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碧き光のネメシス・えす‼  作者: 北方真昼(北方一家)
8/8

酒乱闘・橘ブラザーズ

ラストにちょっとしたいたずら心を入れてみました



「嫌な事件でしたね……」



 五木は山縣にコーヒーを差し出す。それを一口すすり、山縣は同意の意を示した。



「……ああ。嫌な……事件だった」







 学校から帰って来た紫音と千晶を、将斗が出迎える。



「おかえり」


「ただいま、将斗」


「お邪魔します」


「五木さんからコーヒーお裾分けしてもらったんだ。アイスカフェオレにでもして飲んでくれ」



 昴は自室で大学のレポート作業中。千晶は着替えてくると言って自室に向かった。

 グラスにビンの液体と牛乳を注ぎ、ストローを差す。

 リビングのソファーに座り、紫音はグラスの中味の匂いをかいだ。将斗はキッチンで洗いものをしている。



「変わった香りですねで。シロップでも入ってるのでしょうか」


「さぁ?俺はまだ飲んでないが」


「将斗。夕飯は私も手伝う?」



 タンクトップ姿の千晶が2階から降りてきた。



「いや、下ごしらえは済んだしいいよ」


「そう?じゃあ私もカフェオレを……」



 ガシャン。グラスの倒れる音に兄妹は同時に反応した。



「「……え?」」



 リビングのテーブルにはカフェオレをこぼして転がるグラス。紫音はソファーでぐったりしていた。



「え?!紫音?!!」


「紫音ちゃん?!!」



 あわてて駆け寄る。体は少し熱っぽく、呼吸は若干荒くなっていた。



「何で……」


「将斗……酒の匂いする」



 千晶が溢れたカフェオレを見て言った。将斗も確認して顔をしかめる。



「……リキュール!!」


「カルーア、かな」



 手違いでコーヒーとカルーアが入れ替わったのか。酒に弱い紫音にはリキュールもかなり効いたに違いない。現にこうして倒れてるのだし。



「将斗。水をお願い」



 手拭いでカフェオレならぬカルーアを拭きながら千晶が指示をする。介抱となると同性同士のほうがいいだろう。将斗は頷いた。

 さて、カルーアを拭き取り、紫音をソファーに横にさせ、水を傍に置いておく。



「五木さん達に確認とるよ」


「ダー。お願い」


「じゃあ俺、電話してくる」



 五木に電話するため、席を外す将斗。千晶は紫音の様子を再確認した。

 まだ熱はあるみたいだが、具合悪くて吐き出すような事はなさそうだ。

 最近は能力の切り替えも出来てるらしいし、心配する必要はないだろう。


 あとは昴に見つかってセクハラされなければ良いだけの話。簡単だ。


 よかった。安堵のため息を吐く。


 と、ソファーに乗せてた手が握られた。



「……あ、紫音ちゃん、気がついた?」



 目はトロンとしているが、確かに意識は回復したそうだ。



「大丈夫?具合は……」



 ギリギリギリ………



 ん?


 なんかものすごい力で握られてません?



「千晶ちゃん……」



 意識は回復したが絶賛酔っ払っているらしい。声は掠れて、赤くなった頬は艶やかな印象を与えた。



「大丈夫?水、飲む?」



 紫音は首を横に振り、そして……



 千晶をソファーに引き倒した。


 ………シトー?



「千晶ちゃん……酔っ払ったみたい……」


「うん。知ってる」



 ギリギリギリ……


 うん。下手すれば折れる。



「紫音ちゃん?手、痛いから少し……。……?!!」



 首に手が回された。痛い痛い。首が痛い。



「紫音ちゃん?」


「千晶ちゃん……私、千晶ちゃんのこと妹みたいに思ってるんだよ?」


「うん、知ってる。ありがとう。だから離して痛い痛い」


「もう…………たまにはお姉さんに甘えてもいいのに」


「甘えてるよ?普段バリバリ甘えてるよ?でも変な甘えはしたくないなぁ」



 今の紫音の顔に見覚えがある。

 千晶に迫ってくるエレーナだ。酒が入ってキャラがエレーナ寄りになっているらしい。

 能力を暴走させない代わりにとんでもない酔い方を手に入れてしまったのか!!



