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碧き光のネメシス・えす‼  作者: 北方真昼(北方一家)
5/8

爆発は突然に

はい、お久しぶりです。

突然ですが。爆発させます。


 気配は突然だった。独り暮らしの部屋でベッドに腰掛け、テレビのチャンネルをリモコンで替えているとき、背中を這うような悪寒が走った。


「……?‼」


 慌てて室内を見渡すがもちろん誰もいない。室内に盗聴器が仕掛けられていたわけでも監視カメラがあるわけでもない。

 そうなると意識は当然、窓に向けられる。

 カーテンの向こうに誰かがいるのか?


「…………」


 不安になって紫音は電話をかけた。

 さすがに夜の部屋に男性は呼べない。呼んだのは千晶だった。






 最近、ドローンというのが流行っている。ラジコンに近い要領だが操作の柔軟性は増し、あらゆる動きを実現した。

 近年では公安の業務に扱われたり、学校の科として取り入れられたりもする。


 そこの君、科学技術が進んだ未来ならもう当たり前なんじゃない?とか言ってはならない。


 さて、そんなドローンがニュースになったりもするのだから橘3兄妹も当然、ドローンの実用性は知っているわけだが。



 男の子はラジコンが好きである。小さい頃に遊んだ事がある殿方、この気持ちはよくわかるだろう。


(ドローンか……)


 成人を過ぎたが昴もそんな殿方と同類である。小さい頃、彼は祖父母から誕生日にヘリのラジコンを貰っていた。

 几帳面な昴は箱や説明書を大事に残しており、あまり遊ばなくなってからも箱に詰めて丁寧に保管していたのである。

 まだ残していたはず。童心を思い出しながら探してみるとお目当てのものはすぐに見つかった。

 しかし古くなっていたからか、電池を入れても動いてくれない。

 工業大学に通う彼は仕方無く……


 改造した。


 言い訳に聞こえてしまうかもしれないが、彼はまたこのラジコンで遊びたかっただけである。

 そのためには老朽化した内部の回線を取り替える必要があったのだ。

 だがさらに問題は増えてゆく。

 今度は機体のバランスが崩れたので調節(パーツを重く)したり、すると今度は全体的に重いので計量タイプの部品に取り替えたり、 そうすれば今度は軽すぎたので全体に重り代わりの装甲を着けたり……

 あれこれしてゆくうちにラジコンは頑丈なものへと変化した。見た目だけで言えばオスプ●イわ、最早ヘリじゃねーじゃんってツッコミは仕方無い。

 とにかく久しぶりのラジコンにワクワクしながら飛行させた昴だが、橘家は海岸近くにある。そう、カモメが多いのだ。

 久しぶりにやったのもあって操作に慣れない昴はカモメの集から遠ざけようと四苦八苦に操縦するわけだが、流石に逃げ切るのは難しく、戻ってきた時には装甲はともかくプロペラが大破してしまった。

