26日目 本当に怖いのは人の恨み。
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その日、成人式から2年ぶりに、高校時代の同窓会が開かれていたが、22時という良い時間になり、一次会はお開きとなった。
酒に酔った同級生たちが二次会に行こうとしている中、カエデ、ヤヨイ、キョウカ女性3人。俺、ケイゴ男性2人を合わせて5人組で、ヤヨイの提案で肝試しを行くことになった。
ヤヨイとキョウカ以外の2人とは2年ぶりにあったが、俺達5人は高校の時のイツメンで、俺は今もコイツ等とは仲が良い友達だと思っている。
「アオ~キョウカ~?早く来いよ。帰りさらに遅くなんぞ~。……ねみぃ~。」
ケイゴがあくびをしながら、カエデが運転する車の窓から顔を出して、重い荷物を持った俺に声をかけた。
出来れば声をかけるだけじゃなく手伝って欲しいと思ったけど、ケイゴも酒の飲み過ぎで足をフラフラさせていたので(邪魔になるだけだな)と考えて、やっぱやめた。うるさいケイゴを無視して
「はいキョウカ~。歩こうね~。」
「うるさい。歩いてるわぁアオ。」
(歩けてないじゃん)
俺は、重い荷物を引きずりながら、カエデが運転する車に乗り込んだのでした。
深夜の道路。山道と言う事もあってかすれ違う車は2台だけだった。木々が生い茂っている為街の光が届かず、車のライトの光しか地面を照らすものはなかった。
「しかしまぁ、カエデが心霊スポットに行くことを止めないとは思わなかった。」
そう俺が口に出すと、隣で運転している(どちらかというと典型的な委員長キャラだった)カエデは、苦笑いした。
「どちらかというと、そういう事は注意する立場だったからね。危ないし。関わりたくなかったし。正直今も怖くてしょうがない。
でも、ヤヨイとキョウカは昨日もあっているからともかく、アオくんとは今回みたいに2年間、また会えないかもしれないじゃん?どうせなら忘れられないような思い出を作りたいな~。頭でっかちな事を言ってられないな~って思ったんだ。」
「そっか。……たのしみだな。」
酔っているせいか、年のせいか少し目がウルッとしていると、カエデがブレーキを踏んだ。
……どうやら目的地に着いた様だ。俺達は、寝てしまったヤヨイとケイゴの頭を叩いて起こしながら、車から降りた。
そこは心霊スポットとして有名な、山奥にあるトンネルだった。
高校の時住んでいた家とはかなり遠い所にある。二時間くらいの所。……俺が今住んでいる町の近くにある山のである。
こういう物は、一度は行ってみたいなとは思っていたが、仕事の都合により中々行けなかったので、そこを皆で来れた事に、俺は正直浮かれていた。……が
「おいおい……まじ怖いんすけど。」
「ケイゴ、俺もここまでリアルに怖いとは予想してなかったよ。」
怖いものは怖かった。男2人、恐怖で尻込みさせている中
「ねぇ、カエデ~早く行こうよ~。」
「まって、今録画始めるから。」
「そのスマホ、私と一緒の機種じゃん~。」
「あ、ホントだ~。お揃い~。」
キョウカとカエデはキャッキャと楽しげに話しながら、言いだしっぺなのに全然起きなかったヤヨイを車に置いたまま、トンネルに入る準備をしていた。
で、トンネルから出るまで特に何事もなく行って帰って来れたんだけど、帰りどうしてもケイゴがトイレに行きたいと言い出したので、林の木陰に行ってもらった。
用が済むまで待つもりだったんだけど、あまりにも長い時間待たされていたので、俺は一度女性軍が既に乗っている車に戻った。帰ってこないから、もしかしたら俺を置いて車に戻ったのかもしれないと思ったからだ。
1人で戻ってきた俺に不思議そうに見てきた様子を見て、帰って来ていない事を悟った俺は、今度はケイゴが入っていった林の方にケイゴの名前を呼びながら歩いて行った。
しかし皆が、ケイゴが居なくなった事に気づいて、慌てながらフラフラ探しに歩いて行くのを見て、流石に酔いがさめてても足元が覚束無い俺は冷静になった。