「大丈夫だよ、千晶ちゃん……心配しなくていいから」



 ギリギリギリ……首が折れる折れる!!全然大丈夫じゃない!!心配しかない!!



「紫音ちゃん?そろそろ首が………いぃいっ?!!」



 骨を砕かんばかりの力が入る。マウンテンゴリラやエレーナを相手にしてるわけではないのになんて握力だ。


 ようやく自分の危機を理解した千晶はどうにか離れようともがくが、首の限界はすぐそこまで迫っていた。


 最弱の紫音が。最強の千晶を力でねじ伏せている。



 やばい。


 ヤバイヤバイヤバイ!!


 色々アウト!!



「紫音ちゃん?とりあえず冷静に……


 ※#&*♭♯◎§□★○?!!!!」



 言葉にならない千晶の悲鳴が響き渡る……







「兄貴!!兄貴!!頼む、返事をしてくれ!!」



 弟が激しく部屋のドアを叩くので、昴はパソコンを閉じてドアを開けた。



「どうしたんだい?ただ事じゃないみたいだけど……」



 弟の真っ青な顔を見て昴は怪訝そうに眉をひそめる。



「ただ事じゃないのは当たり前だ!紫音が狂っちまったんだよ!!」


「狂った?まさか。紫音ちゃんが狂ったらこの作品のどこにマトモなキャラが残るんだ」


「メタいこといってる場合か!!千晶までやられてんだぞ!!」


「え、千晶が?……何が起きたんだ………」



 ホントだよ。



 リビングに入った途端、肩紐がはだけた千晶が将斗の背後に隠れた。顔を真っ赤に涙を溜めてフーフー息を荒らげている。首は赤く腫れ上がり、一回折られたんじゃね?と疑った。



「よく生きて帰って来たな……」


「……ふーっ……ふーっ……」


「えっと………」



 何があったんだい?昴は困惑する。


 だが将斗達が答える前に紫音が昴の胸に抱きついてきた。



「昴さぁん」


「ぇっ?!……ぅごふぅっ!!」



 普段なら喜ばしいシチュエーションというのに素直に喜べなかったのは、その抱擁ハグの力強さ。そのパワーはまるでグリズリー級。



 腕が。肩が。肋骨が。



 ミシミシミシミシィィッッ!!!



「あがががががががが」


「昴さん、いつも優しくて……私好きなんですよ?」



 甘い台詞とは裏腹に力が凶器となって昴を締め上げる。



「し、紫音ちゃん……嬉しいけど、ホールド……ぐる……じ……い……」


「いつもふざけてますけど頼もしいですし……」


「あり…がど…」



 内臓が圧迫され、昴の世界には川の向こうのキャシーまで見え始めていた。



 あれ?紫音ちゃんてこんな命の危険のある人物だったかなぁ?



