第六幕終章
時間不明
頭に、アラームが響いて、それで起こされた。
ハッとして、飛び起きる。
「何が起こった?!」
紅神のコクピットで、ゼロは一度、頭を振って徐々に脳を覚醒させる。
ジン。あの腕には、確かにそういう反応が出ていた。
しかし、あれは、アイオーンだったのだろうか。ぶった切ったのは事実だったが、灰にすらならなかった。
何か別の物なのか。
そんな考えを巡らそうとした時、ようやく目に入ったその光景は、ただひたすらに続く荒野だった。それが、モニター越しに延々と広がっている。
一度、目をこする。
夢か?
だが、それにしては現実味がありすぎる。
だとすると、恐らくこれは、現実なのだろう。
再度、レーダーを確認するが、あのジンの存在も、敵味方の反応すらもない。
まさか、全滅か。
そう思ったが、紅神の現在の位置表示機能が、奇妙な場所を示していた。
北米大陸。それも、旧ニューヨーク市街地という、聞いたこともない場所を指しているのだ。
それに、何故か、年代も変なことになっている。
何故か、一〇〇四年前になっている。日付が、『二二七一年五月二九日』となっていた。
「んな時に故障かよ……」
ったく、と、舌打ちした直後、警報が鳴り響いた。
急速接近してくるM.W.S.が二機とプロトタイプエイジスが一機、こちらに向かってきている。
味方の信号だった。だが、ベクトーアの信号ではない。
国連軍。そうレーダーの識別表には表示されている。
これまで壊れたのか?
偽装信号を出している敵かも知れない。
そう考えると、紅神にデュランダルを召還させた。
しかし、それでも警報音は鳴りっぱなしだ。
それもそうだ。オートバランサーはかろうじて立っているのがやっとの状態で、なおかつ左腕が完全に欠損している。
周辺に、ベクトーアの連中の信号もない。
味方は望めないだろう。だが、そう簡単に死ぬ気もない。
さぁ、来いよ。どいつだか知らねぇけどよ。
直後、通信。その相手側からだった。
『そこの紅神、誰が乗っている? マークか?』
ハイドラの声だ。
だが、その顔は、側面モニターの一角に映っているその顔は、つい数時間前まで見ていたハイドラとは、まったくの別人だ。
シャドウナイツ特有の黒コートを着ていないだけならまだしも、左半身の入れ墨もなく、それに、目が双方とも普通の人間のそれだ。ハイドラの右目と同じ黒い瞳が、左にもある。髪の毛も少し短いし、それに自分が付けた左頬の刀傷もない。
それに、マークと言った。マークに紅神と言われると、思い出す人物がいる。
マーク・ガストーク。紅神のファーストイーグだった男。そして、この前十二使徒『マタイ』のコアとして現れ、そして、そのコアは自分が完全に破壊した。
何故、奴はその名前を言う。
「おい、何言ってンだ? 奴ぁもう千年以上前の人物だろが」
『やはりな、マークではないか。なら質問を変える。貴様は、誰だ。何故紅神を持っている? 形も相当変わっているのも、なおさら疑問だ』
ハイドラは下手くそではあるものの隠し事こそするが、嘘をつく人物ではない。
だとすれば、こいつは、誰だ。
レーダーが、相手の機体を識別した。
蒼天と、脇にいるのは、U-MT-08アウグという聞いたこともないM.W.S.だ。
しかし、レーダー上に示されたデータにそう記されていると言う事は、紅神はこの機体を知っていると言う事になる。
紅神が開発されたのは、二二六五年だと、玲から昔聞いたことがある。ということは、最低でもそれまでに遭遇した敵味方の機体データは紅神の中に入っている。それもプロトタイプエイジスならば、千年分に及ぶ膨大なデータだ。
その千年前のデータの機体がおり、ハイドラがまるで人間とまるで変わらない目をしている。
まさか、ここは本当に千年前なのか。
「なら、てめぇは、誰だ」
蒼天が、自分をじっと見た。蒼天だけは、自分が見た時と何も変わっていない。
『質問しているのはこちらだが、まぁいい。俺は、モルフィアス』
「モル……フィアス……? まさか……」
『モルフィアス・バーシュカイン。XA-004蒼天のイーグだ。では、お前は誰だ?』
「俺は……ゼロ・ストレイ」
モルフィアス・バーシュカイン。何度も聞いたことがある。最初期に開発されたプロトタイプエイジス十機を操っていたイーグの一人。
それが、ハイドラとまったく同じ声や喋り方で存在している。
ならば、まさか、ハイドラはこいつか?
だが、それを決めつけるのは早い。それに、ここが何処だかもイマイチ分からない。どちらにせよ情報がいる。
『ゼロ、か。生体反応が確認出来ると言うことは、アイオーンではなさそうだな。だが、聞きたいことは山ほどあるからな。拘束させてもらうぞ』
渡りに船だった。拠点に連れて行ってもらえるなら、何か情報を得られるだろう。それに、捕まることもまた、慣れっこだった。
横に、アウグとかいうM.W.S.が付いた。ゴーグル状のカメラアイは、どことなくベクトーア製を思い起こさせるが、よく見ると装甲にかなり強引な軽量化が図られている。
開発発展途上の機体、という印象がゼロには強かった。どう考えても趣味を徹底的に盛り込もうとするベクトーアのやりたい機体ではない。
蒼天が踵を返し、それに追随する。
ルナやレムは、どうなったのだろう。
何故か、追随しているときも、それだけが気になった。
(第六幕・了)




