橘昴の日記
Q.なぜ書いた?
a.作者にもわからぬ
皆様、こんにちは。今回は僕、橘昴が語らせてもらおう。語る、と言っても見たまんまのことを話すだけさ。安心してほしい。
僕はかつてキャシー……イギリスでの上司に拾われ、暗殺技術やスパイのいろはを学んだ。それらの技は日本に帰ってからも役立っていて、ちょっとした演技や話術で日本での日常に溶け込む事が出来ている。MI 6さまさま、だね。
おかげで学校では物静かなクラスメート、地元じゃ気さくな青年として、完全な一般市民を演じることが出来てるよ。
学業も問題ない。正直、イギリスで学んだ内容よりも遥かに易しいから成績も申し分なしさ。
ここまでは自慢になってしまったね。そろそろ本題に入ろう。
そんな、完全に日本に溶け込んだ僕はいつものように日課の茶……コーヒーを口にし、自室でジャズを聴いていた。ジャズが好きなのかって?まぁ、好きと言えば好きだが、クラシックも聴くほうだよ。
僕の部屋は防音機能が完備されてるからね。多少、音量を上げたところで弟達に迷惑をかけることはないのさ。
部屋の中は本棚で壁を覆われている。大学の教科書や小説、イギリスで読んでいた本。山のような数の本だけど、やっぱり綺麗に並べたいからね。こうして本棚に囲まれた生活をしているんだ。
本以外には何かないのか?……鋭い疑問だね。それを聞いた勇気ある君には特別に教えてあげよう。
前置きしておくが、僕は弟妹と幼馴染の紫音ちゃんが好きだ。大好きだ。どれくらい好きかと言うと、一生をかけて養ってあげたいくらい。
3人には働かないでほしい。僕が仕事を頑張って育ててあげれば済むのだから。
叶うなら、仕事から帰ってきて3人に「おかえりなさい」って出迎えてもらうような……そんな将来が望ましい。
だから僕の趣味は一言で「弟妹&紫音ちゃん」だ。彼らが好きなものは僕も好きだし、3人が見せるちょっとした一面……うん、シャッターチャンスからの永遠保存だね。あー、昔着ていた、動物のパジャマ、着てくれないかな~。着てくれたらその場で撮影会をして僕のファイルに保存する。出来によってはパソコンのデスクトップにもするのに!
特に紫音ちゃんは最近、美人に磨きがかかってきたからね……他の男が寄り付かないよう、さりげなくフォローするのも欠かさないよ。え?どんなフォローをしているのって?
……答えれないなぁ……
とまぁ、弟妹&幼馴染みハーレムを完成させるためには努力を怠らないのが重要だ。僕の本棚の裏には全て隠し扉があって、そこには年下や妹が攻略キャラにいる恋愛シュミレーションゲームが37個、弟達の素敵な思い出の写真(隠し撮り)が無数……隠されている。1ヶ所、以前に見つかって没収されてしまったが他は無事だ。
あれらを失ったのは痛手だが、僕のミスディレクションと話術で被害を一ヶ所に留めることが出来たのは何よりの救い。ましてや普段の盗撮技術もキャシーからの賜物。ビバ、キャシー‼君の教えのおかげで僕は楽園を作り上げ、そして守ることが出来ています‼
コレクションはこれだけじゃないよ。クローゼットを開ければ壁には弟妹&紫音ちゃんのフォトアート。さらにそのなかには以前に紫音ちゃんが着たドレス(ダブルフェイス編より)。机には3人の好みが分析された『手帳』や、3人の行動がいと細かに記された『日記』。パソコンには3人が作ってくれたお菓子や料理の写メがデータとして全て保管されている。ときめいてしまったボイスも勿論データ化!僕に死角はない!