「昴さんは……私のこと嫌いですか?」



 真っ白になりそうな意識の中、上目使いに尋ねられ昴は力を振り絞って答える。



「き……好き……だよ……愛じでる……」


「昴さんっ!!」



 腕に更なる力が入った。



 ボキッ



 昴はその場に崩れるように倒れてしまった。



「兄貴ぃぃぃいいいいいいいいっっ!!」




 兄は殺られてしまった。


 妹は戦意喪失を通り越して背後でブルブル震えている。


 逆転した強者と弱者の構図。紫音の矛先は最後の獲物……将斗に向けられた。



「し、紫音……」


「将斗~将斗は私の事好きですか?」



 ふわふわとした様子で笑う紫音。だが死屍累々の兄と妹を見た後では恐怖しか感じない。



「あ、ああ。好きだよ、大事な家族だよ」


「将斗~!」


「待てぇい!そんな力で抱き着きに来るんじゃない!!」



 ホールドは回避した。だが互いの手をがっちり握るような形になる。


 ビキビキと掌が悲鳴をあげ始めた。


 掌だけでよかった。首に抱きつかれたら命の保証がない。



「ずっと一緒にいてくれて、私、将斗のこと好きなんですよ?」


「そうか。嬉しい告白だがこんな場面なのが悔やまれるな……痛い痛い!!」


「将斗はそうやってすぐはぐらかすんですから」



 急に紫音は不機嫌そうな顔になった。うん。完全に酔っぱらってるな。お前。



「い、いいか紫音。落ち着いてだな…」


「落ち着いてますよ~」


「嘘つけ!!」


「将斗はそうやってすぐ否定する……」



 ウルッと。


 紫音の目に涙が。


 それを見て将斗は躊躇してしまう。



「い、いや紫音、俺はだな……。♭♯*§&#?!!」



 その躊躇が命取りだった。

 紫音は身をのりだし、将斗の唇に自分のを重ねる。

 だが柔らかいとかそんなの気にしてる場合ではなかった。

 酔っぱらいのキスほど質の悪いものはない。



「◎#Л□\`_※§&##Л^▽η~~?!!!」



 橘3兄妹。敗北の瞬間だった。



 …………………………………


 …………………。



「で」



 モルゲンの2階。五木はその無惨な3兄妹を見て戸惑うことしか出来なかった。


 千晶は首にひたすら氷をあて


 昴は死体も同然


 将斗はというと口を開けて言葉にならない声を発するばかりだ。



「紫音さんを自宅でどうにか寝かしつけ、今日は3人水入らずでやけ酒……でいいですか?」


「「「……………(コクり)」」」


「わ、わかりました……こちらの手違いが原因ですし……今日はサービスしますね」



 紫音にまさかあんな力がとか、そんな話は一切せず、3兄妹は黙って差し出されたカクテルで乾杯した。


 飲まずにはいられなかったのである。


 それが更なる騒ぎに繋がるとも知らずに…………。



「骨が……砕けるかと思った」



 もう何杯目かもわからないグラスを空にし、将斗は力なく呟く。



「まさか……あんな……」


「将斗は良い方さ……僕は死人が見えたよ……」


「……………」



 3人は既に酔っ払っていた。揃って酒豪であるが、この時ばかりは頭が落ち着かず、酔いが早くに回っていたのである。



「でも……将斗は良いよね……紫音ちゃんからキスされて」


「よくねーよ……あんな……」


「贅沢だね。君は」


「……何だよ……」


「僕なんてコッソリしかキス出来てないのに」



 口火を切ったのは昴だった。



「……待て。コッソリ?キスを?したのかよ」


「……ふふふ……」


「おいこら兄貴」


「愚問だね。作者公認。今まで紫音ちゃんとキスをしたのは僕だけだったのさ」


「作者の事情なんざ知らん。なにしてんだてめぇ」


「昴兄ぃ?」


「将斗だって今日したんじゃないか。千晶は……」


「問題はそこじゃない」



 3人は完全に理性を失い始めている。未成年お酒ダメ絶対。



「大体、チョップなりで気絶させればいくらでも止めれた筈さ。それをしなかったのは紫音ちゃんにあんなことされて嬉しかったからとか?」


「……いい加減だまれよ」


「ダー」


「これで僕達、同罪だねっ☆ドヤァ」



 完全に理性を失ったこの兄妹が取る行動といえば。



「いいから……黙れよクソ兄貴」


「おぉ、酔っ払いにM9を持たせるなんてこの国は危ないねぇ」


「……昴兄ぃ……デリカシーって無いの?」



 妹はランボーを取り出した。

 だが昴は不敵な笑みを浮かべる。



「デリカシー?そんなの、僕の怒りの前では無意味だね」


「まさかお前……」



 紫音が3人全員とキス経験をしてしまった事に怒ってるのか?



「将斗ばっかりズルい!!僕だって紫音ちゃんからキスされたいんだぁ!!」



 怒りの元はどうしようもないワガママでした。



 ブチッ



 2階に響く、堪忍袋の音が切れた瞬間



 さぁ。皆様。恒例のあれです。



 Are you ready?



