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AEGIS-エイジス-  作者: ヘルハウンド
7th Attack
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第四十六話『Zero-諦めないということ』(3)-2

 叩き付けられて、肋骨がまた折れた気がした。


 最近よく折れるな。


 苦笑した後、血混じりの胃液をはき出した。


 ワイヤーだ。目にも見えない早さで、まるで生き物のように食らいついてくる。

 マクスのワイヤードカタールがはじき返すのがやっとだが、それでもマクス自身も浅手を追っている。

 あれ程のワイヤー使いが、こんな状態になるのか。

 ブラッドは、相手の技量に半ば呆れていた。


 アナスタシアも何度か銃撃で牽制するが、全てワイヤーで壁を作り出して弾かれた。

 ブラスカも斬りかかるが、壁に叩き付けられる。


 ヤバい。


 それだけは、肌でしっかりと分かる。

 同時に、イーグですらなく、人間を超えた化け物と対峙するとは、こういうことなのかという気もする。


 前に狭霧と戦った時のエミリオの反応は、こんなレベルではなかった。

 まるで次元が違う。イーグ四人相手にして、相手は息切れすら起こしていない。


 あの赤い眼が、こちらを敵視していると、よく教えてくれる。

 あの獣の如き瞳孔は、イントレッセのそれと同じ、いわばアイオーンのものだ。

 レヴィナスに侵食されるとこうなる。そのなれの果てがこれなのだとしたら、自分達もいずれああなるのだろうか。

 そんなことが、少しボッとした頭によぎる。


 マクスのワイヤードランスが、弾かれた。

 互いのワイヤーで弾きあっている。

 それにアナスタシアが牽制しても、すぐに銃弾に対して壁を作った。

 何人も同時に相手をしていなしている。


 あのワイヤーをかいくぐる手段さえ見つかれば、どうにかなる気がする。

 それが、なかなか見つからない。


「生きてるやろな、ブラッド」


 ブラスカが、血を吐いた後、言った。

 ゆっくりと、立ち上がる。


「なん、とかな。ブラスカ、あいつのワイヤーの軌道は読めるか?」

「なかなか厳しいやろな。ブラッド、ワイとマクスとアナスタシアで牽制かけるさかい。突破して殴り飛ばせや」

「それが、妥当か。だが、俺の予感だが、すげぇ嫌な予感すんぞ」

「おどれの予感よぅ当たるからのぅ。せやかて、策あるか」

「どうかな。どのみち、あいつ俺達を殺したらレムの所に真っ先にいくだろうしな。そうなりゃ全部ご破算よ」

「あー……ワイらも頭使わなあかんようやな……。策がポンポン浮かぶってすごいさかいなぁ」

「まったくだぜ」


 あぁ、煙草吸いてぇ。


 そう言いたくなるが、多分吸ったら痛いなと、何処かそんなことを考えている自分もいる。

 レムの楽天的な考えが、移ったのか。レムが復帰してから、特にそんなことを考えるようになった。


 何か、何か手段がある。そう、言っていた奴がいる。

 ゼロが、そうだった。

 ルナもまた、そんなことになりつつある。


 ならば、自分もそれを習ってみるか。


 そう思い、デッドエンドを握り直す。

 マガジンの中に弾はまだある。ならば、どうにかする。

 眼を全員に向けた後、レムに通信を繋いで、状況と、これからの手順を小声で言った。

 そして、目を合わせた瞬間、全員で動いた。


 これでいくしか、ないだろ。


 まだ、口の中で血の臭いがする。

 いつものことだと、ブラッドはいつの間にか思っていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 何人来ようが、無駄だ。

