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テクノブレイクしたけれど、俺は元気です  作者: 水月一人
3章・パパは奴隷でATM
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でも日本人も悪いんですよ

「はい! と言うわけで、今週もやってまいりました! お悩み相談コーナー!」

「わあーい! どんどんどん! ぱふぱふぱふ!」

「今週も沢山のお便りいただきました。こんなに! こーんなにっ! 凄い!」

「ケンスケさんケンスケさん。これ、ラジオだから見えない見えない」

「そうだった。いやあ~、でも気持ちだけは伝わるでしょ、伝わった!」

「そっか!」

「この放送ももうじき1周年を迎えようとね、してるけれども、こんなに沢山のお便りをいただけるまでになりました。これも(ひとえ)にリスナーのみんなのお陰です。と言うわけでねっ! スタッフから巻きも入ってるんで、そろそろ今週最初のお便り、いきまっしょいっ!」

「しょいっ!」

「えー……えー……あー」

「……? どうしたんですかあ?」

「うん……えー、おっほん! 今週最初のお便り、東京都在住のザーメンまっ黄色さん(5さい)!」

「うわっ……ザーメンさん。ご無沙汰っ!」

「……スタッフさあ、この子のお便り、無条件で通すよね? 通してるよね? そうなんでしょう……ええ? 読みますよ、そりゃ……ええ、ええ。読めばいいんでしょ? あー……ケンスケさん、愛ちゃん、カルパッチョ! はい、カルパッチョ」

「カルパッチョ!」

「すっかりこの挨拶も定着しましたね……いや、初めてだよ? えー……お二人の放送、いつも楽しく拝聴させていただいております。はい、どうもありがとう。えー……先日はまた別の相談に乗っていただきありがとうございました。父の日のプレゼントとして、ケンスケさんにお薦めされたオナホール……って、薦めてねーしっ!! さらっと人を窮地に立たせるんじゃないっ!!」

「まあまあ、落ち着いて続き読みましょうよ」

「ぜえぜえ……を、贈ったところ、匂いといい使用感といい、素晴らしいものだったと、父も大変喜んでおりました。ところが、そのオナホールを巡って、姉さん、事件です……って、また古いな」

「この子、いくつなんでしょうね?」

「……愛ちゃんも人のこと言えないよね。えー……先月、妊娠が判明した母も、おなかが大分目立つようになり、いよいよ我が家も新しい家族を迎えるのだなと、心の準備も出来てきたところだったのですが……が! そんな時、とんでもない事件が起こってしまったのです。実は、身重の母を残し、父が家出してしまったのです……なんだって?」

「……本当なら大事ですね。いったい、どうしたんでしょうか?」

「えー……なんと、父が大事にしていたオナホールを、母が捨ててしまったのです……もうやだ、このリスナー……」




 父が家出したせいで、酒におぼれて泣き崩れる母をなんとか宥めすかして寝かせると、藤木は部屋に戻って、彼の携帯を何度も呼び出した。心配した天使がくっついてきてその様子を窺っていたが、しかし父は一向に電話にでなかった。


 まあ、もう深夜であったし、出て行ったばかりの父も未だ頭が冷えてないだろうし……不安げな天使を先に部屋(押入れ)に戻し、藤木は明け方まで連絡がつかないかと粘ってみたのだが、結局、こちらから連絡がつくことは無かった。


 ここ数日の寝不足で、いよいよ頭が痛くなってきたので、ベッドで軽く横になっていたら、いつの間に眠ってしまったのか、気がつけば窓の外ではカンカンに日が昇っており、冷房の効いてない室内は蒸し風呂のような暑さになっていた。


 慌ててエアコンのスイッチを入れ、寝汗でべっとりと肌に張り付いたTシャツを脱ぎ、シャワーでも浴びようかと思いつつスマホの時計を確かめると、着信ランプがチカチカと点滅している。マナーモードになっていて気づかなかった。今まさに電話が掛かってきているようである。


 藤木はスマホをお手玉しながら、慌てて電話に出た。


「も、もしもしっ!」

「……あ、藤木? お父さんだけども」


 昨晩から何度も電話を入れて、なんとか連絡を取りたいと焦がれていた父は、しかしいつも通りの飄々とした声のままで電話をかけて寄越した。思わず溜め息が漏れる。


「はぁ~……おーい、親父ぃ~……勘弁してくれよぉ」

「ん? どうしたんだい、藤木君。電話に出るなり溜め息だなんて」


 藤木はその普段通りの声を聞いてほっとした。昨晩、散々電話をかけ続け、もしかしたらもう電話に出ない可能性すら、あるんじゃないかと思っていたところだった。だが、この様子なら、少なくとも話にはなりそうだ。


