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テクノブレイクしたけれど、俺は元気です  作者: 水月一人
3章・パパは奴隷でATM
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恋する乙女の秘密の部屋

 幽体離脱も戻るのも、自由自在……それじゃ、今まで自分のやってきたことは、一体何だったと言うのか……呆然としながらも、藤木は今自分の身に起こってる事態を把握することに努めた。


 しかし、取りあえずもう一度幽体離脱してみようと、意識を集中しかけたとき、ゴトゴトと音がしたあとローラー音が聞こえてきて我に返った。どうやら、誰かがエレベータを利用しているらしい。エレベータは6階を通過して上に行ったが、ここは何の変哲も無いマンションの廊下である、いつ誰がやってくるとも限らない。


 藤木は逸る気持ちを抑え、膝に手をついて立ち上がると、エレベータのボタンを押した。額から汗が止め処なく溢れてくる。上半身は汗でびっしょりで、歩くたびにまとわりついて、首を締め付けては彼をイラつかせた。


 1階に下りてくると、騒音防壁のお陰か高速道路のゴーゴーと五月蝿い音は聞こえなくなった。しかし、それでもやはり都心の駅前、引っ切り無しに車が通り過ぎては耳障りなエンジン音を残していった。


 藤木はマンションの周りをキョロキョロと見回して、どこか身を隠すのに良さそうな場所は無いかと探した。しかしそんなものが都合よく見つかるわけも無く、仕方なく駅まで戻れば漫画喫茶の一つくらいあるだろうと、二日前の夜のように陸橋を渡った。


 午前中に家を出てきたが、もう午後になっていた。中天を過ぎた真夏の太陽がジリジリと肌を焼いた。


 結局、駅前に行くまでも無く、途中でカラオケボックスを見つけた彼はそこへ飛び込み、昼間で客が入らず暇そうに欠伸をしていた店員に金を払うと、邪魔されないように一番奥の部屋へ通してもらった。店員はリクエストに少々面倒くさそうな顔をしたが、ヒトカラをする者が最近増えたからか、彼が一人であることには別段気にした素振りを見せなかった。


 要らないと言ったのだが、マニュアル対応以外は出来ない店員にイライラしつつ、フリードリンクが運ばれてくるのを待った。炭酸がシュワシュワ音を立てる中、ようやく人心地ついた藤木は、深呼吸しながら椅子に深く腰掛けると、いよいよ幽体離脱の実験を開始した。


 と言っても、難しいことは何も無い。


 先ほど彼はマンションで、もしかしたら無条件に幽体離脱出来るのではないか? と思い、試しにそんなつもりになってみたら、あっけなく彼の霊魂は体から離れた。特別なことは何もやっていないのだ。


 だから今度も、椅子に腰掛けてリラックスした状態で、


「あー……俺、幽体離脱したいなあ。なんか超幽体離脱したいなあ……」


 などとミサワのごとく呟きながら、チラッと自分の体を見たら、今度はなんの抵抗も無く、すんなりと心と体が離れて、藤木は宙にゆらゆらと浮かんでいた。


 こんな簡単でいいのかよ……と、唖然としながらも、ふわりと宙に浮かんだ状態で、隣室へと壁抜けし、次々に無人の部屋を通り過ぎてから受付へとやってきて、欠伸しながらスマホゲーをしている店員の耳元でワイワイ騒いで見せ、反応がないのを確認すると、今度は体の中に入ろうとしてみせ、それも無理と分かったら、一旦部屋まで戻ってきた。


「つか……自力で戻れるだろうな、今度も……」


 結局、一番気になることはこれである。


 藤木は椅子に深く腰掛けて眠っている自分の体に飛び込むと、戻れもどれと念じてみた。すると、自分の体に触れると同時に、殆どタイムラグなく彼の体に重力と体温が戻ってきた。


