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妹視点

感情のしこりが蒸散して、心の底から熱い感情が浮き上がってきた。

出会いが感情を揺らして、目覚めようとしていた。

人形のままで生きたくない、強い感情が宿った。

「私達は双子なの?」

姉さんが言った。

「と、思うよ。本当かどうかはわからないけど」

真実は後から作ることもできる。

過去は常に改竄可能だ。

もしかしたら他人で、顔も体型も似ているだけかもしれなかった。

「分からないのね?」

「産まれた時は赤ん坊だったから」

姉さんはクスッと笑った。

「そうね。体験したかもしれないけど覚えていないもんね」

「うん」私の耳に異音が届いた。城から出て行く時に誰かに後をつけられたのだろうか。「誰か来た」

「本当?」姉さんは耳を澄ませた。「凄い耳が良いのね」

私は教育というものを受けたことが無い、だけど他の部分で補ってきた。

注意深く観察する、という事だ。

それが私の処世術だった。

「会えて良かったわ、姉さん。でも、私には何もできないの」

それは事実だった。

私の存在を利用する人達がいる。

意にそぐわなかったら何をされるか分からなかった。

私は少し笑ってしまった。

私は、私の正体も分からない、本当は姉さんの妹でもないのかも知れない、そんな存在があやふやな私が利用されようとしている。

この反乱劇が空虚な茶番のように思えてきた。

「私も会えて良かったよ」

姉さんはそう言うと走って逃げた。

悪い人ではなかった、良い人だと思った、きっと幼い頃から一緒だったら私達は仲の良い姉妹と言われただろう。

遠くで声がした。

「あっ、サウロ」

「お嬢ちゃん、待って、腹が痛い」

どうやら待ち合わせも成功したようだ。

「私は姉さんの味方をだからね」

独り言が虚しく響いた。




兵士たちが次々に現れ、若い男が引き摺られて現れた。

どうやらこの男に反撃されて、姉さんの追跡が後手後手に回ったようだ。

「あっちに行った」

私は姉さんが逃げた先を教えた。

当然、嘘をついた。

「あちらも調べろ。あっちもだ」

兵士が言った。

私の事を疑っているのは分かっている。

「ラウル、お前も終わりだな」

若い男はラウルと言うらしい、私の正体に気づき姉さんを助けてくれた騎士だ。

私の顔を見ると憎しみの感情をぶつけてきた。

ラウルは大木に縄で縛り付けられていた。

兵士たちが周囲から消えていた。

「無駄な抵抗しないほうが良いよ」

「お前」

「姉さんはサウロって人と合流できたみたいだから」

ラウルはそれを聞くと私の顔をじっと見た。

考えているようだ。

私が何を思ってそれを言ったか推し量っているようだ。

「君の両親は健在?」

「ああ」

「両親の命が大事だったらこれ以上逆らわない事ね」

「なっ!」

当然だよ。

そんな事も考えていなかったの?

人と人は連なっているんだよ。

誰かが逆らうと、誰かに皺寄せがくる。

「私を助けて」

彼なら信用できる気がした。

「私はまだ死にたくないの」

ラウルが返事をする前に、かん高い声が響いた。

私の育ての親の母だった。

血走っな目、頭髪は白黒のまだらになって、若作りをしたような高い声が耳障りだった。

これでも育ててくれた。

その事実が憎しみを和らげ、突然の暴力も我慢できた。

ラウルの前で頬を張られて、私は植物園の香る花園に倒れた。

ドレスに花粉が付いたのだけが気になった。

汚れを落とすのが大変そうだった。

「何を勝手な事をしているの!」

「ごめんなさい、お母様」

「余計な事をしないでって、毎日言っているでしょ」

爪の伸びたビンタが痛かった。

「ごめんなさい」

私は抵抗しなかった。

育ての母の暴力が過ぎる頃に、私と二人っきりになったラウルが口を開いた。

「死にたくないのですか」

「当たり前でしょ」

「分かりました」

ラウルの口が小さく開いた。

何か温かいものが宿る気がした。

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