34日目 思い出
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4年間の大学生活を終え、なんとか会社に就職できたのだが、その仕事は自分に合ってないのではないか?と言うのが、当時の悩みだった。
仕事の内容は教わったので、その基礎……パソコンにデータを打ち込む作業を繰り返す日々。それだけなのだが、先輩や上司の目が気になって仕方ないので、無意識のうちに肩の力が入り、家に帰る時には肩が痛くて仕方ない。
ゴールデンウィーク中だといっても休みじゃない事と、前日仕事中に初歩的なミスをしてしまった事を思い出してしまい、ストレスを感じながら、オレンジ色のベンチに座って電車待ちしていた。
電車が来るとアナウンスが聞こえ、昨日よく眠れなかったのでよろめきながら立ち上がった時、後ろに立ってた誰かにぶつかり線路側へ、倒れかけた。
姿勢を整えて電車に轢かれる事は無かったが、電車のブレーキ音が聞こえる中、生命の危機を感じた俺の心は完全に折れてしまった。
このままストレスフルな日々を送っていたら、もしかしたら今度は自ら命を絶ってしまうのでは?と、不安が過ぎった瞬間、物凄く家に帰りたくてしょうがなくなった。
そう考えついたら、居てもたってもいられず、一人暮らしのアパートに帰り、上司に仕事辞めたいと理由も踏まえて、電話で相談した。すると、辞めるのを止められ、5日間休暇をいただき実家に帰らせてもらえることになった。
その時の上司は、一方的に仕事を押し付けるだけじゃなく、部下を見捨てること無く、面倒も見てくれる物凄く良い上司だった。今でもその上司には感謝している。
「今日家に帰る」と、電話で伝えた後すぐ荷物を持って、電車に乗った。……事は覚えているが、電車を4回ほど乗り換えたはずなのにその記憶は無い。
いつの間にか着いていた懐かしき実家に入ると、母と父は何も聞かず迎え入れてくれた。
4年ぶりに入った自分の部屋は、寮生活のため出て行った時から何一つ変化が無かった。俺の私物が置いてった時と同じように変わらず、そこに置いてあった。
その日は4畳半と言う小さい自分の部屋で、夕ご飯を食べて、柔らかい布団で気絶したように眠りについたのでした。
それから2日間、部屋で特に何もする事無く、壁を眺めたり窓の外を眺めたりなどして、時間をつぶしながら過ごした。何もしなくても母は、何も言わず、ご飯を運んできてくれた。
4年前までは当たり前だった事を、味わい噛みしめた。
しかし夜中、体が疲れていないせいか、かすかに聞こえてきた物音に目が覚めてしまう。
寝ているそばで硬い物をひっかいているような変な音が聞こえてくる。しかしその時、どうせ猫だろうと思って目を瞑って再び眠りについたのだった。我が家は猫なんて、飼っていないのに。
4日目、2日間何もしないで過ごしたお蔭か、嘘のように体が軽くなっていた。なので、今までやった事無かったのだが、朝から夕ご飯まで母の手伝いをし、夕飯は父と一緒にビールを飲んだ。
帰って来た当日、変わり果てた俺を見て、母と父は驚いたと言う話を聞きながら、父が持つコップにビールを注ぐ。父は軽く「ありがとう」と言葉をこぼしてから、ビールを口にした。
コップ2杯アルコールを入れた事により、ほろ酔いなりながら布団に寝転がる。
時刻は深夜1時。こんな時間まで父と話し込むなんて思いもしなかった。家を出るとき、若干喧嘩するように家を出た。
なので、今回の事になるまで家に帰ることはなかった事に(意地になっていないで、たまには家に帰って、こんな感じに話をすればよかったな)と、後悔しながら、何故喧嘩になったのか忘れていたまま、目をつぶった。
で夜中、夢を見た。
いや、夢かどうかは分からない。真黒な闇の中から、甲高い声が聞こえてくる。水中みたいなひんやりした温度の中、鈴の音、猫の声、が聞こえてきていた。心地いいような、懐かしいような感覚になっていたのを今でも覚えている。
