるよ。あのサタンが警戒するように言って来たくらいだから」

「サタンが?」

 通もサタンの事は覚えている。絶対勝てないと思った相手だ。そして、「強くなっている」という言葉が、通の闘争心を掻き立てた。

「面白そうだな。どのくらい強くなったか、確かめてみるか」

「あんたねえ……」

 エンジェルは思い出した。このバカはこういう奴だと。

「え?」

 エンジェルが急にビクンとして周囲を見回す。

「どうした?」

 通もそれに釣られて周りを見た。信一も警戒する。

「おかしいな、あいつの気配が微かにしたんだけど。消えちゃった」

 エンジェルは首を傾げた。通は舌打ちして、

「何だよ、役に立たねえ女だな」

「五月蝿いよ、全く!」

 エンジェルはキッとして通を睨み、

「アスタロトの奴、地球に降りてるよ。あの気配は、そう遠くなかったから」

「そうか」

 途端に嬉しそうになる通である。

「でもどうして消えたんだろう? 三次元から出たのなら、その痕跡は残るはずなのに、それもないし」

 エンジェルは考え込んだ。

「まあ、あんまり心配するなって。あんなカマヤロウ、どんだけ強くなっても俺の敵じゃねえよ」

 通はニヤッとして言った。エンジェルは溜息を吐いて、

「だといいんだけどね」

と呟いた。

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