 彼は少しずり落ちていた姿勢を正すと、両手のひらをわきわきとして、それからパチンと顔を叩いてみてはヒリヒリする頬を擦りながら、


「完璧じゃねえか……」


 と呟いた。


 気づいてしまえば何てこと無い。何の苦労も無く幽体離脱が可能なのである……


 おいおい、今までの苦労は一体……と、溜め息を吐きながら、藤木はまた幽体離脱すると、今度は思いっきり上空まで意識を飛ばした。


 排気ガスだか光化学スモッグだか知らない(もや)を突っ切って、雲に手が届きそうなほど高くまで上ると、今度は落下しながら隣駅方面へと一直線に飛んでみた。


 殆ど時間はかからなかった。多分、1分にも満たない、電車よりも全然速いスピードで1駅を踏破した藤木は、自分のやったことに興奮しながら、それじゃ今度はどのくらいの速さまで出るか、七条寺の家まで戻ってみよう……と思ったところで我に返った。


 いやいや、それこそ家に帰ってからやった方がいい。知り合いも誰もいない場所で、無防備な体を晒したままで居るのはまずかろう。自分がこうして自由に飛びまわってる間、肝心の本体がどういう状態であるかは分からないのだ。


 たまたま通りがかった人が、藤木が意識を失っているのを見て、蘇生を試みてくれるならまだいい。しかし、三度の飯より昏睡レイプが大好きな、ハードゲイの兄貴にでも見つかったら一大事である。


 藤木は自分のよからぬ考えに肝を冷やすと、神速を飛ばしてカラオケボックスまで帰ってきた。慣れない場所であったから、一度入るビルを間違えて、半泣きになりながら戻ってきたが、体は元のままだった。良かった。


 彼は体に戻ると、曲がっていた腰を伸ばし、「よっしゃー!」と一声吼えると、ガッツポーズをした。


 元々便利な能力だと思っていた。テクノブレイクと言う足かせがあって、いまいち使いこなせてなかったが……それがここまで自由自在に扱えると分かっては、喜ばずに居られなかった。これさえあれば、女風呂が覗き放題である。女子更衣室も、女子トイレも覗き放題である。正に夢のスキルじゃないか!


「ひゃっほーい!」


 藤木は小躍りしながら叫ぶと、ソファに向かってダイブした。ニヤニヤしながらゴロゴロと転がっていたら、天井付近にあった監視カメラと目があって、藤木は居住まいを正した。


 もはやここまで来ると間違いないだろう。この力を天使は隠そうとしていたのだ。しかし、それは一体何故なんだろうか……?


 確かに便利な力であるが、直接的に何が出来るというわけではない。他人のプライベートを暴くくらいの使い道しか思い浮かばない。それとも、それこそが狙いだろうか。幽体離脱して、監視されたら何かまずいことがあったりとか……いや、だったら始めから出てこなきゃ良いだけだ。出てこないどころか、一緒に暮らしていたんだぞ……


「いかんいかん」


 藤木はプルプルと頭を振るった。


 天使のことは確かに気になったが、今日ここへやって来た元々の用事を忘れている。白木兄妹の問題に決着をつけようと思ったのだ。まずはそっちが先決だ。そもそも、天使のメモがあったからこそ、ここまで来たともいえるのだし、今は目の前の問題を一つずつ片付けていった方がいいだろう。


 よし、そうと決まれば……


 藤木は氷が解けて薄くなったコーラを、チューと飲むと、ワイヤレスマイクを持ち、暗記していた数字をリモコンで入力した。


 イントロが流れ出す……


 うむ。


「今日こそマスカットナイフで切るぞー!」


 目の前の問題を片付けるべく、右手を高々と上げて藤木は吼えた。まずはフリータイム、1000円の元を取らねばならない。


 


 プルルルル……と、内線電話が掛かってきた時には、喉が潰れて殆んどだみ声みたいになっていた。受話器を取ると、そろそろ時間だけど延長するか? と受付のバイトが言っている。時計を見ると18時10分前。


「ギャボン!」


 意味不明の叫び声を上げ、彼はマイクを投げ出して頭を抱えた。


 自分は何をやってたんだ、負けなかったしマカオにも着いたが、時間は盛大に潰れたぞ……


「それで、延長するんですか? しないんですか?」


 返事を返さない不届きな客に、苛立たしげな声で受け付けのバイトが改めて聞いてきた。今外に出たら、当初の目的が果たせない。こうなっては仕方ない……藤木は延長する旨を告げると、受話器を下ろし、ソファに寝そべった。


