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テクノブレイクしたけれど、俺は元気です  作者: 水月一人
3章・パパは奴隷でATM
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究極のオナホ

 オナホ研究家、池袋(生主)と知り合ったのはそんなザーメンの匂いが漂ってくるようなシチュエーションであった。突然来訪したこちらにも非はあるが、初対面から全裸で出迎えられるとは思いもよらなかった。


 池袋、つまり白木兄は長身痩躯の青白い顔をした男で、少々薄くなった頭髪に目玉がぎょろりとしており、正直、兄妹と言われても血のつながりを疑わざるを得ないほど、二人は似ていなかった。


 一応、今日来ることは、事前に連絡していたらしい白木が、兄をコンコンと説教する中、藤木たちは廊下で待たされた。ヒステリックな女性の声が狭い廊下に響く中、何故か分からないが、みんな音を立てずに、息を殺してじっとしていた。つーか、もう帰りたい。


「お兄様はどうしていつもこうなのですか? この前も……くどくどくどくど……」

「あ、はい……すみません……本当、すいません……お兄さんが悪かったです……服着てもいいですか?」


 お許しが出て、男がいそいそとズボンを引き上げる衣擦れの音が聞こえてくると、白木が苦笑いを浮かべながらリビングのドアを開いた。入って来いと言うのか。


 藤木たちは顔を見合わせるも、誰もが先を譲り合って、中々部屋の中へは進もうとせず、仕方なし、たまたま先頭にいた藤木が、しぶしぶと先頭を切って室内に入ることになった。


 なんか汗の臭いに混じって、嫌な臭いが漂ってくる。


 精子の臭いのはずなのに、クリとはこれ如何に。


 部屋のドアを潜ると、中はあたり一面がパソコンやらそのモニタやら、なにやら音響装置みたいなものや、工作台などの工業製品で埋もれており、足の踏み場が見当たらないほどだった。


 ドアの開け放たれた隣室から、人間の足がにょきっと伸びているのが見えて、一瞬だけぎょっとしたが、良く見るとラブドールだった。どこもかしこも性欲の臭いがプンプンと立ち込めていた。男の隠れ家を具現化したような部屋である。もしくは違法風俗店とか。


 そんな中、部屋の中央で上半身裸の江頭2:50みたいな格好をした男が、藤木たちが入ってくるのを見ると、眉毛をくいっと上げて、品定めするような目つきで彼らを睨んだ。


 視線が交錯する。


 無駄にプレッシャーを感じて、何か言ったほうがいいんだろうか……と、頭の中でいろいろな言葉が浮かんで消えたが、結局は、


「お、お邪魔します」


 という、面白くもなんともない挨拶しか出てこなかった。連れのメンバーが、同じように挨拶をする。白木兄はその姿を見て、はて? と小首を傾げつつ、


「ふむ……それで君たちは一体、なんだね?」

「お兄様。ですから、昨日ご連絡差し上げたではありませんか」


 ぷりぷりと怒りながら白木が説明すると、


「ほうほう、なるほど。私の研究はCIAを始めとする各国諜報員も欲するという、極めて機密性の高いものだからね。本来なら超越者たちにしか公開しないのであるが」


 嘘吐けよ。


「他ならぬ妹の頼みとあっては仕方ない。とりま、話だけでも聞こうではないか」


 なんだか偉そうな物言いに尻込みしていると、物怖じしない諏訪が訪ねた。


「あの。さっき、部屋に入ってきたときにちんこにぶら下げてた器具はなんです? ふんふん言いながら腰をグラインドしてたけど」

「ほう! 良く見ていたな。君は中々、見所があるではないか」


 いちいち偉そうな男である。


「あれは血圧計だ」

「血圧計?」


 なんでまたそんなものをちんこに巻きつけてたのか……首をかしげていると、白木兄が嬉々として語った。


「いかにも……数日前に少し体調を崩してね、これはいけないと頭痛薬をウイスキーで流し込んだら余計に世界が回り出してな。ほうほうの体で医者の門を叩いたのだが、診察の末に高血圧の気もあるからと、血圧計を腕に巻きつけられたのだ……そんな時、ギューッと血管が締め付けられるその圧力に、天啓のような着想が閃いたのだよ。これをちんこに巻きつけてみたいと」