「そりゃ溜め息も出るわな……よもやあんた、自分が何をやったか覚えてないなんて言わせないぞ」

「なんだろうか」

「オナホ捨てられたのを根に持って、家出したんだろうが! 前代未聞だよ……話し聞いて腰抜かしたわ。母ちゃん宥めるの苦労したんだからな……まったく」

「ふむ……それは申し訳ないことをしたね」

「まったくだ……つか、昨日はどこ泊まったんだよ。いきなり家飛び出したそうだが。会社の方は大丈夫なのか? 今更首になられても、俺じゃ家族は養えないぞ」

「む? ああ、それなら問題ないよ。お父さん、今日はもう仕事中だ」

「え、そうなん?」

「うむ。昨夜は本当はね、夕方に一時的に家に寄っただけなのだよ。今日はもう機上の人なのだ」


 父は元々、出張出張で、一週間に三日も家に居ない奴である。どうやら、昨日連絡が取れない間、既に出張先に向かっていたらしい。そして恐らく、仕事が一段落したので電話をかけてきたのだろう。


「ところで、どこに居ると思う?」

「さあ? 関西、広島と来たから福岡だろうか……」

「ぶっぶー、残念でした。藤木は発想が貧相だな」

「いや、今までの流れなら普通そう思うがな……てっきり手榴弾が怖いとかいってホテルに引きこもってるのかと」

「今更そんなものを恐れるほどでもないけどね、お父さん、福岡にはそもそも近づくことすら出来ないのだよ。工藤会に狙われているから」


 何やったんだ、おまえは。


「と言うわけで、お父さんはいま北海道にいるのです」

「へえ。こりゃまた、えらく明後日の方にすっ飛んだな。けどまあ、いいとこじゃないの。日ハムファンも怖くないし、西と違って危険が少ない。これなら親父もホテルから出て遊びにいけるな。あんま、すすき野で羽目外すんじゃないぞ?」

「ふむ……そうとは限らないぞ、藤木よ」

「どこがよ」

「セイコーマートとか、ロシア訛りの自称アイヌ人とか、あまりにも道が真っ直ぐすぎて何もないところで車が横転してたりするんだぞ? あとセイコーマートとか」

「いや、セイコーマートは怖くないだろ」


 受話器の向こうから失笑が漏れた。なんだか凄く馬鹿にされてるような気がする。


「ふぅ~……やれやれ、これだから藤木は」

「なんだよ」

「覚えておきたまえ。なんと、セイコーマートは日本一強盗に入られやすいコンビニチェーンなのだよ」

「ええ~……」

「お弁当を温めてもらってる最中、常に背後を気にしていないと、さっくりやられてしまっても文句が言えないようなコンビニなんて、世界中探しても北海道にしかないぞ。一見、普通の家族連れでも油断してはいけない。本州から渡ってきて、強盗行脚を続けた挙句、稚内で捕まった家族なんてここでしかお目にかかれないだろう」

「マジかよ! セイコマ怖すぎるだろ……つか、あんた詳しいね。なんなの一体」

「ふむ……実はお父さん、学生時代に1ヶ月かけて北海道を一周したことがあってね」


 聞けば学生の貧乏旅行で、デイバッグ背負って、身一つで歩き回ったそうな。


「大学1年の春だった……慣れない東京での生活にも少しは慣れてきて、倦怠感が増してきたGW明け、今考えればあれは5月病だったのかも知れない……下宿先の部屋の中、鬱々とした気分でエロ本を眺めていたら見つけたのだよ、道産子(どさんこ)の一斉種付け始まる、の文字列を! ……心が打ち震えた……え? マジ? 乱交でもすんの? 北海道、でっかいどう! そしてお父さんはすぐさま北斗星に飛び乗った……」

「いや、道産子(どさんこ)って馬のことだからね?」

「そうなのだよ。なんであんなに紛らわしい言い方をするのだろうね……」


 知らんがな。


「そういうわけで、興奮して後先考えずにやってきてしまったは良いものの、あっと言う間に路銀が尽きてね……仕方なくアルバイトをしながら、北海道を一周したのだよ。いや、懐かしいな……因みに、その時に出会ったのがお母さんなのだよ? この話はしたっけ?」

「え? そうなの? すっごい今更だけど、初耳だよ?」

「そうだとも。いや、本当に懐かしい。飛び込みで働かせてくれと言っても、嫌な顔一つせずに雇ってくれたオーナー。泊まる場所が無いと言ったら、理由も聞かずに快く泊めてくれたバイト仲間……深夜のワンオペは辛かったけども……発売されたばかりの雑誌を本棚に並べているときだった。背後から鈴の鳴るような、とてもとても可愛らしい声が聞こえてきてね? 振り返ると、そこに出刃包丁を握り締めたお母さんがにっこりとして立っていて、おい、金出せと……」

