第七幕終章
AD三二七五年七月二四日午後一一時一五分
灯火が見えている。
思えば、この間までいた千年前のアメリカは、周りに何も無かった。
だが、このフィリム第二駐屯地は、首都まで僅か一〇km。遠目からでも灯火がハッキリと見える。
下では騒がしい声がまだ聞こえている。それをバックに、一人で缶ビールをすすった。
駐屯地内の施設の屋上だった。
風が吹く。その風に乗って、少しだけ駐屯地内部の熱気も伝わってくる。
何をやったのか。それを少し考える。
作戦を立案した。そしてそれを成功させた。そこまではいい。
だが、それ以外に何をしたか。そう言われると、少し分からなくなった。
確かに、炎雷を用いて派手に立ち回ったが、それだけでしかない。
まだ、進化する余地が自分にはある。そう思えた。
「ここにいたのね」
後ろから、声がした。
ルナの声だった。
「よぅ」
ルナが、近くに来る。手すりにもたれかかって、持っていた缶ビールをすすった。
「どうだった? 初めて自分の作戦をやった気分は」
「まだ検討の余地があるってのが、俺の感想だ。あれだって浮かぶまでに半年もかかった。その地点で遅すぎンだろ。まだ早さが足りねぇ」
「確かに、そこはある。でもね、あたしは上々だと思うわよ。最初にしては、ね」
ルナが、一度空を見た。
「策ってね、あの星みたいなものなのよ。正解は無数にある。その無数の星から最上を選び出す。それが合ってるか間違ってるかは、後生の人間が決めればいい。あたしは、そう思ってる」
「策が失敗するかどうかは未知数、ってことか」
「そりゃそうでしょ。戦は生き物よ。そんな策通りに全てが運ぶなら、今頃他の国が勝ってるでしょうよ。あたしより優れた策士なんてまだまだ世界にはごまんといるし」
ルナが、ため息を吐きながら言った。
どうやら自分も、ルナも、まだまだらしい。
「ならどうする?」
「決まってるでしょ。あたしらがどうにかなるしかない。最強にして、最狂にして、最凶。それを極めるためには、あたしらがより強くなる必要がある」
ルナの眼が、こちらを見た。
何処までも見透かす水のように見えるのに、それでいて血の海にいるような、そんな独特の瞳に、いつの間にか惹かれていたのだろう。
この女がいないと、面白くない。
ゼロには、やはりそう思える。
「だから、あんたの策について、あたしに教えなさい。代わりに、あたしがあんたに策を教える。互いに勉強する。これが一番手っ取り早いのよ、戦を学ぶには、ね」
ルナが、少しだけ笑う。
だから、自分も少しだけ、笑った気がした。
「いいぜ。てめぇの策を、聞かせろ」
「なら、先に少し呑みに行こうか。意外に、仲間との呑みも、悪くないわよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ」
そう言った後、ルナが缶ビールを自分の前に差し出した。
自分もまた、差し出し返していた。
たまには、乾杯すンのも悪くねぇよな。
月が、青く光っている。
(第七幕・了)