 誰だって思い入れの強いものには愛着がわく。相棒の負傷を嘆いた昴は涙を禁じ得なかった。


「ユニバアアアアァァァァス‼」


 はい、そこ。「なぜそれを言った?」なんて言わない。


 とはいえここまで改良したのだからまだ諦めるべきではないと前向きになった昴は、相棒をさらに頑丈にすべく、次の改造……もとい修理に取りかかった。

 ここまでその日の昼近くの話だが、修理が済んだのは夕方になってからである。


 オスプ●イはさらに頑丈に、なぜか速く、なぜかカメラまで搭載していた。

 正確に話せば、理由はある。

 カモメは夜は活動しないので思いっきり飛ばすなら夜と考えた昴だが、夜にラジコンを飛ばせばどこに行ったのか見えにくいのだ。

 そこで夜も見えるカメラを搭載し、家のパソコン画面から見えるようにしたのである。

 もはや祖父母から貰ったときの面影などないも同然だが、もし昴でなかったらこの機体をまた使うことはなかったろう。


 お爺ちゃん、お婆ちゃん。

 孫は貴方達のプレゼント、大事にしてましたよ。


 さて、飛ばしてみたもののまずは近隣から試そうと昴は知人の家付近まで飛ばしてみることにした。

 部屋のモニターから様子を確認し、高さや速さによる動きのブレを調節。

 モニターから見る風景はまるで自分が空を飛んでいるような気分になれた。


 ちなみに紫音の部屋付近にも行った。勿論行った。

 特にやましい気持ちがあったわけではなく。


「立場上、身元がバレたら紫音ちゃんも危ないもんね。そう、これは見守るためなんだよ」


 ……やましさは……無い……はず。


 部屋にはカーテンがかかっており、中は見えない。しかし無事なようなので、もう少し見守ってみることにする。


 じーーっと。


 じっくりと。


「皆を守るのが僕の役目だし」


 すると部屋がノックされた。扉を開けず、千晶が声をかけてくる。


「昴兄ぃ、少しコンビニ、行ってくる」

「わかったよ。気を付けて」


 千晶の足音は遠退いた。

 さぁ、紫音を見守り続けまshow。ついでに相棒の出来映えもチェック。


「風圧に弱いのが少し課題かな……バッテリーの減り具合は……うん、こっちは大丈夫」


 完全なるドローンだが、昴としては懐かしいラジコン遊びの延長戦。

 朝と昼に使ったのもあって操作はもう慣れていた。


「少し下げてみるとどうかな……カメラのブレが大きいか……なら速度調整しやすいように……」


 そんなことをブツブツ言ってるときだった。


「ぅわっ⁉」


 カメラを掠めるくらいの距離で何か固い物が通り過ぎた。間違いなく昴のドローンを狙っている誰かがいる。


「なんだ⁉」


 カメラを回すが周囲には誰もいない。昴はごくりと唾を飲んだ。


 紫音の部屋の近くにいる誰かが投げつけた?まさか、昴が紫音を(覗いて)見ていたのに気付いて?

 紫音は立場上、素性がバレたらテロ国家やらおかしな研究所とかに目をつけられやすい人物。


「まさか……既に紫音ちゃんを見張ってる誰かが⁉」


 そうなったら大変だ。しかし思い違いの可能性だってある。

 昴はそのドローンを引き下がらせ、次なる手を打つべく頭の中で作戦を立て始めた。

 紫音の周辺を調べやすく、なおかつ相手が危険だったときのための対抗手段。


 答えはすぐに出た。






「紫音ちゃん、もう気配は感じない?」

「うん、ありがとう千晶ちゃん……でもなんだったんだろう」


 部屋にやって来た千晶に礼を言いながら紫音は不安げにカーテンを見る。


「ドローン……だっけ?多分、無差別な覗き」

「……ぇえー……」

「大丈夫。追い払ったから。多分もう来ない」


 と、言いながらも千晶は不安だった。

 あのドローンにはカメラだけでなく、改造した跡が見られた。軍の研究部で似たようなのを見たことがある。

 あれは間違いなく装甲が施されている。もしかしたらどこかの組織の手かもしれない。

 顔を見られないよう姿を隠したが、また来るだろう。そうなったらいくら自分でも顔を見られない確証はない。


 深夜になってもまた来る様子はなかったので、自宅に帰った千晶は兄の将斗をたたき起こした。


 昴に気づかれないよう。これ、大事。


「何?テロ国家が?‼」

「確証はない。でも、装甲を施したドローン。攻撃を受けても良いよう出来た造り。絶体、普通の人違う」


 差し出された紅茶をすすり、将斗は考える。


「兄貴には?」

「ニェット。言えばきっと……」



 紫音ちゃんが危ない‼なら僕がボディーガードしよう!24時間、プライバシー込みで‼


「……うん、正解だな」

「でしょ?」

「ならこうしよう。明日は学校だろ?その時はお前が付く。で、帰ったら俺は紫音のマンションの屋上から見張る」

「ダー。少ししたら私も合流する」


 紫音を守るため。

 兄妹は意思を確かめると頷き合った。


 一方、昴はカチャカチャと部品と器具をぶつけながら何度もひとり言を繰り返していた。

 

「紫音ちゃんを守るため……守るため……」


 アームの稼働区域をチェック。それが耐久出来るくらいの重さに調節。


 え?何をって?