みんなを呼び止めて、カエデに車を出してもらい、山を降りている最中、キョウコには警察に電話してもらった。
こんな夜更けに、酔っぱらいや土地感のないカエデが探した所で、見つかるかどうかわからないからだ。なので、とりあえず警察に任せる事にし、皆でケイゴの無事を願いながら、その日は帰った。
しかし、居なくなったケイゴは、2週間後別の山で死体となって発見されました。1人で用を済まさせようと俺は、あの時一緒にすれば良かったと、後悔していた。
しかし、今も疑問なのだが、ケイゴはどうやって違う山まで行ったのだろうか。
警察の話によると、そこまでいった経緯が全く分からなかったそうです。つまり、防犯カメラにそれらしき影が見られなかったって事=移動は徒歩じゃないと予想される。
だけど、徒歩じゃなかったというと誘拐されたのか?あんな所に俺ら以外の人間いたって事か?疑問は増えるばかりだった。
大事な仲間を失い、何も分からないまま、事件は迷宮入りしたのでした。
「っ……いっててぇ……。」
痛む頭上を押さえながら、打たれた衝撃で倒れていたケイゴは、体を起こそうと身をよじろがせた。が、頭の隣に突如現れた足に驚き、動きを止める。そして、視線だけを動かしてその正体を見た。
「や……ヤヨイ……?」
「黙って、動くな。」
いつもとは様子が違うヤヨイの口調に戸惑いを覚えながら、ケイゴはけして良くわない頭を回転させて状況を判断しようとしていた。
しかし、なぜこんな状況になっているのか分からなかった。
考えている間に、ヤヨイは俺に股がって何かをしていた。その事に少々興奮を覚えていたが、今はそれどころじゃないはずだ。
確か俺はさっきまで、林の影に入って用を足していたはず。そして、スッキリした直後、頭に激痛が走って、倒れて……。布か何かで口を塞がれ、状況分析は中断した。
何時の間にか腕も足も何かで縛られて身動きが不自由になっていた。一部の人には御褒美とも言える状況の中、俺は何が何だか分からなくて、口を塞がれてこもった声を出した。
まるでゴミを見るような目で見下ろしながら、ヤヨイはケイゴの口に瓶の中に入っている物の匂いを嗅がせて、意識をなくさせたのでした。
ケイゴが次に意識を取り戻した時は、既に朝だった。
目以外は不自由な状態なので、目だけを動かして辺りを見渡した。やはり森の中だった。そして、大きな木の近くに見覚えのある女性がなにか作業をしていた。
……ヤヨイだった。
ケイゴを気絶させてからすぐ、私は車に戻った。そして、狸寝入りをする。
すると、暫くすると星を見ていた2人は、流石に飽きたのか、車に戻ってきた。そして、どっちかが私の髪を撫でてから、またおしゃべりを始めた。
やっとケイゴが居なくなった事に気が付いたのか、アオの声が聞こえ始めた。
ケイゴの姿が見つからなかったらしく、しかし自分たちで探しに行っても見つからないと冷静に判断したアオは、私を起こして状況を丁寧に説明してくれた。
皆が深刻そうな表情で、解散したが、私はそれが愉快でしょうがなかった。何故なら(今の所、計画通り。)だったからだ。
分かれてすぐ、私は車のエンジンをかけた。
一次会では、一口含むくらいで飲んですらいなかったし、心霊スポットから帰ってからすぐ運転する予定だったからだ。
寝たふりをしていたのはケイゴを孤立させるため。1人で行動してても疑われないように、自由に行動ができるようにしたかったからだ。
(さて、警察が捜索を始める前に回収しよう。)
ケイゴを回収してから、そのまま違う山に向かった。着いた頃には朝になっていたが、今日くらいは徹夜しても良いだろう。
その日はちょうど、2年前ケイゴに遊ばれて捨てられた日なのだから。
目が覚めたらしい気配を感じ、私は微笑みながらケイゴのもとへ歩いて行った。
そして、小刻みに震えながら私を見上げているケイゴを見下ろし
「なんでこうなったのか分かる?」
考えが甘い私は、最後のチャンスを与えてやったのでした。
だけど、最後までケイゴは反省の色を見せず、挙句逆撫でしてきたのでやってしまいました。
おしまい。
フィクションです。