第四十六話『Zero-諦めないということ』(2)-2
全員が、唖然としていた。
それは、敵味方共々同じだった。
それもそうだ。自分は、手ぶらなのだから。
だが、それは本当であり、嘘である。
「召喚、アサルトライフル、二丁」
天井に手をかざしながら、アナスタシアが言った瞬間に手に螺旋のように光が結集し、そして、アサルトライフルをいつの間にか両手に持っている。
銃器類召喚システム『System to Summon Guns』、通称『S.S.G.』。コードネーム『リットゥ』。それがこの武器の名前だ。
自分がオークションで叩き落とした、聖戦時代の遺物にして、完全レヴィナス製の重火器召喚装置である。だから自分はM.W.S.乗りにもかかわらずイーグになった。
常に精神鍛錬だけは欠かせなかったが、それ以外この武器に不満はない。
何しろ武器を何も持たなくていいのだ。勝手に武器は意識すれば現れる。それも小柄な自分のサイズにフィットした形で、である。
だから操作も楽だった。トリガーを引く感覚も、普通の銃器より軽く感じる時がある。
アサルトライフルを撃ちながら先陣を切るブラッドとブラスカに付いていく。割とあの二人は早い。
右でブラッドがマシンガン付きトンファーで相手の頭蓋を殴り飛ばせば、左ではブラスカがハルバードで敵を一刀に真っ二つにし続けている。
レムは中軍にいる。マクスがその護衛に付いているが、レムはレムで腕にくくりつけていたウェアラブル端末をいじり続けている。
何をやっているんだ。
そう思った時、急に自分達の後ろにCIWSがせり上がった。舌打ちしたが、よく見ると銃口は敵の方を向いている。
「まさか、お前」
「あったりー。クラッキングしてCIWS群全部こっちが掌握したから、こちらの好き勝手にあれが暴れてくれるよ」
さらっと何事もなかったかのようにレムは言うが、この短時間にサーバーに潜入してデータの一部を書き換えたと言う事だ。
この集団は、こんな化け物でなければダメなのか。
それを考えると、ただのイーグである自分に、何が出来るのか。
それを考えた時、後ろから殺気を感じた。
舌打ちしてからすぐに殺気がした方へアサルトライフルを向けて、放った。
当たったのは、瞬時に分かった。殺気が消えたからだ。ある程度は、何処に当たったかも分かる。
だいたい、見ないでもどうにかなる。自分は、いつの間にかそうやって鍛えられた。
いや、鍛えざるを得なかった。イーグになった結果、そしてこの武器を持った結果、重火器を平然と見切るイーグに対抗するには、相手よりも早く反応し、そして撃つ必要があった。
だから殺気だけで分かるようにした。
それを何十回も、何百回も繰り返すうちに、いつの間にか奇襲作戦で頻回に使われるようになった。
だが、それで強くなったつもりでいたのだろうか。
なんとなく、そんな気がしてきた。
殺気がする。その方向へ向けて、また撃つ。
その繰り返しを行っているうちに、廊下へ入り、そして同時に隔壁が閉じた。
「よし、パスコードも変更したから、これで当面はあいつら入って来られないよ。後は監視カメラいじくって、よし。これで監視カメラには同じ映像がループされる。撹乱には十分に使えると思うよ」
「ここまでは順調、っつったとこだな、レム」
ブラッドが、禁煙ガムを口にしながら、言った。
自分も武器の召喚を一度解除する。粉雪のように、アサルトライフルが消えた。
それをレムが、まじまじと見ている。
「珍しいか、これ? ただの召喚だろ?」
「そうは言うけどさ、やっぱ人間が扱う武器の召喚は見たことないよ。すごいねこれ」
「高かったしなぁ。だが、すげぇのはお前らだろ。あたしゃ付いてくのやっとだったぞ」
「いや、アナスタシアさん結構すごいよ」
「どうしてだ?」
「見ないで撃ったでしょ? にもかかわらずさ、相手の額抜いてた。私にゃ、その技は出来ない。それにさ、うちらって突貫するのが得意な連中ばかりだからさ、バックアップしてくれる人貴重なんだよね」
「そう、なのか?」
「アリスだけやもんなぁ、バックアップしてくれるの。後ろ支えてくれる奴がおるっちゅーだけでワイらも安心すんねん。そこはアナスタシアさすがやで。だからな」
急に、ブラスカが頭をなでた。
「な、なんだよ」
「気張んなや。気張りすぎて本来の力出せへんかったら、ワイらも力発揮できへん。せやから、気張んな。おどれはおどれが思っとる程、弱くあらへんよ」
ブラスカが、呵々と笑う。
顔が、すごく熱い。
なんというか、自分で自分が恥ずかしくなった。同時に、この男は、しっかりと見ていてくれるのか。
そう思ったら、嬉しかった。
だから、頷いてから、走った。
途中でレムだけ別れ、レムはサーバールーム、自分達はブリッジの制圧に向かった。
幸い、敵はそれ程出てこない。出て来たとしても、それ前に自分が撃ち込んで殺した。
ブリッジまでの距離は、後少しという所になった。
だが、そのブリッジに入る前が厄介だ。どうしても抜けなくてはならない場所がある。
大型の演習場だ。艦内に仕掛けられたその演習場だけが、とにかく敵を密集させるのに適しているし、間違いなくそこを最終防衛線にする。
さてどう攻める。
そんなことを考えているうちに、気付けばその演習場の扉の前に来ていた。
「アナスタシア、フラッシュグレネード召還出来るか」
「持ってる。まずは目くらましか?」
ブラッドが一つ頷く。
「俺がまずは先陣を切る。グレネード投げ込んで三秒で突入して一気に叩くぞ」
全員で、一度頷いた後、扉の前に付く。
フラッシュグレネードを召喚して、ブラッドに渡した。
「いいか?」
再度、頷いてからブラッドが扉を開け、すぐにフラッシュグレネードを投げ込んでから、一度閉める。
しかし、一瞬、その開いた一瞬、尋常ではない殺気が漂った。
厄ネタがいる。
そう思った後、扉を再度開ける。
直後、何かが目の前を通り過ぎた。
それが糸だと分かった時、すぐに避けた。
やっぱいやがった。
アナスタシアは一度舌打ちした。
赤い眼をした、ワイヤーを使う男。
その男の右手は結晶化し、七色に輝いている。その結晶化した手に、まるで小型の機織り機のような形状をしたワイヤーユニット。
見た目は変貌しているが、エミリオ・ハッセス以外に、対象者は思い浮かばなかった。
「ようやく来たか、裏切り者」
赤い眼が、こちらを見た。
獣のような瞳孔をしたその眼は、こちらを憎みきっている。
まるで闇のようにも見える、深淵が眼の奥底に広がっているように、アナスタシアには思えた。
「おどれも、裏切り者やないか。自国裏切って人間辞めて、それでおどれは満足なんか?」
「あぁ、満足しているさ。私は復讐を果たすためなら、どんな手段でも執る。そういう発想に何故至らなかったのか、今にして思えば不思議だ」
直後、殺気が強くなった。ワイヤーも、徐々に出ている。
しかし、ここでこいつを潰さなければ、ブリッジの制圧は出来ない。
さて、どう攻める。
また、それだけを考えてから、再度アサルトライフルを召喚した。