「紫音ちゃんに……手出しはさせない……!」


 傍にはハンドタイプのマシンガンがあった。




 その頃、モルゲンでは


「山縣さん」

「なんだ」

「最近おとなしいですよね。橘さん達……」

「…………」

「そろそろ来るんじゃないですか?……店がぶっ飛ぶ展開」

「おいやめろ」


 さぁさぁ、読者の皆様。


 準備OK?






「将斗。どう?」

『張り込んで一時間。まだそれらしいのはないな』

「わかった。私も準備したから向かう」

『白夜は使うなよ?住宅地で目立つからな』

「ダー」


 昴への夕食にラップをかけ、千晶は家を出た。



 張り込んで少ししかたっていない。もしかしたら来ないのかもしれないが念には念を。千晶から借りたヴィントレスを脇に、将斗は缶コーヒーを飲んでいた。

 夏も終わりに近く、涼しい風が丁度良い塩梅。これが真夏だったら最悪だ。


 離れたところで花火をしている親子の姿が見えた。

 手持ちの花火を見てキャッキャとはしゃいでいる姿にどこか懐かしささえ感じる。


(……花火か……)


 小さい頃は兄妹や紫音と一緒に花火を見に行くことが多かった。最近はそういうのがなかったので、少し羨ましい。


(また見たいな……皆で花火……)


 その姿を目で追っていたとき、千晶から連絡があった。


『将斗』

「千晶か?」

『南西からドローン!』

「なに⁉」


 すぐさまスコープを覗きこむ。


 将斗は口を開いた。


「なんじゃありゃ……」

『将斗?』

「覗きどころか、殺す気まんまんじゃねえか‼」


 そのドローンは千晶から聞いたのよりも物騒な外見をしていた。


 両翼にはマシンガンが備えられ、装甲は夜でも見えづらいようにステルス機能が備わっている。

 プロペラの付根は頑丈に固められ、簡単には砕くことができないのが一目瞭然。

 オスプ●イに近い外見だが、某ジ●リ作品に出てきそうな戦闘装備が備わった飛行機がスコープ越しに見ることが出来た。

 しかもその背にはC4が。


「あんなのが住宅地に堕ちたら大変だぞ‼」

『!……証拠隠滅の準備まで……チョールト‼』


 千晶のあせる様子が通信機越しに伝わる。


「千晶!ひとまず撃退して、人気のない場所に追い込むぞ‼」

『ダー!』




 一方昴……


「どこからでも来なよ……僕はここだ‼」




 将斗はライフルを構え、狙いを定める。本体に当ててはならないので相手に気づかれる程度の位置を狙う。


「…………なめるなぁっ‼」


 弾はドローンを外した。だが昴は狙撃主に気づくことができた。


「狙撃?‼まさか待ち伏せしてたなんてね‼」


「?‼なんて速さだ……本当にただのドローンか⁉」


 ドローンは猛スピードで迂回しながら将斗へと接近を始める。将斗は何回もわざと外した弾を撃ち込みながら相手の様子を窺う。


「接近してくるか……!やっぱり!」

『将斗!ドローンの構造はわかる?‼』

「普通のラジコンとは大差ない!だが……うわあっ⁉」


 マシンガンが将斗の隠れていた仕切りへと撃ち始める。迂回しながらというのになんて命中精度‼


「まずい‼本当にプロだ‼」

『20秒!持ちこたえれる⁉』

「ああ!やってやる‼」


「ふふふ……狙撃主はどちらがふさわしいか、勝負といこうか‼」


 将斗のライフルのスコープに弾が当たった。砕けたレンズが月夜に照らされ、キラキラと光ながら落ちて行く。


「やべっ……しくじった‼」

『大丈夫‼伏せて‼』


 マンション近くまで来た千晶は上階のベランダにワイヤーを投げつけ、一気に壁から登った。ワイヤーを引いた力と脚力で屋上よりも高く跳ぶ。片手には家から持ち出したナイフ。


