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AEGIS-エイジス-  作者: ヘルハウンド
7th Attack
194/250

第三十八話『竜-修羅と化した二竜』(1)-1

時間不明


 気付けば、殺風景な白い天井が、嫌でも目に入ってきた。

 何故か、ベッドで自分は寝ていた。

 少し漂う薬品の臭いなどでよく分かる。いわゆる、医務室、ないしは病院という奴だろう。


 何度こうやって眼が覚めればいいのだろうかと、ゼロ・ストレイは、自分で自分に呆れざるを得なかった。

 だが、何故自分はこうしてベッドの上にいるのか、それだけが思い出せずにいる。

 それに、病院と言うが、静かだった。窓の外からは木漏れ日が入り込んでいる。いい天気だと、そう思うには十分だった。


「あンだ、ここぁよ……」


 起き上がろうとしたとき、軽い金属音と共に何かを、手が引っ張った。

 なんだと、手を見る。


 何故か、手に手錠がしてあった。それがベッド脇の柵と繋がれている。

 それに、頭が痛んだ。


 それで、ようやく思い出してきた。

 一〇〇〇年。よりにもよって一〇〇〇年前に自分は飛ばされたというのだ。

 そう、紅神のAIが言った。

 その後、蒼天と、アウグとか言う見たこともないM.W.S.に鹵獲され、そのままそれに付いていこうとしたとき、ちょうど自分の乗っていた紅神のオートバランサーに異常が発生した。そこまでは覚えている。


 だとすれば、何故自分は病院のベッドにいて、手錠までされ、なおかつ頭が痛いのが。それが分からない。

 状況を、一度頭で整理する。

 ジンとかいう腕だけ出ていたあの存在が発した光を浴びた後、自分は一〇〇〇年前の世界へ飛ばされたらしい。

 とすれば、あの光が原因でここへ来たことはほぼ間違いないだろう。

 だが、あの光はなんだったのか。


 いや、そんなことはこの際どうでもいい。

 まずは、この場所が何処なのか、明確にしておきたかった。

 少なくとも、紅神曰く、自分が気付いたあの場所が北米大陸の旧ニューヨーク地区であるとは教えられた。

 その紅神からは下ろされたようだが、不思議なことにイーグではあり続けている。

 レヴィナスを抜かれていても不思議ではなかったが、それが行われている形跡はないし、召還印も、二の腕にある。

 故に、紅神の感覚も、どことなく捉えることが出来る。


 召喚も、十分に可能だろう。だが、この場で召喚したとしても、エネルギーはほぼカラに近い上に、左腕は欠損状態のままだ。

 何処かも分からない、相手戦力も分からない。そんな一切情報と隔離された中で、紅神を召喚しても、下手すればこの一〇〇〇年前の連中と戦うハメになる。それは下策以外の何者でもない。


 それに、わざわざ内部に入り込めたのだ。余程生命の危機が訪れない限り、召喚する必要もないだろう。

 自分としても、みすみす情報を失う事態だけは避けたかった。

 しかし、ここは本当に何処なのだろう。


「お、眼が覚めたかな、未来人」


 女の声がした。

 白衣を着たその女は、呵々と笑いながらゼロに近づいてきた。見る限りでは黄色人種だが、眼は金色をしている。多分、ハーフとか何かなのだろう。

 だが、そんなことはどうでも良かった。今は情報が少しでも欲しい。

 やはり、いくら紅神のAIが一〇〇〇年前と言ったにしても、病室の風景自体は自分が慣れ親しんでいたそれと大して変わらないのだ。金を掛けたドッキリかと、本気で疑いそうになる。


「医者か? 俺はなんでこんな状況になってんだ?」

「あ、その手錠?」

「それも含めてだ。つかよ、ここは何処だ?」

「旧アメリカ南海岸のリゾート地区。それにある国連の軍病院さね」

「その、国連ってのは、何だよ?」

「ほー。国連のことも知らんかぁ。マジで未来から来たみたいだねぇ。このご時世に国連の名前知らないって地点でねぇ、なーるほど」


 うんうんと、女は一人で頷きながら納得するだけだ。

 早速変な奴に当たった気がする。なんだか、自分の周辺にはどうしてこう変なのばかり来るのか、正直頭を抱えたくなってきた。違う意味で頭が痛い。


「でもさ、君、なんつーか、不思議な所あるねぇ。あいつに雰囲気がそっくりだ。赤い眼も含めて、ね」


 赤い眼のことを言われると、やはり少し心が荒れる。

 だが、普通の人間じみた瞳孔をした赤い眼を持つ人間など、思えば兄以外に会った試しがない。

 少し、それには興味がある。


「あいつ?」

「多分近いうちに会えるだろうさ。それまでのお楽しみだよ」


 一度、女が欠伸をした。

 最近はこういうやる気のない医者が流行なんだろうか。

 どうしてか、つまらないことを考える。

 現実逃避なのかもしれないと、ゼロは苦笑した。


「しかし、君旧ニューヨークで発見されたんだって? どう思った、あの街?」

「どう思ったも何もねぇ。ニューヨークとかいう街聞いたことねぇしよ。だが、あの戦場の跡からすると、相当でけぇ戦をやったな。ビルの風化具合からすると、もう何年も前だろ」