 瞬間、前触れもなくモルゲンから爆発が発生し、建物を半壊した。


 爆発の原因はやっぱりこの兄妹。


 将斗は拳銃を。千晶はナイフ二刀流。昴はアサルトライフルという、爆発との関連性を疑うチョイスである。



「なんで……なんで弟ばっかり美味しい思いを!!」


「知るか!!取り敢えず死んどけバカ兄貴!!」


「死ね…!」



 アサルトライフルがフルオートで襲いかかる。千晶がテーブルを蹴り飛ばして盾代わりにした。



「君が最初に紫音ちゃんを止めれなかったのが問題だろう?!」


「まさか紫音ちゃんまでレーナ化するとは思わなかったのっ!!」



 レーナ化・とにかく妹大好き。同性でも色々セクハラとかヤバイ。あと言動もヤバイ。腕力もやばい。



「大体、コーヒーがお酒と……!」


「なら将斗!君の確認不足だな!!」


「人のせいにすんじゃねえっ!!」



 銃弾が縦横無尽に飛んでゆく。



「将斗っ!」



 昴に影響してか千晶の怒りの矛先がこちらに向けられた。



「最初に私が襲われてたとき、助けないで昴兄ぃの部屋行ったでしょ!!」


「げっ!バレてた?!!」


「ちゃんと見えたんだから!!」


「わ、悪い……目のやり場に困って……」


「っ!!殺すっ!!」


「短気だなおい?!!」



 ワイヤーをかわしながら将斗は昴の方へ突進した。



「いつも美味しいとこばかり……この弟は!!」


「黙れよ変態!!」


 兄の怒りの沸点は一体どこにあるのやら。拳銃のグリップでライフルの銃床を弾き、近接戦に持ち込む。



「大体、紫音にこっそりって…!」


「寝てるところを奪っただけさ!詳しくは僕のメモリアルをご覧よ!」


「ちゃっかり宣伝するな!あと死ね!!」


「紫音ちゃんからの唇を貰った罪だ!君こそ死んでもらうよ!!」


「昴兄ぃも、助けてくれなかった将斗も死ね……!!」





 はい、皆さんごきげんよう。五木です。

 今日もモルゲンはこうやって破壊されてます。

 止めなくて良いのか?いいんです。もう諦めました。


 えす!ではモルゲンは助かる見込みがありません。下手に止めて命の危機にさらされるくらいなら確実に生き残る道を選んだ方がましです。

 ほら、こうして今も弾丸が店の壁を壊してます。もう馴染みの風景です。私は動揺しません。


 将斗さんが手榴弾を出しましたね。彼は滅多に手榴弾なんて使いませんが、酔いもあってどうでもよくなってるのでしょう。


 3人とも頭が回ってませんが紫音さんが酒を飲まなければこんな事態にはならなかったはず。それを兄妹で責任の押し付け合い。


 理不尽?そうですね。ですが考えるだけ無駄です。だって彼らの辞書に「紫音を叱る」ってありませんから。本当に紫音さんが大好きなんです。


 昴さんがロケットランチャーを出しました。よほどキスを貰えなかったのが悔しかったみたいです。


 紫音さん。貴女が酔うと3人が暴走してしまいますから。これを期にお酒は飲まないようにしてください。


 千晶さんが顔を真っ赤にてき弾を用意しました。かわいそうに。女の子同士でヤバイ関係になりかけた上、首をポッキリですからね。


 店はもうじき滅びます。銃弾がここまで迫ってきました。


 これが最後です。さようなら。さようなら………






 モルゲンを大きな爆発とともに炎が包み込んだ。








「……というわけで」



 夜空の下。段ボールのテーブルに淹れたてのコーヒーを置く。五木と山縣は星空を眺めた。



「また店は無くなったのです」


「……もう再建築はあきらめていいか?」


「まさか。アジトがなくなりますよ」


「……疲れた」


「同感です」



 山縣に習ってコーヒーをすすり、五木はこちらを見る。



「はい。ぐだぐだでどうしようもない物語は幕を閉じます。少しはお楽しみいただけましたか?」


「作者の気ままから生まれた作品に付き合ってくださりありがとうございます。そして御愁傷様です」


「本編は続いておりますゆえ、そちらを見ていただくと幸いです」


「未成年の方、酒癖の悪い方。お酒は飲まないようにしましょう」


「あと、酔っ払って銃やナイフは振り回さないように」


「日本には銃刀法がありますので」


「では、また会う機会があれば」



碧き光のネメシス・えす!読んでくださってありがとうございました。

おふざけで始まり、ふざけて終わったこの作品。

挨拶みたいのをすべて五木と山縣に押し付けました。

本編・碧き光のネメシスは連載中です。


最後に私、北方真昼から


えす!にはありませんが、私の作品には、とある遊び心を入れております。

まだその遊び心は発揮できませんがいつの日か、読者の皆様がそれに驚いたときがくればそれは私にとって最高の栄誉であり、ありがたき幸せです。

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