 なんで思いついちゃったんだ。


「私はその足でビックカメラまで行くと、血圧計を購入し、早速おちんちんに巻きつけてみたのだが、これがなかなかの難物でな……決して私のあれが細いんじゃないぞ!? ちんこでは細すぎて、機械が腕として認識してくれないのだよ。仕方なし、指用のもので代用するが、それでは今度は圧力が足りず……これでは物足りないと、私は改造を施すことにしたんだ」

「……機械いじり、得意なんですか?」

「ちんこいじりの次くらいには。しかし今度はフル勃起状態では血圧が高すぎると警告音が鳴りだしてな……私はもう、このアイディアは駄目なんじゃないかと諦めかけたのだが、どうにかROMを交換することで対処し、ついに今日、血圧計でおちんちんを締め付けることに成功したのだよ!」

「はあ……」

「そこまでくると人間、欲が出てくるもので、私は更なる改造を施した。プログラムを書き換えて圧力の強弱を変え、人の手でにぎにぎするような動きを再現するところまでは上手くいった。しかし、いかんせん、握るだけでは射精には導けない。上下にしこしことさせる動作が必要なのだよ! ……だが、血圧計ではその動きが難しい。だからと言って、自分の手で上下させては、元も子もないだろう? それじゃ、なんのためににぎにぎする動きを再現したのか……それで仕方なし、血圧計をはめたまま、反動で上下さえようと腰をフンフンと振っていたところ、君たちがチャイムも鳴らさずにちん入してきたというわけだよ」


 藤木たちは顔を見合わせた。


「間違いない、池袋だ」「池袋(生主)だ」「本当に居たんだな……」「つか、キャラ作ってんだと思ってた。素でこれか」「頼もしいじゃないか……」


 藤木たちはお互いに頷きあうと、血圧計の改造についてまだあれこれと語っている白木兄に対し言った。


「あの、お兄さん!」

「む……君にお兄さん呼ばわりされる覚えはないが」

「どうか、俺たちに、一つ知恵を授けてやってくれないでしょうか」

「話してみたまえ」


 白木兄に促されて、藤木はこれまで起きた経緯を語った。


 母親が妊娠中であること、父親がオナホを捨てられて家出したこと、母が自棄酒をしたこと、それを宥めるために父親を説得したこと。


「その過程で、俺は究極のオナホを手に入れなくてはならなくなったのです」

「なるほど……罪深いものだな、親と言うものは……こっちだって好きで生まれてきたわけでもないのに、勉強しろだの働けだの、彼らの都合に我々は翻弄されるだけだ」

「いや、その思春期特有のあれな感じはどうでもいいんですが……お兄さんならきっと何か助言らしい助言を与えてくれるんじゃないかと思って、白木さんを頼って今日伺った次第なのです」

「把握した」


 すると何故か、白木兄はスタープラチナを発動する承太郎のようにジョジョ立ちして言った。


「しかし、君たちよ。オナホとはなんぞや?」

「……え?」


 宗教家でもあるまいし、オナホのレゾンデートルなど急に問われても、返答に窮するだけである。


「オナホール、オナカップ、呼び方は違えども、これらに共通したものは、女性器を模した穴であるということ、ただそれだけだ。場合によっては口腔を再現したものもあるが……要するに、女性の体の一部を切り取ったものと考えて差し支えないだろう。さて、どうして我々はこのようなものに胸をときめかすのか。高い金を払ってまで手に入れようとしてしまうのか……所詮は代替品でしかないと言うのに」

