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碧き光のネメシス・えす‼  作者: 北方真昼(北方一家)
7/8

レッツ・オンライン

最近、Twitter始めました。



 差し出されたのは4つの、ゴーグルによく似た被り物だった。

 自らの視点でゲームの世界に飛び込むのはここ最近の流行りだった。


 バーチャルゲーム。


 違う世界に飛び込んだかのように思わせるそのシステムは子供の夢を具現させた。


 さて。このゴーグルもそれである。

 正式な商品ではないが、昴の学校に通うゲームプログラマー志望の友人が作ったと言うのだ。


 昴はその試作の出来を見てほしいと、これを渡されたのだが……



「1人でやるのもあれだし、皆でやってみないかい?」


「やってみないか、って……これをだよな」


「もちろん」



 千晶はゴーグルを持ち上げ、あらゆる角度から眺めている。



「内容は?」


「まずはRPGだね。ソフトは複数あるけどいずれも試作で、最初のステージをクリアしたら終了するようになってるんだ」



 RPGと聞いて将斗と千晶は国民的なクエストゲームを連想した。

 ターン制で操作も楽なら、ストレスを感じることなくやれるかもしれない。


 紫音だってその方が楽しみやすいだろう。



「じゃあやってみようか」



 テーブルについたまま、ゴーグルを被る4人。


 しかし被った直後に細やかな疑問を紫音が口にした。



「よし、じゃあいくよ~」


「あの……昴さん?コントローラーは……」


「「あ」」



 最後の声は将斗と千晶だ。



「スタート!」


「いや兄貴、待てよ!!コントロー……」



 ブツン…………


 急に目の前が暗くなり、将斗達の意識は遥か彼方へと飛ばされた……



 ……………………………………。



 実は昴の持ってきたゲームは意識をゲームの世界にフルダイブさせるタイプのものだった。

 身体が動かなくなるのだから、コントローラーなんて必要ない。


 必要ない、のだが…………



「ビビったじゃねぇかよ!!」


「いやぁ、言い忘れてたね。でもたまには驚かすのもアリかな、って」


「……なんか、身体がものすごい軽いです」


「ちょっと嫌。この感覚……」



 欧州の造りを意識した建物が建ち並ぶ街の中心に、4人はいた。

 まるで絵本に出てくるようなデザインの衣服に身を包み、自らの身体を動かしてみる。


 コントローラーではなく自分の意思で身体は動く。紫音が言うように、かなり軽い。

 ためしに頭を動かして街を見渡す。なるほど。ゲームに飛び込むとこのような世界に見えるのか。



「確かにすげぇな、これ……」


「ちなみに建物のデザイン提供は僕だ」



 えっへんと胸を張る兄。確かにイギリス・フランスの街によく似た光景である。



「視界の下にメニューボタンがあるだろう?そこを押すとアイテムやオプション確認が出来るんだ」



 言われた通りにボタンに指を伸ばすと、回復薬や武器の確認ができた。


 やはりこういうゲームの初期装備は鉄の剣とかである。



「へぇ……なんだか某・剣のオンラインみたいな設定画面だな」


「ストレートに言わなかったのは良いことだ」



 著作権の侵害。ダメ絶対。



「それに危険性はないよ。ログアウトすればすぐに………


 すぐに………」



 そこで画面をスクロールしていた昴の手が止まった。

 表情は凍りつき、目は泳ぎ始めている。



「?昴兄ぃ?」


「……ぃ」


「?」


「ログアウトボタンが…………ない」



 …………………………………


 …………………。



「「「はい?」」」


「ログアウトが……出来ないんだ。確かに前回試したときはあったんだけど」



 3人は昴に習って画面をスクロールする。


 確かに…………ない。







「どうしてくれるんだバカ兄貴!!」


「戻れないじゃないですか!!」


「家には私達以外、いないんだよ?!」



 街にいると攻撃を受けてもダメージは受けないのを良いことに、将斗と千晶は昴をタコ殴りにしていた。



「げぅっ!……確かにログアウトボタンはあったはずなんだ!間違いない!!これはバグだ!!」


「帰れないのも間違いないじゃねえか!これでフィールドに出て死んだらどうなる?!!」


「ぐふぅっ!……それは……死ぬんじゃ?」


「反省!」


「げほぉっ!!……そうだ!これは第一面のボスを攻略すればクリアできるんだ!!帰れるとしたらそれしか……」


「「そういう問題じゃない!!」」



 2人の昇龍拳で昴の体は宙に浮く。


 一通り殴り終わって肩で呼吸する兄妹。紫音はおずおずと話しかけた。



「でも……早くそうしないと私達……」


「くっ……これじゃあ完全にソードアートオンラi……」

「そ、それ以上言っちゃだめだ………」



 とにかく早く帰るために現状を把握しよう。

 友人からマニュアルを渡されていた昴がこの世界について話し始める。



「ボスは……街から北東の神殿にいるはずだ。レベル制だからフィールドでレベルと金を稼いで武器を新調して挑めば……行けるはずだ」


「最低下必要なレベルは?」


「10……」


「それならなんとかいけそうだな」



 これで30とか必要になったら泣く。下手すりゃ橘家から4人の餓死死体とか見つかりそうだ。



「パーティーは4人までで編成できる。ちょうど僕らは4人だし、なんとかいけるだろう」



 昴は力をこめてそういうのだが。


 現実は無情にも淡い期待を打ち砕いた。


 まず、コンボが3連続までしか決められない。ゲームなら普通だが、変則かつ無限に攻撃を繰り広げる千晶には相性が悪かった。



「ヴェッ」


「千晶!!下がれ!!」