そういえば今日はそろそろ、あれが届く頃だね。僕も必要な物はネット注文するんだよ。例えばこだわりのコーヒーのサイフォンとかね。
コーヒーのおかわりを淹れながら隠し扉を全開。好きなものが僕の周りを埋め尽くす。
ああ、好きなものに囲まれての至福の一杯……
ビューティフル‼
囲まれているだけで、幸せな気持ち!そこへ曾祖父直伝のコーヒー‼たまりませぬ‼‼
こうして僕は楽しみな時が来るのを、こうして優雅に待ち続けるのだった。
「兄貴……悪い、英語教えてくれないか?」
リビングに行くと弟の将斗が教科書を手にやって来た。高校生にもなって兄に聞くのが申し訳ないのか、気まずそうな表情である。
迷惑なわけあるものか。最愛の弟がこうして甘えてきてくれるんだ。むしろウェルカム‼‼
「ん?文法かい?」
「あ、ああ……この文章が……」
そうして開いて見せたのは評論を英語に直したものだった。
日本の言葉は表現が多数だからね。英語に直すととてもじゃないが再解読するのが難しいみたいだ。ま、僕はそういうのも慣れてるが……
「うん、これはことわざを引用してるみたいだね。例えば……」
こうして僕が難しい箇所をいくつか紐解いてみせると、将斗の表情には明るい何かが差し込んだ。
「そういうことか……サンキュ、兄貴‼」
「ノープロブレム。弟のためなら、ね」
ああ、可愛いなぁ将斗は!頭を撫でてやると恥ずかしそうに逃げ出してしまった。
するとキッチンから千晶が。
「あ、昴兄ぃ。コーヒー飲んでた?」
「そうだよ」
千晶からは甘い匂いがする。お菓子を作ってたようだ。料理はするけどお菓子は滅多に作らない子だからね。珍しい。
「クッキー、作ってみたの。どうかな?」
そう言って差し出されたのはこんがり焼けたクッキーだった。うん、見た目も申し分ない。
受け取ろうとするが千晶はクッキーを手放さない。少し紅潮した顔で僕の口元へそれを運ぶなり
「……はい」
「?‼」
これは!
男子憧れの「はい、あーん」じゃないか!
妹はお父さん似の凛凛しい顔つきだけど可愛いからね‼何度でも言おう、可愛いからね‼
思わず僕もどぎまぎしてしまうが据え膳食わぬは男の恥‼ありがたく頂戴しよう‼
差し出されたクッキーをくわえると妹は嬉しそうにはにかんで見せた。程よい甘さと芳ばしい香りが口に広がった。
「どう?」
「うん、丁度いい甘さだよ」
思ったままの感想を述べると妹は小さくガッツポーズを取った。
こ、この姿は……天使‼
隠しカメラでの撮影も忘れない。この笑顔は100万ドル出しても足りないからね‼
この興奮、後でコーヒーを飲んで鎮めなくては……
ありがとうお父さん、お母さん。
僕は素敵な弟妹を持ちました。
僕らを産んでくれてありがとう‼
なんて素敵な日だろう。
大好きな弟や妹に甘えてもらって、夢見心地の気分だ。
「あの……昴さん」
最後の一人の声に、もはや反射とも呼べる速度で振り返る。
立っていたのはお待ちかね、紫音ちゃんだった。
「紫音ちゃん……どうしたんだい?」
「あの……昴さんに渡したいものが……」
もじもじとする紫音ちゃん。
紫音ちゃんがくれるならなんでも嬉しいよ。お菓子かな?