「はああっ‼」


 破壊力の高い投擲がドローンへと向く。狙うはドローンの後部。バランスを崩すのが目的だ。


 画面横から異常なまでの殺気に気付いた昴は慌てて回転させ、攻撃を回避した。


「うわっと……!……増援か……!」


「外した……!」

「なんて危機察知能力だ……!」


「まさか僕ら以外にもここまでやれる人が小樽にいるなんてね‼」


 とはいえ、ここでどんぱちしてたら紫音が危険だ。敵を引き付けるべく、昴は再度ドローンを迂回させる。今度は逃避行のためだ。


「千晶!逃げるぞ‼」

「行こう‼」


 ワイヤーを握ったまま千晶はもう一本ワイヤーを屋上から引っかけ、そのまま地面へ投げつける。将斗に使えと言っているのだ。


「ああ‼」


 二人はマンションの屋上からワイヤーを伝って降り始めた。


「カメラの感度がまだ良くないな……だが戦闘には十分だ」


 カメラは感度が良いほど高くついてしまう上に用意が難しい。なのですぐさま使える安いやつを選んだのだが。


 はい、そうです。昴はそのせいで二人の顔をまだ確認できてません。


 二人がマンションから降りたのを確認し、昴は二人へ銃を向けたままドローンを撤退させる。


「さぁ、来い‼」

「「逃がすか‼」」



 一方、紫音は……


「外が騒がしい気が……」



 二人へ発砲しながらドローンはなおも移動を止めない。無数の弾が雨のように降り注ぐ。


「くっ‼」

「将斗!木影に‼」


 二人が隠れた木の幹に弾丸が食い込む‼


「まるで戦争じゃねえか‼」

「旧式ATC より速いから近づきにくい‼」


 二人は別れて十字になるように発砲。しかし昴が腕によりをかけて改良したドローンはその弾を受けても貫通させることはなかった。傷やへこみはあるけども。


「僕がそこまで無策だと思ったかい‼」


 ドローンが使い果たしたマガジンを排出し、新しいマガジンを挿入。装填した。


「まさか長期戦になるとはな……!」


 嘘だろうと言いたくなる気持ちを押え、将斗は強がって笑う。千晶はマガジンを吐き出した箇所から、銃弾が格納されてる箇所を想定した。


「将斗!前方操縦部‼」

「何?」

「カメラと制御部‼」


 そう、昴は制御装置をカメラの近くにセッティングしたのだ。そうなると前方が重くなるのだが、真ん中から後部にかけて重り代りとして武器を格納していたのである。

 つまり前方を破壊すれば相手の制御権は無くなる‼


「そうか……ナイス、千晶!」


「弱点に気付いたようだね……だからこそそこは強化されてるんだ‼」


 ドローンの乱射が二人の足下から背後にかけて放たれた。思わず二人は安全な壁を探し、身を隠す。


「あれならバッテリーも持ちそうだしな……千晶、銃は?」


 千晶はマカロフを兄に手渡した。


「お前のは?」

「ある。でも制御装置、銃で撃てば……」

「後方の武器に引火、誘爆、そして手りゅう弾がドン‼……か」


 やり方は限られる。撃墜してもできるだけ人気のない場所を選ばないとならない。銃で応戦出来るのはそこに入ってからだ。


 二人の隠れる壁を銃弾が襲う。


「くそっ、やっぱり兄貴を呼べ……ねぇよなー……」

「ダー。何も知らずドローンを撃ちそう、こわい」


「ぶぇっくし‼」


 くしゃみで鼻水が飛んだ。


「……フフフフ、愛しのマイブラザー達が僕を呼んでるのかな?だけどごめんね……僕は今、闘ってるんだああっ‼」


 ここまでドローンで戦える人間で小樽にいる人なんて兄ぐらいしかいない。それに気付けない二人も二人だが、いい加減、今闘っているのがその愛しのマイブラザーであることに気付かない昴も大概である。


