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AEGIS-エイジス-  作者: ヘルハウンド
2nd Attack
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第十話 「awakening angels~十二使徒の覚醒~」(4)-1

AD三二七五年六月二七日午前一時四〇分


『コロセ』


 何かがそう命じている。

 命じるままに動く人形、ある意味マタイの、いや、かつて『マーク・ガストーク』と呼ばれた男の姿はそれに近かった。許されたのはある程度の自由意志と人語を発すること、そして人間時代の辛い思い出の継承、それだけ。


 マーク・ガストーク。あの有名銃器メーカー『ガストーク』の由来にもなった程の男、紅神のファーストイーグ、そして『XA-004蒼天』のファーストイーグ『モルフィアス・バーシュカイン』の親友でもあった男。

 元々彼はストリートファイトの帝王だった。孤児院を出た彼はアメリカのスラム街でストリートファイトに明け暮れた。

 戦績一五〇戦一五〇勝。圧倒的の一言に片付けられるような男だ。それ故に当時の国連にスカウトされ適性試験に合格し、モルフィアスと共に国連軍に入隊、M.W.S.並びにエイジスのテストパイロットとなり、いくつもの修羅場をくぐり抜けた。

 特にモルフィアスとのコンビネーション、『双頭龍』とも『ツインドラゴン』とも言われているそれの効果もあってか戦果は伝説となった。


 だが、ある時、モルフィアスは死んだ。

 そして、それをトリガーとするかのように、そして死んだ彼につられるかのように、ずっと戦ってきた仲間はアイオーンとの戦いによって一人、また一人と消えていく。

 そして、彼はラグナロクまで生き残った。

 伝説と呼ばれたイーグの中でたった一人だけ、生き残ったのだ。


 孤独、それ以外に何もなかった。最後の彼には、それ以外何もなかったのだ。

 マークはアイオーン以外にそれと戦い続けた。しかし、ラグナロクで死んでも、彼に安息が訪れることはなく、今再び、ここで戦っている。


 何故?


 そう言われると言葉が詰まる。

 アイオーンになったから。

 それも一つの理由だろう。しかし、自分はあくまでも『時間稼ぎ』に過ぎない。

 それでも戦う理由は何だ?

 それに迷いながら、『マタイ』となった彼は戦っていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ゼロはコクピットで荒く喘いだ。

 警報が鳴り続けている。モニターは警告メッセージの嵐だ。

 左腕部機能不全、右肩放熱フィン展開不能。

 デュランダルガンモードは撃てても一発だ。

 しかも射出後は間違いなく機体のオーバーヒートとマインドジェネレーターのダウンが待っている。

 極限状態、それ以外に何と言おうか。


 先程足を切り裂いたにもかかわらずマタイはピンピンしている。

 正直言って持ちこたえられるのか?

 そんな不安が彼を煽る。


 そして、それを嘲笑うかのようにマタイは再び走り出す。

 四本の足全てに展開している筋繊維で出来たブレードが不気味に唸る。

 相手の行動は遊んでいるようにも見える。

 そのため先程までの戦闘パターンを反映させるため回避プログラムを起動させようとコンソールパネルへと指を持って行こうとした。

 だが、腕が痛む。

 先程そぎ落とした肉の影響だ。

 傷口は完治したが動かすにはまだ余裕が足りない。


 そんな時だった。

 突然何もしていないのに回避プログラムがロードされた。

 そしてそのマタイのその攻撃を避ける紅神。

 一瞬だけマタイが驚いた表情をしたのをゼロは見た。


 何が起こったんだ?


 ゼロは一瞬頭が混乱した。

 その時、叢雲から通信が入り、横のモニターに人の顔が映った。

 その人物は、なんと叢雲医務室のトップにして紅神第五六代目イーグだった男『ジェイス・アルチェミスツ』だ。

 いや、今の彼の名は『玲・神龍』だ。

 しかし、何故今更出てくる?

 それ以前に後ろの光景を見る限り、恐らく彼が今いるのは……


「なんでブリッジにおめぇがいるんだよ?!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 玲はいても経ってもいられなかった。

 先程撤退した紫電の場所と紅神の召還された場所からして恐らく二人は戦闘をしていた。

 あの二人のことだ、死ぬ寸前までやり合うに違いない。下手したら体が動かなくなる危険性もある。

 そう踏んでいた玲は無理矢理ブリッジに進入してオペレーター席を乗っ取ったのだ。


 理由はと言うと、間近でゼロの戦闘を見入るためだった。

 なんだかんだで彼も紅神に長いこと乗っていたのだ。システムはかなり理解している。

 その上ゼロは一年間剣術を仕込んだ相手だ。性格、そして戦い方も分かっている。だから即効で聞く。


「体のどこが動かねぇんだ?」


 玲の質問にゼロは苦悶に満ちつつもこう答える。


『……右腕が普段の半分くらいしか動かねぇ』

「ンなこったろうと思ったぜ……」


 玲は呆れながら言う。

 しかし、ここは踏ん張りどころだろう。医者としてもそう思うしかなかった。

 結局人間、生き残るのに最後に必要なのは科学でロクに証明できていない気力なのだから。


「こいつぁ試練だと思え。過去振り払い第一弾だ。てめぇが今の紅神乗りなら昔の紅神乗りになんか負けンじゃねぇ。負けたら俺がイーグに返り咲く。それでどうだ?」


 そう言われて黙っているほどゼロは甘くない。自力で、それも強引に問題を解決する、そんな男だということを、玲はよく知っている。


『だったら、引退したおっさんにはすっこんでもらうしかねぇな、それも永久に』


 あっさりと言った。

 それに玲は無言で頷き、すぐに通信回線を遮断した。


「いいのか、ドクター?」


 少し高い位置にある艦長席にいるロニキスは玲に聞く。


「そうですよ、あれで彼が万が一負けるとしたら……」

「ンなことあるわけねぇだろ」


 ロイドの言葉をあっさり玲は遮って否定する。


「あいつぁ果てしないバカだ。だが、バカにはバカなりの戦い方がある。それを俺は見てみたいのさ」


 その後彼はブリッジの全面モニターに映る戦闘の模様を見入る。そして彼は、ゼロに遠くからアドバイスを送るように言った。


「力は持ちすぎたら死ぬ。力を望むなら自分にもそれ相応の力を付けろ」


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