「あの……これを……」
そう言って差し出されたのは………………
……………………………………
…………………………
………………
……。
「……気絶するには早いぞ……バカ兄貴がっ‼」
「おぶふぅっ⁉」
我ながら汚い声が出た。我が家ではない天井が目に入ってきた。
この装飾……ああ、喫茶店モルゲンか。
僕を見下ろしているのは最愛の3人。将斗は憎悪に顔を歪め(可愛いなぁ)、千晶は冷たい目をし(でも可愛いなぁ)、紫音ちゃんは顔を真っ赤にしていた(綺麗だ。結婚してください)。
「ああ……僕は幸せだ……」
「「黙れ」」
弟妹の声は冷たかったが、僕の頭は今、幸せに満ちている。
「紫音ちゃんとのペアリングなんて……素敵な……」
「「黙れ!」」
そう。あれは夢だったのだ。
将斗に甘えてもらったのも、千晶からクッキーを「あーん」してもらえたのも……
紫音ちゃんからペアリングなんてもらって、さらには告白されたのも。
「どうして夢なんだよぉ……」
「「だ、か、ら、黙れ!」」
弟妹の蹴りが鳩尾にのめりこむ。痛い痛い、冗談じゃなく痛い。でも二人にかまってもらえて嬉しい。愛してるよ。
「これはどういうことだ‼」
将斗が突きつけたのはビニールに包まれ、丁寧に折り畳まれた枕カバーだった。
ああ、そういえば僕は喫茶店で商品が来るまで時間を潰そうとしたのだっけ。
そこへ3人がズカズカとやってきて……
タコ殴りにされて
「どうして将斗が……」
「段ボールゴミが明日だから、今のうちにまとめようとしただけだ‼そしたら中からこんな……」
ああ、段ボールのごみ捨てを率先して引き受けようとしたんだね。流石だよ、将斗。愛すべき僕の弟よ。
そして見たんだね……中に入っていた商品を……
抱き枕カバーver. 紫音ちゃん(特注)。隠し撮りした中でも良い出来(ドレス姿の)、等身サイズ、裏面はパジャマ姿。
定価、12000円成り。
サイズや拡大にかなりの労力と発想力を要した、渾身の一品……
「どうしてあの時の……写真を持ってるんですか‼」
暴力への後ろめたさがあるようだが、それ以上に羞恥心が強いのだろう。紫音ちゃんの批難の目は焦りと恥ずかしさの動揺に揺らいでいた。一緒になって僕を殴らないのは最後の理性といったところか。
うん、可愛いよ、やっぱり綺麗だよ紫音ちゃん。僕と結婚しよう。
あ、でもそろそろ意識が……蹴られ続けたからか朦朧と……
「う……うーん……困った顔も愛くるしいね、紫音ちゃ……ゲフッ」
「前から変態だと思ってたけど……」
僕の言葉を蹴りで遮ったのは妹だった。
「まさかここまでだったなんて……」
「怒らないで、マイシスター……寂しいなら君の抱き枕カバーも発注……べふぅっ‼」
痛い、痛い。横っ面は蹴らないで。意識が持ってかれる。
というか君、今は拉致られてるんじゃなかった?
注意・本編にある氷雪の音楽隊の最後より
ゲスゲスと蹴られるうちに痛みも無くなってきた。もしかしたら感覚の全てが麻痺してきたのかもしれない。
だけど、なんでだろう。
コレクションに囲まれるよりも今が素晴らしいくらいに幸せに感じてしまうのは。
「僕は君たちへの愛を形にしたいだけさ……わかるだろう?恋人に指輪を贈るような……」
「わかるかっ!」「抱き枕カバーなんて聞いたことない!」
ああ、容赦のない蹴りが僕の両頬を……
小さい頃、僕は今ほどでもないが弟妹を愛していた。紫音ちゃんにまだ恋愛感情は湧いてなかったが、弟妹動揺に大切だったはずだ。
当時はまだ幼くて、僕に甘えてきた二人。将斗は外で遊んでほしいと、千晶は絵本を読んでほしいと言って、僕を引っ張りあっていたっけ。
遠くから二人の愛くるしい声(当時の)が聞こえてくる……