 18時まではいくら歌っても1000円だったが、18時以降は1時間1000円である。元を取ろうとして、逆に高くついてしまった。とほほほ……涙目になりながら、意識を集中すると、藤木は幽体離脱して部屋から出た。歌っている最中は誰も来なかったから、大丈夫だとは思うが、やはり無防備を晒しているのは気がかりだった。出来るだけ速やかな行動を心がけたい。


 ピューと飛んで、ビルから出て高速道路沿いの陸橋を渡り、新垣のマンションの前まで戻ってきた。


 マンションの正面に回り、エントランスホールからエレベータの方へ向かおうとして、すぐに無駄な行動であると気づいた。エレベータを呼びたくてもボタンが押せないし、そもそも壁も天井も今の藤木には関係ないのだ。


 体があろうと無かろうと、自然と常識的な行動を取ろうとしてしまうものだなと思いつつ、藤木はマンションから外に出て、ぴょんと垂直に7階まで飛んできた。


 高速道路の騒音が、ゴーッと聞こえる。


 まだ明るいとは言え、もうまもなく日の入りの赤みがかった大きな太陽に向かって、車の川が流れていた。


 騒音に耳を塞いで、新垣の部屋をちらりと見てみたが電気が点いておらず、どうやら未だに不在のようであった。


 隣室の様子を確かめてから改めて訪ねるつもりであったが……ニートの彼が昼間から一度も帰ってないとなると、もしかしたらどこか泊まりなのかも知れない。アポを取ってこなかった自分が悪いが、もしも幽体離脱が出来るようになっていなければ、とんだ無駄足になるところであった。


 溜め息を吐きつつ、ともあれ隣室の秘密を暴露してやろうと、ふよふよと飛んでいったときだった。


 入ろうとした矢先に、ガチャリ……と目的の部屋のドアが開いて、思わず仰け反った。


「お疲れ様でしたー」


 中から元気な声が聞こえて、大き目のトートバッグを肩にかけた女性が出てきた。彼女は外に出た瞬間に襲ってきた熱気に、むっと顔を顰めると、ハンカチを取り出してパタパタと扇いだ。


「先生、お疲れ様でした。担当によろしくお伝えください」


 続けざまに男が出てきて、疲れた声で部屋の中に向かって頭を下げた。いつも廊下でタバコをスパスパ吸っていた奴で、こちらは目の下に隈が出来てて、心なしかやさぐれて見える。そして、


「はい、分かりました。明日会いますので」


 最後に彼らの後ろから、三人目の女が……金髪ドリルのゴスロリ女が玄関に現れた。こう暑いと言うのに、一人だけ長袖をぴっちりと着こんでショールまで羽織っている。そして、その胸元はパッツンパッツンだ。


 彼女も二人の後に続いて廊下に出てきたが、前の二人とは違ってその暑さにも顔色一つ変えずに、涼しい顔で彼らの後をついて行った。


「先生……よく、この暑さでそんな格好してて平気ですね」

「幼少から体温が低くて……」

「偏食治さないと死にますよ、マジで」


 そして、ふよふよと浮いている藤木の前を、雑談して通り過ぎた。


 彼らはエレベータを呼ぶと、先の二人だけが乗り込んで、先生といわれたゴスロリ女性だけが残り、


「お二人とも、今月もご苦労様でした。また来月もよろしくお願いします」


 ごきげんようと短い挨拶を交わすと、二人を乗せたエレベータが地上へと降りていく……残った女性はそれを見届けた後、階段の踊り場から下を覗き込んで、彼らが去っていくのをじっと見つめていた。


 言わずと知れた、白木安寿である。


『どうせ、そんなこったろうと思ったけど……』


 独りごちる藤木の声は彼女には届かない。


 藤木たちが新垣の家でオナホを作っていたとき、白木は度々タイミングよく現れた。まるで、どこかで隠れて聞いていたんじゃなかろうか、という絶妙なタイミングで現れて、そして男たちのアホな会話に加わったのだ。それも、隣に住んでいたと考えれば納得がいく。


