感謝!PVユーザー1000突破‼
初めて書いた作品、碧き光のネメシスを読んでくださりありがとうございます。
こちらの作品はコメディに偏っております。
「兄貴、鶏のテイクアウト、準備出来たってよ」
橘家の次男、将斗が電話を片手に呼び掛ける。
「お、そうか。それじゃあ行こうか」
純白のテーブルクロスを広げていた兄、昴が笑いかけた。キッチンで料理を作っていた妹の千晶、幼馴染みの日下部紫音が顔を出す。
「お店からですか?」
「うん。みんなで行こう」
昴は車のキーをくるくる回しながら返した。
今日はパーティーにしようとなったので、料理や装飾は手の込んだものとなっている。
メインディッシュの鶏を受け取りに、4人は車に乗り込んだ。
幼馴染みの橘3兄妹を見て紫音は微笑まずにいられない。
和気あいあいとしている彼らは近所も羨むほどの仲良し家族だ。
おかしな点をあげるとすれば、3人が別の機関に所属する暗殺者ということくらいだろう。
鶏を買って店を出た昴、紫音。千晶はケーキを買いに、将斗は飲み物を買いに出ていた。
「良かったですね。お肉、たくさん買えて」
「うん、店員さんがサービスで、ナゲットもつけてくれたしね」
盛大なパーティーになりそうだ。紫音も楽しみで仕方ない。
少し遅れて、千晶がやって来た。ホールケーキは無事に買えたらしい。
「あとは将斗か………」
車に荷物を置きながら昴が腕時計を見る。
「将斗遅いね………」
と、千晶。
「レジが混んでるのでしょうか………」
これは紫音だ。
「いや、この時間帯はあの店は……」
「「「ん?」」」
遠くから騒ぎ声が聞こえてくる。嫌な予感がした3人が見に行ってみると案の定、人混みのなかで男を組み伏せる将斗の姿が。男は女物の財布を握っており、一目でスリだとわかる。
遠くから警察が、女性をつれて駆けつけてきた。
「将斗」
男を警察に引き渡す将斗を、紫音が呼ぶ。気付いた将斗は人混みを掻き分けて、近づいた。
「悪い、遅くなった」
「いいえ。何があったのかはすぐにわかりますが……怪我はしてませんよね?」
「あたりまえだろ」
そう言う将斗に強がる様子は見られない。本当に無事でよかったとため息を吐く。
「そうだ。車はどこに停めてる?飲み物を………」
言いながら将斗が手の袋を持ち上げた時だ。
カチャン、と何かのぶつかる音が袋から聞こえてきた。4人の視線が袋に向けられる。
「「「「………………あ。」」」」
取り押さえたときにぶつけていたのだろう。
将斗が乾杯用に買ったシードルの瓶は砕け、黄金色の液体が漏れていた。
「で、ウチに買いに来たわけですね」
将斗と紫音の上司が仕事と趣味を合体させた喫茶店モルゲンを訪ねていた。喫茶店のホールを担当する五木がおちゃらけた様子で聞いてくる。
「はい……せっかく買い直すなら新しく、良い酒にしようと………」
「あー………すいません、マスターと山縣さん不在なので、私は銘柄しかわからないんですよぉ」
「充分ですよ」
昴が励ますように頷いた。将斗が続いて、酒を注文しようとする。
「すいません……それじゃ、左の棚のやつお願いしても良いですか?」
お洒落に包装された果実酒だ。
「はい、これですね~少々おまt ………」
「待つんだ、将斗」
急に昴が遮ってきた。
「?どうした?兄貴」
「せっかくなら良いワインにしないかい?五木さん、シャンベルタンはありますか?」
「ありますけど………」
「兄貴、別にワインじゃなくても………」
昴が諭す。
「せっかくだからワインの味を知るのも良い勉強さ。ジェントルマンは常に冷静、上等のワインの味がわかるっていうのが基本だよ」
なんですか?その法則性………
「でもよ、女子もいるんだぜ?イギリスのやり方にこだわらなくても………」
注意・昴のただのこだわりである。
「ダー。それに昴兄ぃ、飲み物にそこまで執着、する必要………」
「千晶。君はなぜウオッカの瓶を手に取ってるんだい?」
「?!」
ベルヴェデールを大事そうに持っていた千晶は、珍しく動揺していた。
「…小樽にあるなんて思わなかったから、つい……」
「確実に死者が出る予感がするね。それなら僕の選んだワインで………」
「待てよ、勝手に話を進めてんじゃ………」
国によって味の好みや飲む酒の種類も様々。それぞれ別の国で育ってきた3人に意見のすれ違いが起きるのは仕方のないことかもしれない。
次第に苛ついてきた3人に、不穏な空気が走り始めた。
五木が紫音を手招き、耳打ちする。
「不穏な空気だから、紫音ちゃんは外で待っててくれる?」
「ですが………」
「いいからいいから」
そうやってとにかく紫音を逃がす。
一応、マスターの天田の教えを受けた彼女には今後の展開が読めていた。
3兄妹、ケンカ。
運が悪ければ………
「仕方ないね、じゃあこれで決めようか‼」
「そうしようぜ!勝った奴の選んだ酒で決定だ‼」
「ダー‼」
こんな感じでバトルが始まるのも。
うち2名は未成年。本来ならこうしてお酒の主張が出来る立場ではないのだが………
「ちょ、3人とも………落ちつい………ギャアアアアアアア‼」
止めようとして悲鳴をあげる五木。なぜか拳銃を携帯していた彼らは銃撃戦を始めた。