「兄ちゃん、遊んでよ!」「お兄ちゃん、今日はこの本がいいの!」「ちあき、お前はあっち行ってろよ‼」「いーやーだーっ!」
…………うん、思い出すだけで胸が満たされる。
「油断も隙もあったもんじゃねぇ‼」「将斗!そっち押さえて‼」「こんのバカ兄貴がっ‼こんなのにも着手しやがって‼」「本っ当……変態‼‼」
……ああ……そうか……
薄れ行く意識の中で僕は確信を得た。
弟妹コレクションに囲まれるときは幸せだ。
だけど、本物にこうして囲まれてるときは……もっと幸せなのだろう。
例え受けるのが愛ではなく暴力だとしても……
そして紫音ちゃん……本当に綺麗になったね……
小さい頃はいつも見守る側にいた君だけど、君と一緒にいる時……とても……幸せで……
ゴシャアアアアッッ‼
将斗と千晶の脚が振り下ろされ、昴の頭を勢いよくモルゲンの床にめり込ませた。カウンターの五木が「ああっ!せっかく直したのに‼」と叫ぶ……
一面に広がる御花畑。雲ひとつない空の下、もう一人の家族のもとへ駆け寄る。
ああ、なんて美しい世界だろう。
弟妹に愛され(?)、迎えた最期ならば。
我が生涯に一片の悔いはない。
僕も向かうよ。君のもとに。
昔はその真っ直ぐな佇まいが恐くも感じたけど、今はそれが聖母のようにすら見えるよ。
キャシー……ああ、キャシー……
話したいことがいっぱいあるんだ。
「キャシー‼」
「そんな死に方でこっちにこないでちょうだい。馬鹿馬鹿しい」
聖母は迷える子羊(昴)の顔面を片手で掴むなり、女性とは思えない力で俗世へと押し投げた。
「……一時は心肺も停止していたのに……」
「……すごい生命力だ……」
「そして実の兄を躊躇なく蹴りつける将斗さんたちも……」
屍を見下げながら感嘆を述べる五木と山縣。将斗・千晶・紫音の3人は抱き枕カバーを処分すると言って立ち去っている。
二人に心配されながら倒れる昴の顔は至福の表情を浮かべ、頭上には天使の姿さえ見えてしまいそうなほど幸福のオーラを全開に出していた。
死ぬほど蹴られたと言うのに、だ。
「にしても抱き枕カバーとは……」
「かなりのクオリティーだったな……才能の無駄遣いとはこのことか……」
「さすがに怒ると言えば怒りますが……ここまでは……」
「……床……修理しなくちゃな……」
二人はため息をはく。五木にいたっては今にも泣き出しそう。
「直したばかりなのに……」
床破損の根源である昴はというと、あの世から上司に強引に押し返され、現世の夢にうつつを抜かしていた。
先の、弟妹達に甘えてもらう夢の続きナウだ。
「ふ……ふぇふぇ……紫音ちゃん……式はいつ挙げようか……ありがとう、千晶……照れるよ、将……斗……」
とまぁ、夢でキャシーに会ったりもしたわけだが、僕は懲りないよ。
ここで僕が折れたら、弟妹への愛がその程度でしかなかったと言われてしまうからね‼
そんなわけで用意しました。抱き枕カバーと盗撮を認めないなら、本人たち周知の物ならOKなんだね‼
タブレットを大量購入、壁と言う壁に取り付け、フォトアプリを起動!小さい頃から最近のまで、本人たちもよく知る写真が僕を取り巻く。写真が替わるたびに音声もつくよう設定も完了。僕に抜かりはない‼画面も僕のリモコンひとつですぐさま、世界の景色を写した画像に切り替わるのさ!
今度こそバレない!今度こそ僕の楽園は完成しt ……
昴の日記はここで途切れた。
おまけコーナー
紫音の抱き枕カバー、ついに来日!
碧き光のネメシスのヒロイン、日下部紫音を堂々のプリントアウト!
表はダブルフェイス編で着ていたドレス、裏はパジャマ姿!(盗撮です)
スイッチの切り替えを身につけた今の紫音なら、抱き締めても干渉されないかも⁉
定価¥12000!貴方も紫音を抱き締めて一緒に寝よう‼
発売……されません