29日目 悪戯?
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朝食のパンを食べながら物呆けていると、コンコン…と、ドアをノックするような固くて軽い音が聞こえた気がした。
「こんな朝早くに誰なんだろう?」
そう思ってドアスコープから外を覗きみるが、今日も誰も居ない。
こんな不思議な日常は、引っ越してきて2日目の朝から始まった。初めは気のせいだと思っていたが、毎朝必ず玄関のドアをノックされる。3日目は2日目と同じくノックだけだったが、4日目はそれと、郵便ポストに私宛では無い手紙が入れられていた。5日目は更に増えて、ポストは手紙だらけ。
このままじゃ、エスカレートするのではないかと考え、体を震わせた。
不気味に思った私は今日も、大家に聞いてみようと考えたが、大家は決まって何時も留守だった。(……仕方ない、今度こそ明日にしよう。明日も大家がいなくて悪戯が酷いようだったら最悪、実家に帰れば良いんだし。)なんて事態を軽く考えながら、その日もゴミを捨ててから仕事に向かい、仕事が終わったら問題の部屋に帰ったのでした。
しかし次の日(6日目)……何時もとは違く、ポストは空のままで手紙が入れられてない。何時もの時間帯になっても小さなノック音が聞こえない。その事により、やっと私は、前の人が引っ越したって気が付いたのだろうか?そう考えて、安堵したのでした。
引っ越して7日目の朝
その日は仕事もないので、ゆっくり出来るはずの休日の日なのだが、騒音により起こされることになった。
いつもなら2〜3回だけしか叩かれないはずのノックの音が鳴り止まない。それどころか呼び鈴が、無造作に鳴らされる。
「な……なによ!?何なのよっ!!」
普通なら、ここまで騒がしいと隣人の人が恐がって通報してくれるものだと思うが、残念ながら左右の隣の部屋、上下に接している部屋は元々誰も住んでいない。
自分を守れるのは自分だけだ。震える体に鞭を打って、机に置いてある携帯電話を拾い上げて、なんとか警察に電話する事が出来た。
電話できた事によって、少し余裕が生まれた私は、今なら犯人の顔がドアスコープから見えるんじゃないか?と恐怖より好奇心が勝った。今はドアをノックする音は無くなり、代わりにドアノブを上下に動かす音が聞こえてきている。ドアノブを持っているなら、どうやったとしてもドアスコープから姿が見えてしまうだろう。
そう思ってドアの前まで歩いてきた私の目の前で、ドアを閉めている鍵がぐるりと一回転した。
ガチャリと重い音を出した瞬間、無造作にならされていたチャイム音がピタリと止む。
「……なっ!?」
ありえない光景に私が、息をする事も忘れていると、ドアノブが斜め下に傾き、静かにドアが開き始めた。
本能が(これはヤバい)と、警報を鳴らす。一瞬体が動かなかったが、慌てて動かしてなんとかドアを押さえる事に成功した。しかし、予想していたより相手の力が強すぎて簡単には閉まらない。どうにかしなきゃ……。焦りに上手く動かない頭をフル回転させながら、目だけを動かす。
すると、普段はめんどくさくて使っていないドアチェーンが視界に入った。
それを見て(ドアチェーンでも閉められれば!)と、考え手を伸ばした瞬間……ドアが開き、腕が出てきた。その腕に自分の腕をつかまれ、私は完全にパニックを起こし悲鳴をあげながら必死に抵抗する。
「…………っ!!?」
その抵抗している途中、離してもらえるために無我夢中になっていた私が、掴んできていた腕を引っかいた。その瞬間、相手の力が抜け何とかドアを締めることができ、私は何とか2つ鍵を閉めて、チェーンを上下につける事に成功した。
それから数分後、警察がやって来てくれたおかげで私は何とか無事だった。
(触れられた……あれは、お化けなんかじゃなくて、人間なんだと)思って、犯人の手を引っ掻いたことを思い出す。
それを警察に言おうと考え、呼び止めた。
しかし、偶然か分からないが若い警官の腕……ちょうど引っかいたあたりに、傷があるのが見えて私は絶句してしまった。
結局この事は言わないで、やっと会えた大家に訳を話して、アパートの契約は解除させてもらってから、しばらくは実家で過ごすことを決めたのでした。
最近友達から聞いて知ったのですが、まえの住人は、悪質なストーカー被害の末、行方不明になっているらしいです。
フィクションです。