店のなかで。
割れるガラス。食器。
ソファーに無数の弾痕が抉られる。耳に当ててる手を離したら鼓膜がやられてしまいそうだ。
「ちょっと、やめて!店が壊れちゃう‼」
一言でやめるようなら最初からこんな事態にはならない。
昴がテーブルにセッティングされていたナイフとフォークを、千晶が箸を取り、互いに投げつける。
ガィイン‼と金属音をあげてナイフや箸は弾けとんだ。
その真下、五木。
「きゃあああああああ‼」
将斗と昴の銃撃戦。流れ弾が斜めに位置するカウンターに当たる。
五木が隠れてます。
「いやああああああああ!」
千晶がワイヤーの付いたナイフを投げ、引っ張ることで食器棚を引き倒した。
食器棚の隣、五木。
「わあああああああん‼」
逃げようとすると3人がスピーディーに動いて近くで銃撃戦やら白兵戦を始めるものだから、五木は抜け出せない。
こんなことなら変に店の人として意地を張らず、紫音ちゃんと一緒に出ていけばよかった。
そんな後悔をする五木を余所に、戦いはヒートアップ。
昴はいつのまにやらスナイパーライフルを取りだし、千晶はアサルトライフル。将斗はバズーカを構えていた。
容赦なく壁は打ち砕かれ、ライフルの弾が怯えて縮こまる五木の脇を掠めた。
(あー………過去に紛争地に派遣された自衛隊さんは、こんな気持ちだったんだろうなぁ)
そんな現実逃避をしている場合じゃない。なんとか逃げ出さないと殺られる。3兄妹に殺られる。
匍匐の姿勢でじりじりと全身する。
「ヒィッ‼」
弾かれたらしいバトルナイフが鼻を掠め、目の前に突き立てられた。
ショックと恐怖と生きている実感。女性では色々アウトだが、失禁しても無理はない。
店の中で跳び跳ねる悪魔達の影から逃げようと、五木は逃走ルートを何度も変える。そして遮られる。
顔も下もグショグショだ。映像作品ならモザイクをかけられてもおかしくない。
「嫌です………もう嫌ですぅ~………マスタぁ~………」
情けない声をあげて匍匐のまま回避を続ける。3兄妹の流れ弾はなぜか五木へと集中していた。
「もう嫌だ………っんん?」
急に視角がおかしくなったので目を凝らす。
パンの粉の袋が撃ち抜かれ、中身が店内に充満してきたのだ。
たしかこれって………
いまだドンパチやらかす3人を見て、悪寒を覚える。
「まずいんじゃ………っ‼」
瞬間、赤い炎が店内を呑み込む。
五木の視界はなぜか、川の向こうで亡くなった祖父が手招きしているというファンタジックな世界になっていた。
モルゲンの窓や穴、あらゆるところから火が吹き出し、天井が破裂するように吹き飛んだ。
粉塵爆発。
真似しないでね絶対。
「………っ………」
困る。色々困る。状況にも、今後としても。
紫音は砕けた壁や屋根の屑がパラパラと舞うモルゲンの有り様を、見上げていた。
幸いにも周囲に巻き込まれた人(五木除く)はいないようだが………
焦げた柱とそれに引っ掛かるモルゲンの看板だけが残るこの有り様。
瓦礫の下から幼馴染み3人は這い上がってきた。3人して煤だらけでボロボロであるが、五体満足だった。不思議。
ハァハァと息を荒げながら、3人はにらみ合う。
「……やっぱり、このやりかたじゃあ決着はつかないか………」
昴が煤を払いながら言った。
「………みたいだな」
「ダー………」
そして兄妹は、紫音を見る。
こうなったとき、白黒つける方法はひとつ‼
「ねえ、紫音ちゃん!」「なあ紫音!」「紫音ちゃん!」
「「「何飲みたい?‼」」」
小樽ナイアガラの葡萄ジュース。アルコール0。瓶もお洒落。
「飲めないので………」
葡萄ジュースを手におずおずと言う。
すっかり忘れていたが日下部紫音・下戸。
3人は手に持っていた武器を落とした。
「ま、今日は色々あったけど」
「せっかくのパーティーですし」
「楽しまないとね」
「ダー、グラスは持った?」
4人は葡萄ジュースの入ったグラスを掲げた。
「乾杯~‼」
取り分けられる鶏、手作りの料理………
紫音がケーキの箱を開けると、上に載せられたチョコレートには文字が書かれていた。
≪(祝)‼1000回突破‼≫
「シト?なんのことだろう」
「店員さんのミスか?」
「何かの企画に使われていたのかな………」
「どうします?」
千晶が伝票を見る。商品は間違ってないらしいから、このケーキで正しいはずだ。
「ま、わざわざ買ってきたんだ!みんなで食おうぜ」
将斗の意見に、全員が満足そうに笑った。
楽しいパーティーはまだ続く………………
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将斗の上司、天田と部下の山縣はモルゲンに帰ってくるなり、ドサっと音をたてて手荷物を落とした。
真っ黒な柱と危なげに繋がっているモルゲンの看板。他には瓦礫しかない。
その看板も、三途の川から帰ってきた五木が瓦礫を押し退けて這い上がってきた瞬間、前触れもなく落ちて砕けたのであった。
読んでくださっている皆様にはただただ感謝することしかできません。
今後とも、機会があればこちらのサイドストーリーを追加したいと思っております。