「ご名答だね。昔、っていわれても八年前まであった街さね、ニューヨークってのは。ある意味しょーもない、カオスみたいなそんな街だった。でも、そのカオスさ加減が、あたしゃ好きだったんだけどね」


 少し、女が暗い顔をした。

 無念さ、それが、眼の奥底から漂っている。同時に、この女は医者である前に戦人の眼をしていた。自分の師の一人である玲と同じような眼だ。

 最近は医者が戦をすることが流行なのだろうかと、そんなくだらないこともゼロは思う。


「あの街の防衛戦、八年前に失敗してね。今やあそこは無人の街さ。せめて、エイジスがもう数年早く量産体制整っていれば、もう少し変わったのかもしれないけどね……」


 一つ、ため息を女がした。

 エイジスと言うが、実際にはプロトタイプエイジスであることは、一〇〇〇年前にいることが本当であれば間違いない。確かに、あの頃はまだ量産すらされていなかったし、確かこの時代には、今と違ってアイオーンレーダーすら存在しないはずだ。負けても仕方がないのかもしれない。


 そこまで浮かんで、ハッとした。

 一〇〇〇年前。ということは、この時代は、聖戦のまっただ中だ。


 アイオーンと人類の初めての遭遇戦。一五年続いた戦の果てに、二二七五年、ラグナロクが起きる。

 それで、一度世界はリセットされたに近い状態までなるはずだ。その果てに、自分達が当たり前のように過ごしている、企業国家の台頭などが起こってくる。


 それを、防げとでも言うのか、それとも、何か別のことをやれと言うのか。

 どちらにせよ、少しばかり学んだ兵法も役に立つのだろうか。そんな貪欲なことをふと考えた。


「あぁ、ごめんごめん。自己紹介がまだだったね。あたしはライン・アオイ・コバヤシ。イーグ兼医者、っていったところだ。医者の方が本職なんだけどね」


 呵々と、ラインが笑う。

 コロコロと表情が変わる奴だと、少しだけ呆れた。


 同時にこの名も聞いたことがあった。

 伝説と歌われたイーグの一人だ。XA-002龍王(りゅうおう)のイーグ。


 確か、歴史の通りに進行すれば、この女は一年後に死ぬ。

 だが、言うのは酷という物だし、ひょっとしたら、歴史がこれで変わるかもしれない。

 そんなことを、何故か柄にもなく思う。


「で、未来人。君はなんていう名前だい? 流石に未来人って呼び名はちょっとまずいからね」

「ゼロ・ストレイだ。そう名乗ってる」

「ふーん、ゼロ君か。名乗ってるって事から察するに、それ本名じゃないね」

「そもそも、俺ぁ名前なんざぁねぇからな。鋼、とも呼ばれてる」

「鋼、か。ま、ゼロ君でいいや。とりあえず、検査終わったら、行ってもらいたいところがある。君にお呼びが掛かってるんでね」

「あぁ? 誰が呼んでやがんだよ? それとも何か? やっぱここぁドッキリかなんかか?」

「はぁ? 君を運んできた奴に決まってるだろ。それ以外に、一〇〇〇年後から来たとか言う君を呼ぶ奴、誰がいると思う? とりあえず、軽く検査だけしたら、案内するさ」


 それもそうだった。

 また、一人だ。

 一人でいるというのが、こうも辛いのか。


 少し前まで、よく分からないハイドラの所にいたが、今度はそういった敵味方でも、知っている奴は誰もいないのだ。

 いや、自分は元々一人だった。そうだったはずだ。

 だというのに、何故、こうも一人がきついと感じるようになってしまったのか、ゼロにはそれが分からなかった。


 そういえば、ルナやレムにも、まったく会っていない。

 あいつらも、この世界に行ったのか。

 それとも、死んだのか。

 それが分からないのが、存外辛い。


 思えば、武器ケースにルナに返そうと思っていた本があるのだ。

 くだらないと、人は笑うかもしれないが、どんなくだらないものでも、借りを返す。

 それが自分なりの生き様だ。

 拳を握る。痛みは、全くない。そう言い聞かせ続けた。

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