第四十六話『Zero-諦めないということ』(2)-1
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AD三二七五年七月二四日午前五時二五分
突っ込んだ。
こいつらは正気なのか。まず、アナスタシアの頭に浮かんだ感想はそこだった。
十倍もの戦力差がある連中に、問答無用で突っ込んでいく。それも、勝つつもりでいる。
そして、気付けば自分もそれで滾っている。
ブラスカがいるからだろうか。
それだけではない、何か。その何かが、自分を突き動かしているのだろうと、アナスタシアは思った。
作戦の第二段階。艦船内部へ侵入し、その内部にあるコンピューターユニットからフェンリルのサーバーへアクセスして、フェンリルのOSに対し演算処理をパンクさせるウィルスを放つ。
それで機体動作が一斉にダウンした瞬間、インプラネブル要塞のベクトーア軍は展開しているスコーピオンのバッテリー破壊作業に入る。これで完全に敵は動けなくなり、数万機の鉄くずだけが残る。
そのウィルス注入を行うのは、レムだ。
自分達はその護衛であり、撹乱する存在でもある。
まさかそれを、ゼロが立案するとは夢にも思わなかった。
前に会った時、あの時は確かに勇猛だが、猪武者の気があった。
だが、今のあいつはどうだ。まるで別人のように策をひねり出し、的確なタイミングで指示を出す。
そしてそれさえ終わればすぐさまルナの指揮下に入り、自分の腕を振るう。
何があった。正直、それが一番興味がある。
ならば、聞くまでは死なないようにしよう。
そう思って、シャムシールのビームカノンを構えた。
動かない戦艦など、ただの的だ。発射口に一発、狙撃した。爆発が起きたのを確認した後、一気に突っ込んだ。
不知火が先陣を切る。発射口に突撃すると同時にマニピュレーターで無理矢理口をこじ開けた。
やること相変わらず無茶するなぁ、ブラスカは。
アナスタシアは呆れると同時に、その熱さが昔から変わっていないところが、少し嬉しかった。
だからだろうか、フットペダルを強く押し込む。
夜は明けないが、赤い光だけが、少し見えた。炎の光だと分かると、そこに修羅場があると、すぐに理解した。
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艦内火災発生と同時に、すぐさま機体が突っ込んできた。それも五機も、である。
あれだけ少ない部隊の数をまさか二つに割るとは思わなかった。
こちらが驚く手口ばかり打ってくる。その老練さは、ロニキスとも、フレーズヴェルグとも、まるで違う。
だとすれば、真の指揮官は、誰だ。
それさえ分かれば何とかなりそうだと思う反面、強敵が出て来て面白く感じている自分もいた。
イーギスからすれば、不思議な感情である。裏方にいてこの方、味方だったフェンリルとも戦を何度かしたが、こんな感情になったことはなかった。
何処か冷めていた。そんな気がしたのだ。
だが、今はどうだ。自分は、この上なく戦を楽しんでいる。
自分の本質は、こっちなのだろうか。それとも裏なのだろうか。
一瞬、そんなことが脳裏をよぎる。
「艦長! 敵エイジス、召喚解除! イーグが侵入しました!」
「警備班を直ちに出せ。数は?」
「五名です!」
聞いた瞬間、違和感を覚えた。確かに、あそこに鎮座しているのはM.W.S.だ。
そして来たエイジスはプロトタイプ二機含めて全部で四機。
数が一人多い。
瞬間に、ハッとした。
M.W.S.のパイロットが、イーグだ。
確かにベクトーアにはそういう部隊もある。対歩兵特化とするためのイーグ部隊だ。
だが、あれはどう考えてもその部隊ではない。
とすれば、と考えた時、一つだけ、当てはまる事例を思い出した。
一人の傭兵がいた。その傭兵が、M.W.S.パイロットにもかかわらず、イーグであると。
まさか、それなのか。
確か、その傭兵の武器は。
そこまで思い立った瞬間に、映像が出た。
派手に暴れられている。そんな景色が広がっている。
敵の狙いは恐らくブリッジの占拠。だとすれば、こちらももう一つ、切り札を使うより他ないだろう。
あの男が、ちょうどいる。そろそろ出してもいい頃合いだ。
少し熱くなっている。
ふと、そんなことを思った後、イーギスは一度頭を振った。