「どうやら向こうも人を巻き込みたくはないみたいだし、僕もそろそろ仕留めに行こう」


 相手の心理を読み取るくらいの力がありながら、兄妹だとまだ気付いていない昴は次の装置を起動させた。


 ドローンの腹がハッチとして開き、小さな缶ジュースサイズの弾が装填される。


 昴の特・製★

 ちなみに威力はC4未満。


 影から覗いていた将斗は愕然とした。


 千晶は「えー……」と呆れた。


「おいおい、嘘だろう……」

「どこの武器開発研究者?」


 二人の隠れる建物は空きアパート。誰かを誤って殺すことはありませんでしたとさ。


「ムリムリムリムリムリ!」

「ニェット……ニェット、ニェット‼」


 間一髪。二人の隠れたアパートの壁は綺麗に抉られた。


「まじかよぉ‼」

「……ラジコンにここまで搭載、できるの?」


 千晶の疑問はごもっとも。昴の改造したラジコンは質量の法則を無視していた。無視どころかねじ曲げてさえいる。


「さあ、僕の番だ‼」


「うわっ‼来やがった‼逃げろ‼」


 こうして昴のドローンと弟達の追走劇が始まった。


 トンネルに逃げ込むが着いてくる。あと、乱射してくる。


 風船を持ってニコニコしていた母子を通り過ぎる。弾は風船を破裂させた。


「ママァーッ‼」


 当然、子供は泣き叫んだ。


 場面は変わって港駅の前。部活帰りにショッピングモールでアイスを食べ、切り上げた学生の横を通過。


「うわっ、なになに⁉」

「映画の撮影?」


 さらに場面は変わって南小樽駅近辺。痴ほう症を患い、徘徊していた老人の横を通過。弾は老人の足下で弾けた。


「ふぁっ⁉祟りじゃ……祟りじゃあああっ‼」


 老人の落とした入れ歯を弾丸は無慈悲にも破壊した。


「くそぉつ‼周囲に被害(?)が!」

「なんでイゴールみたいな目に私達が……」

「……なぁ、イゴールって今、どうなってんの?」

「さぁ、死んでるんじゃ?」


 この時系列はイゴールが死んだ後です。


 場面は変わって天狗山。夜景をバックにカップルはイチャイチャしていたが。


「見てごらん、ハニー。あれが水族館。あれが僕の母校の……」

「ねぇダーリン、あのチカチカ光って移動してるのは?」

「ああ、あれはガンファイアさ。僕らには関係ないよ」

「もう、冗談好きなんだから」


 カップルはそのままキスをした。


 またまた場面は変わって南小樽駅から小樽駅に向かう道。ここは古くからの喫茶店や焼き肉の店があるわけだが。


「何か刺激が欲しいのよぉ~」


 OL が喫茶店で話をしていた。


「ええ?刺激なんてそんな」

「例えばさぁ、今スパイが追いかけてくるトコに遭遇したり」

「ないない」


 窓の向こうで激しい銃声を鳴らしながら二人を追いかけるドローン、それから逃げる二人が通過した。


「……あんなのとか」

「……まさかぁ」





 逃げに逃げ回り、二人が辿り着いたのは水天宮神社だった。


「って、住宅地じゃねえか!」

「あー……」


 ノンストップで走り回り、二人は息を切らし始めていた。将斗に至っては膝に両手をついている。


「やべえよ、もし近くの民家にあいつが落ちたら‼」


 水天宮神社は花銀通りの上にあった。落とすなら神社前の広場しかない。


「なぁ千晶、何か手はないのか⁉」

「……ドローンもろとも自爆?」

「脚下!」

「将斗が私を信じてくれるならひとつ」

「あるんだな⁉」

「あれをこーして……」

「これをあーしてだな……ってわかるかああぁっっ‼」


 そんなくだらないやり取りをする二人の上にドローンが舞い降りた。銃が二人に向けられる。丁度将斗と千晶が向かい合い、千晶は相手に背を向け、屈んでいる将斗の顔は見られてない。

