36日目 寂しい
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私が小学生の頃、近所に結子さんと言う名前の、優しいお婆ちゃん居ました。会うとキャンディーをくれたり、近所に年の近い子がいない私は、よく結子さんに遊んでもらっていました。
しかし、中学生に上がってからは、部活やら遊びに行くやらで、自然と結子さんと関わる機会はなくなってました。
そして高校3年生になった夏休み中である数日前、結子さんが亡くなられました。
朝から行われた葬式が終わり、一緒に参加していたお母さんは、大人同士の話があるからって、私を先に帰らせたのでした。
なのでその時私は、1人真っ暗な玄関で靴を脱いでいた。
「アイちゃん。」
聞き覚えのある高くて掠れた声が聞こえてきたので、私は振り返る。すると、玄関のドアに白い人影が見える。
「……え?」
「アイちゃん。遊ぼ。」
そう、この声は……優しく微笑んでる時の声だった……。
「ゆい……子さん?」
そんな分けない……。そう、自分に言い聞かせるが、つい返事をしてしまった。すると、結子さんはうふふと掠れた声を漏らしてから
「アイちゃん。ねぇ、どうしたの?元気ないの?お母さん、今日も帰り遅いのかい?お婆ちゃんが面倒見てあげるから、ここ……開けて?」
「げ…元気だよ?心配しないでっだ……大丈夫だから…。」
小さい頃から大好きだった優しい声なのに、この時は何故か寒気がして、体が震えだして、本脳が「逃げろ。開けてはならない。」と、訴えていた。
動こうとしない私に痺れを切らしたのか、結子さんは全く動いてないのに玄関のドアを強く叩きながら叫び声をあげた。
「あ~け~てぇぇぇぇえええ゛!!」
「いやっ!貴女は死んでいるの!!生きてないのよ!!」
この目で死体を見た私は、この手で花を添えた私は、大好きだった結子さんはこの世にはもういない。と、言う事を理解していた私は、この雰囲気が変わり果ててしまってる実態のない結子さんが恐ろしくて仕方がなかった。
「あ~げ~でよぉぉぉぉぉおおお!!!」
「嫌ァァァァァァアアアアア!!!」
なので、玄関を開けることない。本当は玄関を離れて、部屋の毛布で隠れてたいが腰が抜けてて、その場から動けなかった。
早くどっか行って。消えて欲しいと願いながら蹲ってると
「寂しい……よぉ……アイちゃん…………。」
消え入るような声が聞こえ、気配も言葉に合わせて消えていった。
「結……子さん……?」
玄関を開ける。
「あれ…居ない……。」
そう思って一安心した私は、玄関のドアを閉めてから、部屋に戻ろうと方向転換した。すると、そこには結子さんが居て……
「アイちゃん。開けてくれて……ありがとう。」
葬式の写真となんの変わらない、優しげな顔でそう言った。しかし、その時の私には恐ろしく不気味に感じて
「きゃぁぁぁぁああああああ……!!!」
悲鳴を上げて気絶してしまったのでした。
暫くして、いつの間にかお母さんが帰ってきていた。気絶していた私に驚いて、お母さんは大きな声を上げながら私を強く揺すってた。
「アイ、アイ?どうしたの!?」
目を開けると、心配そうな顔をしたお母さんがいた。すぐ、その事を話したが信じてもらえず、夢を見たのね。で、終わったのでした。
今前向きに考えると、結子さんは別れの挨拶をしに来ただけだったのかも知れません。
悲鳴を上げて、意識が途切れてきていた時、結子さんは悲しそうに微笑みながら
「幸せになってね」
と、言っていた気がしたから。
フィクションです。