 自分に力が溢れている。その感覚が、どことなく歪な物であることも、自分には分かっている。


 だが、怒りが、自分を推し進めている。何かが、魂に言い続けている。

 殺せ。そう、言われ続ける。

 どうせ、それは元から変わらない。ベクトーアが自分の全て奪ったのだ。

 だから自分も奪うのだ。殺して殺して殺し尽くす。

 ベクトーアにかかわった全てを、殺す。


 それだけを糧に、鋼糸を振るい続けた。その鋼糸で、敵を斬り、打ち、なぶり殺す。

 それが出来る絶好の相手が、今まさにいる。

 にやけそうになっている、自分がいる。


 一瞬、空気が変わった瞬間に、相手が動いた。

 重火器を扱う女が、アサルトライフルの召喚を解除するやいなや、すぐにスモークを召喚した。


 小賢しい。


 そう思った直後、その方向から銃撃があった。

 すぐに鋼糸で壁を作って防御した後、その場所に向けて鋼糸を放つ。

 斬った。その感触が、間違いなくある。


 だが、直後別の方向から銃撃があった。

 今度は真正面。舌打ちをして壁を作り、また放つ。また、斬った。

 だが、何故か、人を斬った感触がない。


 直後、殺気がした。

 上空。ワイヤードカタールの刃だ。鋼糸を振るって、叩き落とした。

 また別の方向からも、殺気。


 波状攻撃など、俺には無意味だ。


 ブラスカの、咆吼が響く。

 奴が、奴が一番、殺したい。

 そう思った時、自分も気付けば、咆哮を上げた。


 鋼糸を振りかぶる。

 殺せる距離だ。

 思って、降った瞬間、ハルバードで弾かれた。


「何?!」


 一瞬、冷や汗が出た。

 何故、はじき返せる。

 そう思った直後、スモークが晴れた。


 眼を、見開いた。

 切り裂いていたのは、セントリーガンだ。

 あろうことか、あの女は、不敵に笑いながらアサルトライフルを再度召喚している。


 そしてここまで来てようやく理解した。

 スモークを炊いた理由は、鋼糸の軌道を読みやすくするためだ。


 鋼糸は読みにくい。だが、スモークを炊けば、その部分だけスモークが晴れる。

 だから、弾くことも出来る。

 一度舌打ちしてから、鋼糸で網目状の防御網を作り出し、ハルバードを防ぐ。


 直後、何かが、地面を這った。

 そして、肩を叩かれた瞬間、殴り飛ばされた。

 吹っ飛ばされて、地面に叩き付けられる。


 痛みが、少し出て来た。歯も、何本か欠けた。

 ハッとした。

 自分が今まで立っていた場所に、ブラッドがトンファーを両手に持って、立っている。

 ブラスカに意識が集中することを狙ったのだろう。これが本命、というわけだ。


「レム、やれ」


 ブラスカが静かに言った瞬間、スプリンクラーが起動した。

 直後、指が痛み出した。


 鋼糸のユニットが、ギシギシと音を立て始めている。

 まさか。


「鋼糸最大の難点は、俺達のような武器に比べて表面積がアホみたいにでかいことだ。それが全部水を吸ってるんだ。重量は、バカみたいにかかる」


 ブラッドが、淡々と言った。


 これが、こいつらの策か。


 しかし、重い。水を吸った糸がレヴィナスになったはずの腕ですら、きしませ始めている。

 バキバキと、音が鳴った。そして、鋼糸のユニットが、壊れると同時に、自分の腕が、粉々に砕け散った。

 血は、出てこない。

 だが、痛みだけはある。


 それで、何も考えられなくなった。

 いや、一個だけ考えたことがあった。


 もうどうでもいい。

 全て、殺す。


 思った直後、自分の胴体を、何かが貫いた。

 レヴィナスの結晶だと、なんとなく分かった。

 殺意。それだけはまだ抱いている。


 その殺意で、殺してやる。


 エミリオが思った瞬間、何かが、自分が何かに変わっていくように感じた。

 天井を突き破って、そこら中に糸を垂らした。

 何か、知っている腕だ。


 あぁ、そうか。狭霧の腕か。


 それだけは、感じた。

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