 いや、住んでいた……ではなく、恐らく、ここは仕事場なのだろう。先ほどの二人は、白木の漫画のアシスタントか何かであろうと思われる。つまり白木は、兄の部屋の隣に仕事場を持っていたというわけだ。


 問題は、そのことを白木兄妹のどちらも言及しなかったことだ……そして、廊下で見かけたあのタバコの男が、白木が藤木たちと一緒に歩いていても、知らん振りして声をかけなかったことからして、恐らく、この事実は秘密なのだろう。少なくとも、藤木たちには内緒のようである。


 では、新垣はどうであろうか……? こちらも多分、知らないんだろう……もしも知っていて、兄妹そろって藤木たちに隠していたのだとすると、流石にそれは謎過ぎるだろう。


 つまり、白木は兄に隠れて、こっそり兄の家の隣で仕事をしていたというわけだ。


 しかし、それじゃ何で白木はこんな二重生活みたいなことをしてるのだ? はっきり言って意味が分からない。


 新垣との会話を思い出しても、兄は妹がプロの漫画家であることを知っていた。そしてプロの漫画家が仕事場を外に持っていても、さほど不自然なことでもないだろう。ついでに言えば、白木の家は金持ちだ。


 隠す要素は何一つない。だが、現実に彼女は兄に隠れてこっそりとここに仕事場を構えていたのである……


『うーん……わからん。取りあえず、部屋の中を拝見させてもらおうか……』


 と思い、未だに階下を覗き込んでいる白木に背を向けようとしたところ、ようやく気が済んだといった感じの白木が振り返った。


 そして彼女は、エレベータの前を通り過ぎ、廊下をコツコツと足音を立てながら進み、自分の仕事場のドアの前も通り越して、新垣の部屋の前までやってきた。


 おや、なんだろう?


 兄貴は不在である。それを知らないのだろうか……と思いながら見ていたら、彼女はきょろきょろと辺りを見回してから、おもむろに鍵を取り出してガチャリと扉を開けた。


 そう言えば、合鍵を持っていたんだった。兄妹だからそれも当然か……しかし、一体兄貴の部屋になんの用事だろう……と好奇心が先に立った藤木は、隣室よりもこっちの様子を先に確かめることにした。


 玄関に入ると内部は以前のままだった。水浸しになっていた廊下も、すっかり元通りになっており、あの時の痕跡はもうどこにも見当たらない。辺りは静寂に包まれており、新垣の不在は確実だった。


 白木は玄関の鍵を閉め、チェーンロックをすると、靴を脱いで部屋へと上がった。勝手知ったる他人の我が家か、当たり前のようにずんずんと廊下を進んでリビングへと入っていく。


 藤木もその後に続いてリビングに入ると、そこも二日前のグチャグチャにされた面影など全く無いほど、綺麗に整理整頓されていた。水で駄目になったのか、いくつかの機械がなくなっていたが、大半のものは綺麗に乾かして元の場所に戻されていた。


 昨日、一日かけて片付けたのだろうか……言ってくれれば手伝ったのに。どうして頑なに藤木たちを拒んだのだろう……そんなことを考えて居た時、


「はぁはぁ……はぁはぁ……」


 白木の荒い息遣いが聞こえてきて、藤木は驚いて振り返った。


 見れば彼女は顔を真っ赤にして、空ろな瞳でフラフラとしている。


 朝から家主が不在。閉めっぱなしの室内で、長袖をぴっちり着こんでショールまで羽織ってるのだ。もしかして、もしかしなくても、暑さにやられたのではなかろうか?


 さっさと換気すべきである。それかクーラーでも点ければいいのに……そんな風にやきもきしながら見守っていたが、白木は自分の状態に気づかないのか、窓に近づかなければクーラーにも近づかない。ただ、荒い息遣いで部屋の中を、ゾンビのようにフラフラと漂流しているのである。


 どうみても苦しそうだ……一旦、体に戻って、ダッシュでここに戻ってこようか? しかし、カラオケボックスからここまで来るのにどれだけ時間がかかる? 延長の清算も済んでないぞ……つか、延長あと何分くらいだろ。時間も気にしておかなくては……などと考えている時だった。それは訪れた。