しかし、そんな心地のいい夢は、大きな雑音によって打ち消された。
硬いものがぶつかった様な、大きな物音が聞こえてきたので、目を覚ます。
「な……なんだ?」
目の前で寝ている布団の、横にある押入れが大きく揺れている。地震が起きた時のように、左右に大きく音を立てながら揺れている押入れを、驚きすぎて俺はただ見ている事しか出来ない。それと同時に爪で引っかいているようなガリガリという音も聞こえていた。
まるで押し入れの中に何かが閉じ込められていて、必死に外に出ようと、もがき抗ってるかのように感じられた。
頭の中に直接聞こえてきているのではないか?と錯覚してしまうほど、響き渡っている。
それを聞き続けパニックになった俺は、声を荒らげる。
「やめろ!やめてくれ!!」
何も答えず、押し入れは目の前で震え、音を立て続ける。
「俺が……俺が何したって言うんだよっ……!!」
そう言った瞬間、全てが止んだ。押し入れが揺れる音も、悪寒がする硬いものを引っ掻く音も聞こえない。
大きな音が消え、急に音がなくなったせいで、耳鳴りの音が聞こえるだけになった。
俺は張り付くような汗を拭いながら、空気を大きく吸って、押し入れを見続ける。
本当はただの地震で、寝ぼけていたから、押し入れだけが揺れたと勘違いしたのではないか?と、思った瞬間、押し入れの戸が横にズレた。目の前で戸が開き始めたのを見て、俺は急いで押し入れの戸を開かないように押さえる。
しかし押さえきれず手が滑ってしまい、目の前で勢いよく押入れが開いだ……
「……ひっ!?」
青白く光る何かが、俺の目の前に落ちてきた……。
と、言う事があった気がして、朝。目を覚ました時、押入れの方に目を動かして見てみた。しかし戸は、いつも通り最後までしっかりと閉まっていた。
(夢だったのか。)と安堵しながら、毛布を畳もうと立ち上がった時、足元に煎餅の入れるアルミの箱が落ちている事に気がついた。それを拾い上げ、開けてみる。
中には昔大事にしてた、今見るとガラクタのような玩具が数個入っていて、思わず1つ1つ手に取って、猫じゃらしを模した猫用の玩具が出てきたのを見て、野良猫を餌付けしだ俺達は、コレで遊んだな。とか、この玩具をかけて勝負をしたな。とか、1つ1つにこもった思い出を思いだしていた。
「……何だコレ?」
一番下に何やら薄黄色に古るけた封筒が有ることに気がつき、俺は拾い上げ、封筒の中身を取り出す。
そして、紙に書かれた文字を読んで、涙を零したのでした。
大事な手紙なので、全ては書きませんが、「将来の〜君は、元気にしてますか?」から始まって、「そんな〜君が大好きです。」と終わりに書かれている手紙を、今でも大事にしまってあります。
5日目はもう、夜起こされること無く、静かに眠れ。6日目、元気になった俺は、両親にお盆にはまた帰る。と伝えてアパートに帰りました。
で、現在ですが
本当に、休ませてくれた上司、俺を向かい入れてくれて両親、思い出の中の猫や彼女には、今も感謝しています。
あれから俺は元気になり、仕事にやりがいも感じられるようになり、頑張ろうと思えるようになった。
今じゃ、夜中に押入れが開いて箱が落ちてきたのは、彼女か猫が俺に、あの手紙を読ませようと、励まそうとしてくれてたのではないかな?と、勝手に思ってます。
【猫と彼女の説明】
猫と彼女は死んでいます。
猫は、俺と彼女が8歳の時に見つけた捨て猫で、家で飼えないので野良猫に餌付けをする形になりました。そして俺と彼女が14歳の時に突然姿を消しました。その時、悲しみながら、親がよく食ってる煎餅が、入っていたアルミの箱に思い出として玩具をしまったのを今でも覚えている。
彼女は、俺が18の時に事故で亡くなった。
自己の悲しみにより、俺は親に八つ当たりをしながら、大学に進学することになる。(一生帰らないうもりで。)
で、あんな不思議なことを目撃して元気になりました。end
フィクションです。




