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碧き光のネメシス・えす‼  作者: 北方真昼(北方一家)
6/8

ロシアより愛を込めて

エレーナについて書きたかったので


 エレーナ・ルキーニシュ・アベルツェフ

 ロシア人。16歳。橘千晶とは同い年でありながら彼女の姉である。

 学校の成績優秀。スポーツ万能。

 さらには誰もが目を見張るダイナマイトボディ。

 ロシア美女とは彼女のことを指す。

 学校でも人気が高く、彼女にアタックした男子の数は知れない。

 そして見事に玉砕した数も知れない。

 美女でありながら彼氏がいないのだ。


「ごめんなさい。私にはティーナがいるから!!」


 これ(シスコン)さえなければ、言うところはないというのに………





「千晶ちゃんはロシアに帰省しないの?」


 いつもの朝食。紫音は気になっていたことを尋ねた。


「シト?」

「ほら。日本に来てから一度も帰ってないでしょ?あちらの家族も心配してるんじゃないかなって……」

「そうだなぁ……」


 兄、将斗も相槌を打つ。


「たまには顔出してやれよ。次の長期休みにでも」

「そうだね。家族ならきちんと会ってやらないと」


 昴も同じ意見だった。

 家族の大切さを知る橘家だからこそ、長らく会えない辛さはよく知っている。千晶だって同じだ。


「……あー…… 」

「煮え切らない返事だな。母さんだって向こうの家族には恩を感じてるんだぞ」

「そうだね。もし反対するようなら僕らも言っておくから」

「会ってあげたら?」


 3人に言われ、千晶は元気のない声で


「…じゃあ…そうする」


 と返すのだった。

 確かにロシアの家族には会いたい。向こうの母オリガの手料理も恋しいしたまにはロシアでゆっくりするのも魅力的である。

 だが…………


「ティーナおかえりなさい!ごはんにする?お風呂?それとも……わ・た・し?」

「ティーナ!教会に行かない?特に深い意味はないのよ?!結婚式の事前準備とかはあるかもしれないけど!!」

「性別なんて愛の前ではなんの理由にもならないわ!!!」


「……………」


 うん。少し考えるだけで容易に想像がつく。

 問題はそう。エレーナなのだ。昴に匹敵するような変態シスコンぶり。日本にいてもロシアにいても千晶に逃げ道はない。いや、むしろ自分達に平等に愛を注ぐ昴の方がまだ安全ではとまで思ってしまう。


(……休みに任務入ってくれないかな……)


 そんな淡い期待を千晶は抱くのだった。





 千晶はロシアの友人たちからも圧倒的人気を誇っている。とくに飾らない姿に好感を持つことが多いようだ。

 それゆえに……


「レーナ。ティーナの写真とかないの?」

「ティーナちゃんに会いたいな。いつ帰ってくるの?」

「帰ってきたらまた皆でパーティーしようぜ!」


 姉であるエレーナには毎日のようにこういった声が寄せられる。

 勿論、恋心を持つ輩もいるわけだがそういった人物にエレーナが気を許すはずもなく。


「悪いけどまだ予定がないみたいなの。帰ってきても連絡はしないし、半径一キロ以内に近寄らせないからそのつもりでね」


 エレーナもクラスの人気者だ。良くできた人物だ。

 妹愛シスコンでさえなければ……


(とはいえ、ティーナの魅力を知ってくれるのも事実よね……)


 だが妹愛なら昴に負けないエレーナは毎晩、そういった悩みで自問自答を繰り返す。


(近寄らせたくないけど魅力はわかっていてほしい……いや、あの可愛さはさらに伝えるべきね。じゃないとティーナが可愛そうだわ…でもどうやって……)


 そんな悩みを繰り広げながら部屋に吊るされたサンドバッグを殴る。殴る。殴り続ける。

 小さい頃、性犯罪に巻き込まれたが故に護身術を覚えようと彼女はボクシングを習っているのだ。

 ちなみに千晶は、エレーナがボクシングをしているなんてつゆとも知らない。知ればきっと、帰省なんて判断を下すことは永遠にないだろう。


(そうだわ!!ファンブックを作ればいいのよ!それで満足させて、なおかつあの子の可愛さを広めるの!!いいわ!!いいわこれ!!キタコレ!!!!)

「ああん、もう!なんでこんな簡単な答えにすぐ気づけないの私のバカバカバカぁぁああっっ!!!」


 拳のラッシュがサンドバッグをうねらせる。殴る音はやがて大きくなって行き……


「会いたいわよ……ティーナぁああああ!!!!」

「夕飯だぞー」

「あ、パパ。わかったわ、今行く!」


 父ルキーニシュが部屋にはいってくるのを確認してエレーナはリビングに降りる。残されたルキーニシュはサンドバッグを見た。

 サンドバッグとは中に砂が入っており、簡単に壊れることはない。しかしエレーナのサンドバッグは底が破け、中の砂が床中に散乱していた。

 プロでもここまで行くことは滅多にないだろう。


(……砂の詰め替え、もう何回目だろ……)