 なんとまぁ間の悪い。


『ここまでだ』


 変声機で高くなった声が二人に投げ掛けられた。


『両手を挙げてこっちを見ろ。色々聞きたいことがあるからな』


「……で、なにをどーするの?」

「タイミング見て、私が動く」

「ふむふむ」

「将斗は……」

「……了解」


 小声でやり取りをする。

 昴は二人の様子を確認しながら銃のスイッチに指をかけていた。


『まず手前の。ゆっくり手を挙げてこちらを向け』


「……将斗。お願いね」

「任せろ、シスター」

「昴兄ぃの真似?」


 小さく笑い、千晶は両手を挙げてゆっくり……


 将斗に向かってジャンプした。


「何っ⁉」


 昴にもこれは予想外だった。

 将斗の前で跳び、兄の出した両平手に足の裏を押し付けた。将斗と千晶は呼吸を合わせる。


「行けええっ‼」

「ダーアアアッ‼」


 腕の押す力と足の力がピッタリのタイミングで合わさり、千晶の身体はたちまちドローンより上へと弾けた。

 昴のドローンには弱点がある。それは真上や真下に攻撃できる手段がないこと。

 ドローンの真上に跳び、月を背景に舞う千晶はナイフを抜いた。狙うはドローンの頭に位置する箇所。


「くっ‼」


 こうなったら逃げられない。せめて苦肉の策として背中に積んでる手りゅう弾を爆発させようと昴はスイッチを切り換える。指がボタンを押すその瞬間、昴はドローンのカメラが映す人物の姿を記憶しようと見て……


