第三十六話『神KAMI-UTA歌』(4)-2
自室の窓を開ける。
僅かな風が入ってくるのを確認してから、換気扇のスイッチを入れた。
こういう時、全国に情報網があるPMSCsは便利だ。今ベクトーアとフェンリルがやっている戦局を、事細かにチェック出来る。
しかもテレビを見ていると、現地改造型のクレイモアやスコーピオンも見ることが出来た。そういうのはプラモにならないため、モデラーとしては、非常に面白い。
そういうのは現地の連中と同じように作り甲斐があるのだ。マクスは海風を感じながら、この間から部屋に積みっぱなしになっていた、クレイモアの一四四分の一サイズのプラモデルの箱を開けた。
ヘヴンズゲート総本山『ダムド』。様々な派遣業務を一手に取り仕切る、自分達のすみかだ。同時に、巨大な船でもある。
全長数十kmが何層にもなっている巨大な島のような船が、海洋を行くのだ。外から見るとたまに大きさに仰天することがある。
そこの上層の方に、マクスの実家があった。比較的外に出ているため、風をよく感じることが出来る。庭も、そこそこに広い。それが好きだったが、親からよく「薄め液のシンナーが臭い」とクレームが入ることだけは、我慢ならないことだった。
ただ、滑走路が近いため、すぐさま自分の仕事に行けるというのは、魅力だった。これ以上の土地は探そうと思ってもなかなか厳しい。
しかし、箱を開けても思うが、やはり日本製のプラモデルは良くできている。そのクセにこのサイズなら三〇〇〇コール未満で買えることもあり、他のメーカーより安価だ。数を揃えるのもそれ程気になる価格ではない。
日本にいるヘヴンズゲートの仲介人から、よくこうして日本製のプラモデルを送ってもらっていた。その量が、既に倉庫一個分に達し始めている。
いい加減さっさと作るか。そう思った矢先に、このフェンリルのベクトーアに対する侵攻があった。
依頼があるかもしれないから自宅待機してろ。上の方からそう命令されて、既に二日。
あの時任務に同道したアナスタシアはルーン・ブレイドにそのまま常駐することになったが、自分は金が高いと言われて、結局いることが出来なかった。
フレーズヴェルグと呼ばれているエースには会ってみたかったが、それに会えなかったのだけが心残りである。
出来れば、そのフレーズヴェルグの乗っている空破も、フルスクラッチしてみたいという欲望が、時たま産まれる。
自分は傭兵であるが、同時にモデラーでもありバンドマンでもある。
なんでもやりすぎだと言われるが、人生は一度きりだ。金が手には入ったら自分の趣味に全て使って何が悪いと、心底思う。
「あー、空から空破が降ってくるとか、そーゆーこと起きねぇかねぇ」
直後、家が揺れた。いや、ダムド全体が揺れた。
「なんだ?」
窓を見て、ぎょっとした。
何故か、その空破が滑走路に横たえている。それもかなりの傷を負っていた。
ベクトーアにいるはずだし、今までレーダーとかにも反応はなかった。急に現れたとしか言いようがない。
ベクトーアで何が起きている。そう思うと同時に放送も空破の様子を映す画像に切り替わっていた。
少なくともまるで反応がないようで、イーグが無事なのかも微妙だというのだ。
警報が鳴り続けている。
それで一瞬ハッとした。
クレイモアのプラモデルが、ランナーの梱包材を波がした段階で、放置していたが、とてもではないが、今の状況では作るに作れない。
プラモ作るタイミングを逃したな。
少し苦笑してから、空破を後で見に行こうとだけは、何となく思った。