「それは……たとえ擬似であってもセックスを体現したいと思う、童貞の弱い心が生み出しているのでしょうか?」

「なるほど、弱気になればそう捕らえてしまっても仕方ないだろう。だが君、その考え方は断じて否だ。そもそも、君のお父さんは童貞じゃないだろう。それに、当たり前だが、我々はセックスがしたくてオナホを手に取るわけではない、オナニーのために手に取るのだから、女性器を模す必要など始めからないではないか」


 いわれて見れば、確かにそうだ。


「では、何故俺たちはそれを女性器に見立ててしまったのでしょう?」

「それは、そっちの方が気持ちいいからだ!!」


 どっかで雷がガラピッシャーンっと落ちた気がした。


「あ、俺、いま女性器にちんぽ入れてる……そう思ったほうが、捗るからだ!」


 その力強い言葉に、大原が叫ぶように同意する。


「確かに……俺、いま、うどんに突っ込んでるって思うと、それが背徳感に変わるまでは、始めのうちは結構大変だった。穴ならなんでもいいわけじゃない。つまり、そういうことですね?」

「いきなり食料品が例えで出てきて、お兄さんちょっと驚いたが、そういうことだ。要するに、オナホールってものは、決して女性器の代替品などではなく、右手の代替品に過ぎないのだよ……そもそも、考えても見たまえ、本物の女性器があんなにキツキツなわけないだろう? ヌルヌルなわけがないだろう。なんだったら、そこのソープで確かめてくるといい」

「……お兄様」


 白木さんが迫力のある形相で兄を睨み付けた。


「おっほん……と言うわけでね、オナホとは突き詰めて考えてしまえば、結局はただの穴で、それそのものに究極も糞もないんだよ。どうして我々はオナホを手に取ってしまうのか? それは右手ばっかじゃ飽きるからであって、じゃあオナホなら飽きないのか? と問われれば、そんなわけない。同じものを使ってればそりゃ飽きるし、だからこそあれだけ色んな種類があるわけだよ」

「……そうだったのか」

「そんな中で、何かこれといって究極だの至高だのを選んでも、詮無いことではないか。さあ、これで分かったろう。究極のオナホ探しなど、もう諦めて、君も人生と向き合う時なんだ」


 白木兄の言葉に男たちが意気消沈した。ネットでも有名なオナホ研究家によって、オナホの有用性を否定されては仕方ない。それこそ数々のオナホを使用してきた彼だからこそ、説得力もあった。こんな賢者タイムにも似た厭世的な見解にまで到達するまで、彼はオナホを探求したのだ。だが……


「でも、ちょっと待ってくれよ。お兄さん」

「君にお兄さんと呼ばれる筋合いはないぞ」

「そしたら、あんたがネットで募っているカンパは一体なんだってんだ? まさか……もの凄いオナホを作る、とかいって騙しているんじゃないだろうな」


 その言葉にハッとして、男たちが顔を上げた。そうだ……そうだった。彼はカンパを募っていたのだ。これがもし詐欺だったりしたら、とんでもないことである。しかし、挑むような目つきに串刺しにされても、白木兄は涼しい顔を崩さなかった。


「ふふ……確かに、私が作っているのは、オナホとは呼べないのかも知れない」

「なんだって!? そんなの許されるわけないじゃないかっ」

「まあ待て。オナホとは呼べないかも知れないが……もの凄いことは確かである。そうだな……今までの話で、私はオナホの可能性を否定してきた。どうしたって同じものを使い続けたら飽きるからな。だがもし、飽きないオナホを作れるとしたら?」

「そんなことが出来るのですか?」

「出来る。そのためには発想を変えるんだ。例えば……君」


 いきなり指をさされた諏訪がビクリと体を震わせた。


「君は昨日、どんなズリネタでオナったの?」

「え? ここで、言うんですか?」


 ちらちらと白木のほうを見ながら口ごもった諏訪であったが、


「昨日は……中学時代のクラスの女子を中学の教室で、片っ端から壁に手を付かせて、バックの姿勢で突き上げました。三人目で射精をしたあと、四人目が潤んだ目で見上げるものだから、仕方なく二回戦に入って、合計3発抜いてから、風呂に入って、マガジンのグラビアで抜いて寝ました」

