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最終話 牢獄か揺り籠か

「それを理解してくれているのなら問題ないよ。帰りはこの上の階の魔法陣を使って。何匹か魔物を駆除しておいたからすぐに動くと思う」


「……もう一つだけ教えてもらっても良いですか?」


 つい去り難さを感じてそう問いかける。


「……何かな?」


 終わりにしたくはないと感じていたのは主も同じだったのか、気恥ずかしそうな苦笑いを浮かべながら続きを促してきた。


「前回この迷宮に隠されているものが兵器だと教えてくれた時に、あなたは私に『共犯者になってもらう』と言いました。それはどういう意味なのですか?」

「それのことか。迷宮を作り、あの兵器の数々を隠したことが罪だからだよ」


 主はさも当たり前のことのように言ったが、先生には意味が分からなかった。


「なぜです?危険な兵器を管理するのは当然のことでしょう」

「先生は兵器という言葉に捉われ過ぎているね。つまり当時最高の技術で作られたものを危険だという観点のみから隠してしまったんだ。しかも誰にも相談することなく僕たちの独断でね。ついでに言うとこれらに技術の中には開発者が亡くなっていたりして、現物がなくては再現ができないものも少なくなかった」

「確かに復興に役立つような有用な技術も多くあったでしょうが、あなた方の判断が間違っていたとは思えません。実際に魔王という枷がなくなったことで、いくつもの国家間で領土問題が再発しています。つまりかなり高い確率で魔王を倒した兵器が同じ人間に向けられる可能性があったということです」


 下手をすれば二百年前の大戦以上の大戦争になり、世界が滅亡していたかもしれない。が、


「そうだね。僕たちも結局それを危惧して実行に踏み切ったようなものだから。それでも僕たちの罪が消えることはない」


 主は自分が罪人であるときっぱりと言い切ったのだった。


「……分かりません」


 先生はその言葉に俯いていたが、納得がいかないと表現するようにその全身は小刻みに震えていた。その様に主は再び優しい微笑みを浮かべて言った。


「これは僕たちの観念的な問題だから……先生を巻き込んで悪かったね」

「望んでやったことだから私のことは良いのです!しかしそれではまるでこの迷宮はあなたを捕える牢獄ではないですか?一体いつになればあなたは救われるのですか!?誰があなたを助けるのですか!?」


 いつしか先生の両目からは涙があふれていた。


 悔しかったのだ。


 魔王を倒し、人々に笑顔をもたらしたはずの英雄の末路がこれではあまりに残酷ではないか。


「……先生は優しいね。あなたのように泣いてくれる人がいるだけで僕は救われているよ。それにね、いつか必ずこの迷宮から解き放たれる日が来るって僕は信じているんだ。そこはきっと想像もつかないような面白い事がいっぱいの世界だよ!」


 無邪気に語る彼の声に嘘を吐いているような気配はなかった。

 先生は主とは違う未来を思い浮かべたが、すぐさま頭を振ってそれを打ち消した。

 現在を生きる自分には過去を変えることはできないが、彼の思い描くような未来に近づけることはできる。

 どうせなら彼をこの迷宮に追いやっておきながらそのことに気付きもしなかった人々が羨むような未来を作り上げてやる。


 先生は覚悟を決めた。


「いつかまた会いましょう、なんてできもしないことは言いません。でも、あなたが生きる未来が素晴らしいものであることを約束します」


 もちろん先生一人でできることはたかが知れている。

 しかし、この迷宮や主について調査する中でできた人脈――と大陸各地の遺跡の調査や発掘によって得た少なからぬ富――を用いれば未来への礎を築くことができるはずである。


「期待させてもらうよ」


 楽しそうな主の声に先生は頷くと深く一礼をした。

 そして振り返りゆっくりと、だがしっかりとした足取りで部屋を出て行くのだった。

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