シキ
初投稿作品です。
長くなりますがお付合いお願いします。
甲高い音が響く。
初めてこの音を革靴の底で鳴らした時には身震いが起きたのに。
しかし今、この状況からすると「踵を返すなら今だぞ」という、
ある種の脅迫のような音にも聞こえた。
「またここに居たんですね」秘書の葛西の声が聞こえた。
「別に自分が、対処する話でもないだろ」。
「春日先生、何を言っているんですか」他人事のような春日の返事に葛西の語尾が強まる。
「今、この日本は世界に向けた絶好のアピールチャンスだというときに、テロですよ、テロ」
真剣な眼差しを春日に向け葛西は続ける。
「テロ対策担当大臣をなさっているのですから、もう少しこの現状をしっかり見て下さい。」
引きが悪い。春日が心で呟いた。
「はっきりと言おう葛西君」春日は目を見開き、葛西も応戦するかのように大きく頷いた。
「確かに、大臣のポストを望んだのは自分自信だ、最年少で衆議院に当選して、ポスト総理か?とまで
新聞に取り上げられたら、大臣の箔ぐらい欲しくなるものさ」
「だから、断るべきだったんですよ」葛西が食い気味に言い放った。
「だから、若造だと言われるんです」葛西のこの発言に春日はもう慣れていた。
当選した直後から政治に若さは必要ないと言わんばかり、あらゆる方面からこの言葉を浴びせられれば嫌でも
抗体が出来てしまった。
この後、葛西の幾度と聞いた政治家の心得の説教が始まった。
春日悠人、26歳。
東京大学卒業後、同級生数人とベンチャー起業を設立。
SNSの独自コンテンツがヒットを飛ばし一躍時代の寵児になる。
25歳で億万長者となったことが経済誌で取り上げられたことがきっかけとなり、
衆議院の解散総選挙の隠し玉として投入され、見事当選。
新しい刺激欲しさに議員となり、若さとその強いチャレンジ精神が功を奏し現担当大臣となっている。
そんな若造はベテラン秘書の話を聞くまでもなく、心を無にしていると、着信音が聞こえた。
助け舟だと言わんばかり、意気揚々と電話に出る。
本能とは虚しいもので、葛西もこれには口を噤むしかない。
しかし、次の瞬間、若者の顔が明らかに変わった。
静かに電話下ろした、春日に葛西は尋ねた。
「どなたからのお電話ですが?」
さっきまでの若造の雰囲気をまとった青年ではなく、凛とした政治家はこう答えた。
「総理官邸に行くぞ」
葛西は一抹の期待とそして大きな不安が混在した心境の中、政治家の背中の後を付いて行った。
どうぞ温かい目で楽しんでいただけれ幸いです。
次回もお楽しみに〜