 藤木が時間のことが気になりだし、そわそわしながら見守っていたら、白木はおもむろに何も無い壁に手をついたかと思うと、突然コンコンとたたき出した。


 なにやってんだ? この人は。いよいよ頭がいかれだしたか……


 心配しながら見守っていたが、しかし、彼女は別におかしくなったわけではなかった。彼女が壁をコンコンと叩いていたら、ある一箇所だけ急激に音が変わった。おや? と思う間もなく、彼女は手馴れた手つきで壁に爪を立てると、くいっと指を動かして、何かを剥がすように引き出した。


 壁にぽっかりと穴が空いている。そして、その穴の中に、キラリと光る光学レンズが覗いていた。


 白木はこれまた手馴れた手つきで、中に入っていた恐らくCCDカメラを引っぱり出すと、持っていたポーチの中から代替品を取りだして交換した。


 続いて、壁のコンセントからたこ足配線を引っ張ってくると、その中にひとつだけあった、明らかに無駄な二股配線を引き抜き、新しいものと取り替え、刑事ドラマなんかで見たことがある、無線機のようなもののダイヤルを空ろな瞳で回し始めた。


 ハァハァハァハァ……一段と、息遣いが荒くなる。


『はわわわわわわわわわわ』


 藤木が恐れおののいていると、彼女は何かを見つけたかのような表情で満足そうに頷くと、コンとコンセントを叩いた。すると、持っていた無線機からも、コンと同じ音が聞こえてくる。


『あ、あかん……この女……ガチや……』


 思わず関西弁で突っ込みを入れるが、その声は当たり前のように届かない。対して、白木はぶつぶつと、


「ハァハァ……足りない……ハァハァ……足りないよぅ……」


 などと呟き、おもむろに台所にあった食べかけのカップめんから割り箸を引き抜くと、ペロペロと先っぽを嘗め回し始めるのだった。


「おいち……おいちぃよお……パパ……パパァ」

『はわわわわわわわわわわ』


 白木は恍惚とした笑みを浮かべ、くっちゃくっちゃと音を立てながら割り箸をしゃぶり、そして自らの乳房を乱暴に揉みしだいた。コリコリと先端を引っかく指が忙しなく蠢き、とてつもなく卑猥である。


 やがて、次第にそれにも飽きてきたのか、


「足りない……」


 と一言言うと、またフラフラとゾンビのようにリビングから出て、脱衣所のある洗面所へと足を運んだ。


 彼女の目的はすぐに分かった。分かってしまう自分がちょっと悲しかった。


 彼女は脱衣所に置かれた洗濯籠の中に乱暴に突っ込まれた洋服を見つけると、もはや取り出すなんてことはせず、そのまま顔を突っ込んだ。


「パパの匂いがする……」

『はわわわわわわわわわわ』


 すーはーすーはーと深呼吸の音が響く。気がついたら、ぴちゃぴちゃと何か水の音が聞こえてくると思ったら、白木が股間をグイグイと擦り上げている音だった。多分、彼女のパンツはぐしょ濡れだ。


 藤木は戦慄した。恐ろしくエロい光景のはずなのに、まったくちんこに響かないことに……


 やがて白木は洗濯籠から顔を上げると、パンツの股間の部分をジュバジュバと啜りながら風呂場に入り、今度はそこにあった残り湯にジャブジャブと顔をつけたりあげたりし始めた。一見して、意味不明な行動だったが、よくよく見てみると、何かを嚥下しているように喉が動いていることが分かる。


「ごくごく……ごくごく……」

『はわわわわわわわわわわ』


 その間、両腕は股間に伸びて、一心不乱に動き続けているのだった。


 驚愕に打ち震えながらも、藤木は目を放すことが出来なかった。ありがとうございます、ありがとうございます……何故か自然と出てくる感謝の言葉と、止め処なくあふれ出す涙を噛みしめながら、藤木は白木の痴態を見守った。


 じょぼじょぼと音が響いて、白木のスカートの前を濡らした。いつの間にか風呂場の床に水溜りが出来ていた。やがてバスタブから顔を上げた彼女はずぶ濡れで、今までに見たことも無いような、恋する乙女の顔をしているのであった。


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