「……what ?」


 刹那、モニターが砂嵐に覆われた。

 千晶の投げたナイフはドローンの制御装置へ深々と突き刺さった。





「やったか⁉」


 降りてきた千晶を抱き止めながら確認する。制御装置を破壊されたドローンは空中を未だにフラフラとさ迷っていた。


「ちくしょう‼まだか‼」

「でも制御はできない‼落とすなら……」

『……あのー……お二人さん?』


 変声機での変換がない、クリアーな声が。


 それも、めっちゃ知ってる人の声が。


「……へ?」


 将斗にとってはデジャブとも呼べた。

 何か前にも、こういうことがあったような。


『カメラが壊されて見えないんだけど……』


 だがあの時はこんな遠慮がちな声じゃなかった。


『もしかして君たち……』

「将斗……この声……」

「……なんてこった」


 ようやく3人は理解した。


『将斗?千晶?』

「兄貴か‼」「……昴兄ぃだった……」




『ええ?どうして二人が?』

「こっちのセリフだ‼戦闘機みたいなドローンで何してんだよ‼」

『僕は紫音ちゃんを誰かが見張ってたみたいだったから、それを探すべく……』

「はぁ⁉意味わかんねぇよ」

「将斗、ちょっと待ってて」


 千晶が尋ねる。


「昴兄ぃ」

『ん、なんだいマイシスター』

「昨日、そのドローンで紫音ちゃんの部屋、覗いてた?」

『え!い、いや?僕は試乗ならぬ試飛行をしていただけで……』


 ……怪しい。


「昨日紫音ちゃんの部屋、覗いてるドローンに石を投げてみたんだけど」

『え‼あれ、千晶だったの⁉……あ……』


 カミングアウト。やはり昨日の紫音への覗きは昴だった。

 苦々しくも性犯罪行為に静かに怒りを見せる千晶。事情を理解し、青筋をたててプルプル震える将斗。


 Oh. マイシスター……


 昴もようやく理解した。

 自分の行為に気付き、千晶は将斗と結託して紫音を守ろうとしていただけなのだと。

 要は自分達は紫音を守るためだけに色々やらかしたことになります!はい!Q・E・D!謎は全て解けた‼


『なぁんだ、皆誤解していただけか~あっはっはっ』

「…………」

「兄貴」

『はい?』

「まずはドローンをなんとかしろ。そして帰ったら覚悟するんだな」

『…………………………………………………………yes』


 紫音の部屋の前でドローンを飛ばしていた事実は素直に謝るべきである。こうして二人が出向いたということは紫音がそれに気付き、相談したからに違いない。不快な思いをさせたということになる。

 きちんと償うべきだ。


 ドローンを下ろそうとコントローラーを動かす。


「にしてもいつ、ドローンなんて買ったんだ?」

『これ?昔、爺ちゃん達が買ってくれたやつを改良したんだ。でも飛ばしたら鳥に襲われてね。頑丈にしてみたんだ』

「ああ、あれ……ってまてまて、あれ、ヘリコプターだろ?これ完全に……」

『古くていろいろダメになってたからさ、色々付け足してみた』

「足しすぎだろう‼」


 千晶は不思議そうにドローンを見て将斗に尋ねる。


「おじいちゃんが?」

「千晶は覚えてないのか?」

「……曖昧。でも昴兄ぃが楽しそうに遊んでたの、覚えてる」

「……そっか」


 やはり楽しい思いでは千晶にも残っている。

 将斗は妹に、花火について覚えてるか聞こうとした。


 ところで忘れてはならない。


 千晶が破壊したのは制御装置の箇所。

 それを破壊してしまうと持ち主とドローンのコネクトは遮断される。

 完全には壊してないが……



 遮断される。大事なことです。二度言いました。


「?兄貴、何モタモタしてんだよ、早く……」

『……将斗……千晶……』

「ん?」

「昴兄ぃ?」


 弟妹は首をかしげた。


『ドローンの……どこを破壊したか、わかる?』

「ダー。前頭の方に、上からナイフで……」

「カメラと制御装置、狙って……」



 さぁ、始まりました。


 お約束の展開。




『……僕の制御、うまくいってないみたい……』


 コントローラーで着陸を始めている昴だが、ドローンは高く、あっちこっちへと徘徊を始めていた。


「………………マイシスター」

「……イズヴィニーチェ…………」

「いや、お前は悪くない……元凶は兄貴だ」

「スパスィーバ……」


 だが今は罪の行方を探す場合ではない。


「まずいぞ‼なんとかしないと‼」


 千晶は早速ワイヤーで捉えようとする。しかしドローンが急に銃を撃ってきたので、あわてて回避した。


 昴がドローンの電源を切ろうとする。しかしコマンドと接続先があべこべになってしまい、停止しようものなら乱射を始め、着陸させようものならかえって飛び回り、銃撃を止めようとしたら……