「なかなかやるなあ……君は?」

「お、俺っすか? 俺は……日清の麺に突っ込みながら、これがマルチャンだったらな……っていう妄想で抜きました。やっぱ麺はマルチャンですよ。っていうかカップヌードルの容器が手軽すぎて、日清は飽きちゃったんですよね。いや、飽きは怖い。お兄さんの言うとおりだと思います」

「え? ……うん。君はかなり特殊なんだね。いいだろう、次」

「…………アルパカの交尾で2回」

「うっ……」


 特殊性癖には自信があったのだろうか、こっちの変態二人の言葉に、白木兄は絶句した。が、すぐに気を取り直して、藤木に聞いてきた。


「では、君は? まさか、これ以上すごいのは出てこないだろうな……」

「俺は、昨日はオナってません」

「……なんだって?」

「ですから、昨日はオナってません」

「馬鹿あああああああーーーーー!!!!!」


 ドゲシッと助走をつけて殴られた。何故だ。


「今は格好付けてる時じゃないでしょう!? いま、みんなで(つまび)らかに自分の変態性欲を披露し合っていたでしょう!?」

「うっ……すんません。確かにお兄さんの仰るとおりなのですが……」

「お兄さん、そいつは許してやってくれませんか」


 藤木が困惑していると、ガバッと諏訪が彼の前に立ちはだかって、号泣しながら後を引き取るのだった。


「実はそいつ……かくかくしかじかで、ちんぽがおっ立たない病にかかってるんです!」

「な、なんだって!?」


 白木兄は驚愕の表情を浮かべると、藤木を頭のてっぺんからつま先まで、しげしげと二回見回したあと、脱力したかのようにペタンと腰を落とし、座った姿勢のままで一歩後ずさってから言った。


「そ、そうか……そういうことなら仕方あるまい。とまあ、君ら4人を例に上げても、ズリネタというか趣味趣向は千差万別、他人と相容れるものではないということが分かるね?」

「まあ、確かに。麺の絡み具合の違いでオナったりはしませんね」

「なのに、オナホは形状こそ違えど、殆ど似たり寄ったりなんだ。これでは飽きるなと言うほうが無理だろう。だったらもう、オナホ自体には期待しないで、それに付随される属性に目を向けた方がいいに違いない」

「……どういうことです? 良く分からない」

「君たちは最初、オナホを女性器に見立てていただろう? だが、オナホとはそれ自体はただの穴だ。ただの穴を色々細工して、宣伝文句を並べたてて、女性器という属性をつけて売っているに過ぎない。そう、属性……変えるべきは属性なんじゃないだろうか。一見すると、ただの貫通型の有り触れたオナホが、ある時はクラスメイトの女性器、ある時はマルチャンの麺、ある時はアルパカのそれに変わるとすれば……それは究極と呼べるのではないだろうか」


 何を言っているのかさっぱりだった。ただのオナホが、一人で勝手に変形するとでも言うのだろうか?


「いや、変わるのはオナホでない。属性だと言ったろう。属性、つまりメタな情報だ。そんなの変えられるわけがないって? 確かに、変えられないかも知れない。だが、騙すことなら可能だろう」

「騙す?」


 白木兄は、自信満々な素振りで立ち上がると、なにやらをガラクタの山から掻き分けて取り出した。


「そう、騙すのだ。視覚的、聴覚的に、今、自分はマルチャンの麺に突っ込んでると騙すのだ。この……」


 そして一呼吸ためると、


「ARオナホで!!」


 ヘッドマウントディスプレイと、黒いマーカーのついたオナホを高々と掲げるのだった。


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