 ルキーニシュはため息をついて扉を閉めるのだった。

 ルキーニシュによるサンドバッグ修理の回数は、すでに数えるのをやめる領域を達していたのだった。



「……これはティーナの寝顔、これはティーナと遊んだとき…これは……」


 部屋を埋め尽くさんばかりの量の写真。塵も積もれば山となる。そんな山の中でエレーナは1枚1枚、写真を選んでいた。

 この無数の写真に写っているのは全て千晶の姿。


「これは私とのツーショット……いいわね。私の部分をカットして使えば、素敵な笑顔のティーナだけが残るわ……あ。でもこれも……」


 ファンブックに使う予定の写真を厳選しているのである。時計の針が深夜の2時を指しても彼女の作業は続く。

 だが……


「……だめよ。多過ぎて決められないわ!!」


 某キャリアウーマンの如く写真の束を宙に投げる。愛が重すぎるが故に簡単に選ぶことができなくて、彼女の作業は難航していた。




「というわけでお願いします」

「なぜ私が……」


 お久しぶりの登場であるイヴァンを喫茶店に招き(呼びつけ)、エレーナは3冊のアルバムを手渡した。エスプレッソを片手にイヴァンは、やや困惑した様子でエレーナを見つめている。


「いきなり「手伝って」ときたからなんだと思えば……」

「私の将来に関わることなの」

「……本当に?」

「ダー。当然よ」


 主にエレーナの有り余ったパワーを発散させるため、といった意味での将来だが。

 イヴァンは訝しそうにアルバムを1つ手に取り、開いて……絶句した。

 当然だ。彼はエレーナがファンブックを作る予定なんて話を一切聞いてないのだ。


「……レーナ……」

「なぁに?」

「このおびただしい数のティーナの写真は……」

「おかしい?」

「アルバムが全てティーナの写真だったら誰でも驚く。あとお前の精神を疑う。

 我が子でもない子の写真をここまで用意する行為をおかしくないと言い切るのはむずかしいものだ。ましてやフィルムなど」

「恋人の写真を沢山持つことのどこがおかしいの?」

「まず恋人というくくりでティーナを見ていたのか君は……」


 流石のイヴァンも呆れ返っていた。


 だがどうしても選んでほしい。エレーナに強く懇願(なかば強制)され、イヴァンは渋々と写真を選び抜くのだった。



 強引に写真を選ばせ、次なる課題は文章だった。出版社に関しては既に話を通している。市民の私欲のために本を大量に刷るなど本当はあってはならない話だが、ここはイヴァンに協力してもらった。

 決して編集部を脅したとかそういう手段は使ってない。

 大事なことなのでもう一度。

 決して脅してはいない。


「ティーナの可愛さをどう表現するか……隠さなきゃいけない場所は徹底しなきゃだし、大変ね……」


 部屋にこもり、ぶつぶつと呟くエレーナの前には無数のウオッカの瓶とエナジードリンクの空き缶が散乱していた。

 壁には習字で、力強い日本語で「ティーナ命」。エレーナは日本文化にも手をつけている徹底ぶりを発揮していた。


「ティーナの可愛さを白夜の様に美しく表現……時おり見せるカッコよさはシベリアの冬のように激しく…… 」


 ワケわからないことを呟き、エナジードリンクに手を伸ばす。

 この文章作業に入って一週間だが、これまた難航していた。


「………できない」


 そう。文章で表現するというのはじつはかなりの技量を要する。ましてや千晶に対してこだわりの強いエレーナはその点に関しては妥協を許さなかった。

 しかしいくら書いても書いても納得のいく文章は出来上がらない。

 文才がないのか?しかしこればかりは誰かに依頼するわけにもいかなかった。

 なにせ千晶に関することだ。これだけは譲れない。


 だが、信念と実力が合わないことはよくある話で………


「……なんで出来ないのよ!!」


 机に拳を叩きつけ、エレーナは怒鳴った。怪力のせいで机がまっぷたつになり、下で物音を聞いたルキーニシュは頭を抱える。


(……家具も買い換えなくちゃ……)




 そして翌日………



『勿論よ。お土産持ってくの忘れないでね』


 テレビ電話越しに千晶は母と話していた。


「うん…ごめんね、向こうに連絡までしてもらって」

『いいのよ。千晶の家族なら、私にとっても家族なんだから』

「うん………」

『次の夏休みね。挨拶もお願い』

「もちろん」


 母は帰省を快くOKしてくれた。そんな優しさに千晶が感謝していると、将斗が割り込んでくる。


「千晶。お前のパソコンにテレビ電話が」

「え?あ、うん」

『早速打ち合わせかしら?本当に仲いいのね。ロシアのお姉さんとは』


 帰省した時の予定の打ち合わせ。千晶もそうだと思っていた。


 ルキーニシュの言葉を聞くまでは………


『レーナが失踪したんだ』

「は?」

『何かに悩んでた様子だったが、まさか失踪するくらいとは思わなくて…』

「待って。何があったの?」

『わからない。ただ最近、何か思い詰めるような状態ではあったんだが、話してくれなかったんだ……よりによって置き手紙まで残して!』


 そう言って見せてもらったノートにはロシア語で


「私はティーナの魅力を伝えるべく文学の勉強をしてくるだけなので心配しないでください。

 しばらくモスクワで小説家に弟子入りします」




 …………………………………………………

 ……………………………………

 ……………。


『理解できる?』

「無理」

『だよな…何をしてるのやら……』

「……本当に何を……してるのレーナぁあああああああああ!!」


 奇しくも千晶は予定より早くロシアに帰省することになった。勿論エレーナを連れ戻すために。


 結果として彼女エレーナの目的であるファンブックの出版は駆けつけた千晶により差し止められ、予定より早い帰省で千晶は次の休みにロシアに行く予定はなくなってしまった。


 

元ネタ・好きなアニメのゲームより

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