「兄貴‼なにすんだよ‼」

『コマンドが狂ってる‼本来の操作が出来なくなってるんだ‼』

「電源は?」

『切ったら銃を撃ち始めた‼』

「なんじゃそりゃ‼」


 昴がコントローラーに触れなくてもドローンは勝手に動く。このままでは周囲に被害が及んでしまう‼

 ギリッと歯を食い縛り、昴はプログラミングや回線経路の図をパソコンに写し出した。

 解決の糸口になりそうなものを懸命に探す。


「兄貴‼」


 木影に隠れた将斗は必死に呼び掛けた。


「撃ち落としていいよな⁉良いだろ!」

『待って将斗!そうしたら自爆が……』

「神社前の広場なら大丈夫なはずだ‼」

『!……頼んだ‼』


 将斗と千晶は頷き合い、木影からドローンを銃で迎撃する。弾はドローンのプロペラ先端部を撃ち抜いた。


「よし‼もう片方……わぁっ‼」

「将斗!危ない‼」


 千晶が将斗の襟を掴み、神社下の坂道に飛び込んだ。

 片翼を破壊されたドローンは不安定な飛行のまま乱射を続け、将斗達の近くに着弾する。


「あっぶねー……」

「将斗!あれ‼」


 千晶が指を指す方角ではドローンが蛇行運転しながら木に衝突を繰り返し、二人とはまったく違う方向へと進んでいった。

 もし手りゅう弾が起動し、一般民家の家に飛び込んだら大惨事。

 二人の顔から血の気が引いた。


 さらにまずいのは。


『将斗!千晶!大変だ!手りゅう弾が起動したみたいだ‼』


「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼」


 ドローンを必死で追いかける。機体はフラフラと蛇行した後、花銀通りへと墜落して行くのが見えた。


 ガラァン‼ガラガラガッシャン‼


 窓を砕き、尚且つまだ暴れ、そして…………


「あ」

「え」

『へ?』


 ドローンの墜落した建物は大きな赤い炎を纏い、爆発した。

 さらに中に積んでいた弾薬も誘爆し、建物を中から確実に破壊してゆく。

 耳を塞ぎたくなる轟音。

 なにやらガラスの割れる音。

 鼻をつく、ソファーやらなんやらが燃える臭い。


「……あー……」

「……どうしよっか」


 昴が将斗の携帯に電話をかけてきた。


「……兄貴?」

『将斗!マイクが繋がらなくなった‼まさかドローンは!』

「……はい、燃やしてます……こんがり焼けてます……」


 将斗と千晶の目には、燃え盛る建物。小麦粉やなにやらが誘爆してか、花火のようにパアン!と弾けています。


 あれ?俺だっけ?また花火したいって思ったの。

 丁度良かったね。今、花火できたよ‼ 爆発したけど‼燃えてるけど‼建物だけど‼‼


 そんな将斗の現実逃避を知らず、昴は悲しそうな声で尋ねた。


『……どこに落ちたんだい?死人は?怪我した人は?』


「あ、うん。


 死人や怪我人はいないはずだよ。うん。


 えっと……落ちたのは……





 モルゲン」



 きっかけは些細な子供心


 そう、久しぶりに遊びたいと願う童心から。


 それがまさか、こんな悲劇を招くとは……






 後日……


「じゃあ私、モルゲンに行ってきますね」


 そう言ってなにも知らない紫音は家を出た。

 彼女は知らない。この前の視線の主が昴であり、水面下で3兄妹がまたどんばち騒ぎを起し、挙げ句アジトを破壊したことなんて。

 朝から3兄妹は額から汗をダラダラ流しながら知らんぷりを続けていたが、現場を紫音が見れば彼女は何が起こったかを悟るに違いまい。

 だってこの兄妹以外であの店を爆発させるような人、いるわけないし。


「……紫音ちゃんが知ったら……」

「俺達まとめて……怒られるよな……」

「……やっちゃったの……事実だし……」


 モルゲンが破壊される中、将斗と千晶はトンズラしてしまった。昴も「早く戻るんだ‼」といってしまった。

 だが関係者なら皆、わかってしまう。

 なにせ前科持ちだから。


「……本当にキレた紫音って……怖えーよな……」

「核ミサイルより怖い……」

「ははは、つまり僕らまとめてあの世行き、だね……」


 3人の声は笑っていない。


 プルルルルルルルっ‼


 自宅電話が鳴り、3人は飛び上がる。着信主はもちろん…………


「紫音……」

「将斗……出てよ」

「無理、絶対無理、死んでも無理。元凶が出てくれ」

「兄に核ミサイルへ突っ込めと⁉僕の弟はそんな薄情者じゃないはずだ‼」

「うるさい‼お前があんなことしなければ……」


 プルルルルルルルっ‼プルルルルルルルっ‼プルルルルルルルっ‼


 結局、紫音はわざわざ橘家まで戻り、3人に説教をする羽目となった。

ノルマは果たしました。

モルゲンは破壊されると。


ですがまだまだ破壊し足りません。


今後も破壊されます。

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