 最弱のはずの狼に吹き飛ばされる千晶。一回でも死んだら命の保証がないので将斗が前衛を勤める。


 このゲームには銃がない。だから昴も苦戦していた。


 このゲームで唯一まともに闘えるのは将斗だけだった。

 千晶では普段の闘い方ができないし、昴と紫音は言語道断。普段から居合いをしている将斗が、ゲームに合った闘い方をすることができる。



「将斗……イズヴィニーチェ」


「しかたねぇよ。相性もあるんだし」



 狼を倒し、回復薬を使う千晶に将斗は声をかけた。



「ごめんなさい、将斗」


「紫音も気にするな。特にお前はこういうの苦手だろ?」


「将斗さすが!闘い方も安定してる!」


「お前は反省しろ。この元凶が!」



 回復薬が尽きたので街へ戻ることになった。

 狼を倒してレベル上げしたおかげか、金もそこそこある。4人は薬を買った後、武器屋にも行くことにした。


 ここでレベル一覧。



 マサト・level5


 チアキ・level3


 スバル・level2


 シオン・level2



 ……今日中に終わるのか?



「強い武器があれば、少しは楽になるだろ」



 千晶はメニューを開いてスキルを見ていた。レベルが上がれば闘い方に合ったスキルを得るためのポイントが貰える。さらにスキルのレベルを上げれば威力が上がる仕組みらしい。



「……ワイヤー使えるスキルがない」


「そりゃあ大学生の作るゲームにそんな特殊モーションを搭載するのも難しいだろ」


「千晶なら格闘かな?確かあったはずだ」



 スキルボタンをポチポチと押しながら4人は武器屋に入った。

 武器屋の主は若くて、背が高い男だった。


 身近な人に例えると……



「ここは武器屋だ。何か用か……ぐべぼぉ!!」


「千晶ちゃん?!!」



 覚えたての格闘スキルをNPCに見舞わしていた。



「おい、千晶やばいだろ!」


「いくら武器屋の兄さんが本編で闘ってる最中の真冬くんソックリだからって!!」


「見てて腹が立った」



 なんとも理不尽な理由だった。


 昴は遠距離攻撃が得意なので、後方から援護できるブーメランかチャクラムが望ましい。

 その錬成に少し時間がかかるそうなのでしばらくの間、将斗・千晶・紫音は街を見て歩くことになった。


 街人のNPCに話しかけると決まった返事しかないが、その見た目やしぐさは人間そのものである。



「よく出来てるよなぁ」



 NPCを見ながら将斗は素直に感心していた。



「会話できるようになったら完全に人、ですよね」


「感心する」


「だよなぁ」



 すると最初にログインした場所の近くに立つ街人が新しいモーションを見せた。



「君たち、セーブのやり方は知ってるかい?」


「「「………は?」」」


「セーブは宿でできる。こまめにしとくといいぞ」


「「「…………」」」


「困ったことがあれば長老に聞くといい」


――宿でセーブ出来るようになりました――


「「「…………………」」」



 そういえば街人に話しかけてなかったんだっけ。

 街人から情報をもらえるのがゲームの鉄則だ。

 昴の記憶に頼ってそういうことは一切しなかったが、まさか…………



「千晶、紫音」


「はい」「ダー」



 将斗はNPCを見たまま言いはなった。



「NPCに声をかけよう」



 話しかけていくうちに新たな情報がどんどん追加されてゆく。

 武器の強化、マップ、パーティーの特殊コマンド……


 おそらく昴の友人は初心者が迷わないようこういうシステムにしたのだろう。そして昴はマニュアルしか知らなかった上に一回しかテストプレイしていない。


 そのテストプレイ後に友人が改良したのだとしたら。



 長老「いつでも遊びに来なさい。異界の勇者たちよ」


 ――タイトルにはメニューから――


 ――ログアウトをする前にセーブを忘れないようにしましょう――


 ――さぁ、あなたの冒険が始まります!!――



「………メニュー!!」



 3人は同時にメニューを開いた。新しいコマンドが追加されて、一番下には



 ――ログアウト――



「……………」


「……………」


「……………」



 3人は顔を見合わせる。


 初心者が不用意にデータを損失しないための措置だったのだ。昴の友人の優しさである。



「……昴さんに……言うべきでしょうか」


「その必要はない」



 これは完全に兄の不手際だ。


 過失。下手をすれば死んでたかもしれない。



「さっさと帰るぞ」



 昴には自力で頑張ってもらおう。


 3人は迷わずログアウトボタンを押した。






 新調したブーメランを背中に、昴は武器屋を出た。攻撃力も上がり即戦力として闘えることにその足取りは軽やかなものだ。



「待たせたね!これで攻略に近付けるよ!さぁ、行こうか!!」



 だが弟達がいるはずもない。


 帰ったのだから。



「……あれ?」



 街中に取り残される昴



「将斗?千晶?……紫音ちゃん?」



 昴はログアウトのコマンドの出し方を知らない。

 ゆえに…………



「まさか僕を置いて神殿に?!!


 ぅああああ、待ってくれぇえ!!」



 その日の深夜3時。昴は無事ログアウトした。

 ボスをクリアして。ソロで。レベル26まで上げて。



「僕はっっ!!帰って来た!!!」



 深夜にリビングで叫ぶ昴。彼の体は放置されていたのだった。



「僕はっっ!!」


「うるせぇぞ!!」




 ちなみに後日判明。

 このゲームは倒されても死ぬことはなかったのだ。


 あの苦労は、と4人は頭を抱えることになる。

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