42日目 声と引き換え
※食事しながら読んでいる方、汚いものが苦手な方は、読まないで下さい。
小学生の頃いじめられていて、中学に入って逆にいじめ返した結果、いじめ中毒者になった堀口さんのお話です。
2,041文字
「お……お待たせいしましせた!」
「お使い御苦労様。」
ジュースを9本抱えて持ってきた綾崎を一瞥して、労いの言葉をかけてやった。
「あ、あう堀口様……ジュース開けさせて、いぃ頂きますぅ。」
相変わらず鈍臭い綾崎を、私は鼻で笑ってから、机の上で足を組み替える。
「早くして。さっきからずっと喉乾いてんだから。」
「は、はい」
モタモタしながら缶コーラを開けたのを見計らって、私は綾崎の腕を蹴る。すると、一瞬の出来事に反応出来なかった綾崎は、缶を手放してしまい、床にぶちまけてしまう。
「鈍臭いわねぇ……、早く違うの開けてよ。こっちは喉が渇いてて死にそうなんだから。ねぇ?」
床に転がる空き缶を見下ろしてる綾崎を、机の上で見下ろしていた視線を上げて、私は周りにいる仲間に同意を求める。
空気の読める皆は、同じく綾崎を見下ろしながら、ヘラヘラと笑っていた。
周りと楽しく綾崎を蔑んでいる内に、綾崎は新しいジュースを開けていたようなので、気が付いた私は受け取る。
人を見下す事に、快楽をおぼえ、ジュース飲みながら私は、楽しくて笑っていた。
すると、私にとって手下達であるうち最近反抗が目立つ3人が、私の前に立った。
「……堀口さん、もうやめませんか?前、やり過ぎて自殺しちゃったじゃないですか。」
「私もう、嫌です。」
「次は貴女達でも良いのよ?」と、笑みを浮かべながら言うと、3人は黙って後ろに下がった。
そう、皆自分勝手なのだ。反抗したら次は自分が被害者になると分かると、引き下がる。それが当たり前なのだ。
私自身も、間違った事をしているんだってことは理解している。
でも、1人の犠牲がある事で、私の世の中は楽しくなるのだから、止められるはずがない。これしか楽しみが見いだせないのだから。家は退屈で詰まんないし、一致団結して楽しめる事は、こんなのしかないから。
そう心の中で言い訳していると、何故か急にお腹が痛くなってきた。
ちょっとの痛みなら我慢出来るんだけど、たえられないと悟った私は、机から降りて、解散命令を発した。
仲間は不思議そうな顔をしていたが、私は皆を無視して部屋を出た。
解散してすぐ、誰も来ないであろう3階のトイレに向かった。
腹痛が辛くて、トイレで引きこもっていると、廊下の方から足音が聞こえてきた。
そして、最悪な事にトイレで出してる途中、誰かがトイレに入ってきたので、思わず息を止める。
臭ってることについて、焦っていた。しかし、まだお腹が痛く出れそうにない。
足音と人の気配は、私の個室の前で止まった。
「ほっりぐっちさん♪」
何故か足元の辺から場違いな声が聞こえたので、下を見た。すると、四角い黄緑色の物体……スマホがドアの外から入ってきてて、カメラのシャッター音が鳴り響いた。
「……ひっ、なにっ?誰よ、消して……消しなさい!!」
私がパニックを起こしながら叫ぶと、今度は強くドアを叩くような音が何回か聞こえたあと、頭上が暗くなったのに気がつき、上を見上げる。
すると、私が最近いじめていた子……綾崎が、混乱してる私を見下ろして、可笑しそうに笑いながら、ドアを乗り越えて入ってきた。
「なっ……何するつもりっ!?」
そして、腹痛で動きが鈍くなってる私を押さえつけて、綾崎は何も言わず、ビニールテープで身動きが不自由になるように私の両腕を結ぶ。
暴れて何とか逃れようとする私の、鼻の穴を手で塞ぎ、お茶を飲ませニヤリと不気味に笑った。
すると、何故か喉が熱くなり、痛みを感じ始める。喉の焼けるような痛みに我慢出来ず咳き込みながら、苦して力が抜けてトイレの床に座り込み、綾崎を見上げる。
「な゛……、わたしに゛何を゛……飲まぜだ??」
その問に綾崎は答えることなく、嬉しそうに私を見下ろしていた。そして、
「まえ、死んだ子が私の親友だって覚えてるよね?そして、庇ってた私が次の標的になったことも。」
私は、どうにか助かりたくて、首を横に振る。すると、綾崎はそんな私を無視して
「ずっとこの日を待ってたの。その毒、少しずつ体を蝕むと思うから、彼女と同じ苦しみを少しは感じられると思うの。彼女の苦しみを……死を持って、罪を償ってね。」
そう言いながら、個室の鍵を開けてトイレから出ていってしまった。
その後私は、すぐ死にものぐるいに、痛む体にムチを打って、蛇のように体を動かした。朦朧とした意識の中たまに吐血しながら、階段を降りている際、先生が私に気がつき、なんとか命は助かったのでした。
毒によって声は、もうダミー声しか出なくなってしまっていたが、私は生きていれる事に、一応感謝しています。
もう声は元には戻らない。
声の事でいじめられることは無く、事情を知ってる皆は、むしろ私を可哀想な人として扱い、避けられるようになりました。もともと友達が1人もいない私はもう、イジメようとは思わないし、見ても関わらなくなったのでした。
ちなみに、毒を盛ったあの子は、私の声を奪ってすぐ、近所の踏切に飛び込んでバラバラになったらしい。
フィクションです。




