32日目 電話中に聞こえてくる声の主
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高校の時から気になっていた彼女に、成人式で告白した。そこで俺と彼女は晴れて恋人同士となったのだが、付き合い始めた時から日課になっている寝る前にする電話をしていた時の事だ。
いつも通りに、パジャマに着替えながら俺が合図地を打っていると、突然彼女が声を潜めてこう言ってきた。
【ねぇ、シュウ君……今テレビつけてたりするの?】
寝る前にテレビを見ると、睡眠の質が下がってしまうので、もちろんテレビなんてつけてない。
「いや?つけてないけど……。」
【……そう、じゃあご家族の方かしら】
「いや、1人なんだけど……どうかしたか?」
【嘘はやめてよ、はっきりと聞こえてんだからね?まさか……隠すって事はやましい事があるって事!?】
電話越しで彼女がヒステリックに声を荒げてはじめた中、俺は辺りを見渡す。彼女の声からして嘘を付いているようには聞こえないのだが、やはり部屋には俺以外誰も居ないし、電子機器も天井から照らしている電気しか付いていない。
「おいおい、信じてくれよ……俺以外誰も居ないんだって。」
【嘘っ聞こえているもん!女性の泣き声が!!】
「じょ、女性の泣き声……?」
もちろん俺の耳には、そんな声は聞こえない。聞こえてくるものと言ったら、隣の部屋に住んでいるオッサンの、馬鹿デカい笑い声くらいだ。
「俺には何時ものオッサンの笑い声くらいしか……【もう知らないっ!!】……切れちゃった。」
一方的に文句言われても、何が何だか分からない俺は、気晴らしに冷蔵庫で冷えたビールを手に取り、数本飲んだのでした。
500ml入っているビールを3本開けた頃には出来上がっていて、目が覚めた時には覚えていなかったのだが、友達に愚痴りながら電話をしていたらしい。
友達曰く、その時俺の電話の先からは女性の泣き声が聞こえてきていたみたいで、それについて俺に尋ねたら、問答無用で電話を切られたらしい。
お酒の力って怖いものだ。自分自身でも驚くくらい、ここまで最悪な人間になっていたとは……次はしない様に気を付けようと思ったのであった。
そんな感じで、酒で記憶をなくしている俺だが、一つだけ覚えている事がある。
もう寝ようと考えて、イライラしながら後ろを振り返った時、後ろに見覚えのない女がいた……それだけの事だ。
フィクションです。