「うわあああああああ!!! 嘘だよな!? 冗談だよな!? てめえ、適当なこと言ってんじゃねえよっっっ!!!!」

「うむ、嘘だ。と言うわけでね、藤木君。北海道といえども危険はいっぱいだ。あまり侮ってはいけないよ」


 おまえの頭の中のほうが危険がいっぱいだよ……藤木は通話を一方的に切りたい衝動に堪えつつ続けた。


「くそ……ったく。でもまあ、その様子なら、すぐに帰ってきそうだな。喧嘩するのもいいけどよ、あんま子供を巻き込むなよ、もう」

「いいや、帰らないよ」


 にべも無く断られた。


「ええ~……流れ的に、ここ、帰ってくるとこじゃないの?」

「冗談ではない。お父さん。こんなに怒ったことは初めてだよ。激おこプンプン丸だよ。お母さんが心の底から反省しない限り、お父さんは帰らないぞ。ぷんぷん」


 なんだか可愛く言われたが、どうやら父はそれなりには怒っているらしい。


「つっても、オナホ捨てられただけだろ。なんなら俺が買いなおしといてやるからよ、そんなこと言わずに帰って来いよ」

「かあ~! ……よもや、藤木にそんなことを言われる日が来るとは、お父さんこれっぽっちも思わなかった! たかが! たかがオナホと言ったね!?」

「……言ったけど」

「あれはただのオナホではない。日本産最高級塩化ビニルモノマーを、伝説の原型師が蒼井そらのマン拓を元に作った金型に流し込み、それを中国山東省の山奥で米粒に写経をするほど精密な職人が、ひだの一本一本を削り出した一品。その使い心地はまさにみみず千匹、数の子天井、最高のスタッフたちが送り出す、まさに至高のオナホなのだよ」

「いや、知らんがな……つか、中国人本当に蒼井そら好きだな。こんなとこで名前聞くとは思わなかったよ。他人のあれを象ったオナホなんて使われたら、そりゃ母ちゃんも腹たつんじゃないの? その気持ちも分からんでもないよ」

「むむむ……まさか、これだけ言っても分かってもらえないなんて……あのリビドーの権化と言われた藤木はどこにいったのかね?」

「うっ……いや、実際に使ったこと無いから分からないというか……」


 と言うか、自分の父親にまでそんな風に呼ばれてるとは思わなかった……が、確かに、エロネタで父親よりも母親の方に共感してしまうなんて、それまでの藤木にあるまじき行為だったかも知れない……いや、本当にそうか? 分からないが……拗ねた父親の心を動かすには、何もかも足りなかったのは確かである。


 出て行った父親をさっさと家に戻すことだけを考えてしまって、彼の気持ちをあまり考えていなかったかも知れない。確かに、今は息子が応えてくれないかも知れない。でも藤木は彼と同じ、男なのだ。もっと真剣に、彼の悔しさをわかってやれるはずなのだ……大事にしていたエロ本を捨てられた日のことを思い出してみろ……取って置きの無修正ビデオを上書きされた日のことを思い出してみろ……


 そうか……


 藤木は何か心の奥底に、ストンと落ちてくるものを感じた。彼は多分、怒っているのではない。悔しいというわけでもない……単に、寂しいのだ。大事なものを捨てられて……それがもう戻らないことに対して、気持ちの整理がつかないのだ。その気持ち、分からないわけがない。


 でも、それが分かるからって、家庭不和を放っておくわけにはいかない。多分、父親は放っておけば、その内気が済んで帰ってくるだろう。だが、母はそうはいかないのだ。父が帰るまで、母を宥め続けねばならないのは、藤木と天使なのである。親父と喧嘩しただけで、あれだけ無茶食いする母だ、お腹の子にどんな影響があるか、分かったもんじゃない。


「……分かったよ……とにかくオナホを捨てられたことが気に食わないんだな!?」


 藤木は決意すると、父に言った。


「ただのオナホではない。至高のオナホだと言っているだろう」

「ああ、もう。至高のオナホだかなんだか知らないが、そこまで言うなら、もしもそれ以上のオナホを俺が用意出来れば帰ってくるんだろうな? 一週間後ここへ来てください、俺が本当のオナホってものを見せてあげますよ」

「む……藤木には何か心当たりがあるんだな?」


 いや、無いけど。


「おまえの至高のオナホなんて目じゃない。究極のオナホってもんを味わわせてやるよ!」


 だから取りあえず一回矛を収めて、家に帰って母親は宥めておけと言うことで手を打った。


 正直、藤木が一方的に泥を被るだけの、つまらない約束であったが、母のお腹の子のことを考えるとそうも言ってられないのである。今一番大事なのは、彼女の不安を取り除くこと。自分がやるしかない。藤木はめらめらと気合の炎を燃やした。なにせ、これから産まれてくる妹のことなのだから!


 ……いや、弟とか要らないじゃん?



 

「……と言うわけで、早急に究極のオナホが必要になりました。そこでケンスケさん、愛ちゃんに相談です。古今東西、様々なオナホがありますが、お二人はどんなものが好みであるか教えてください。因みに僕は初々しい妹系です………………って、知らんがな!!! もう、ホント、なんなんだよ、こいつっ!! スタッフ、こいつのハガキはもう持ってくんなよ!! 無事に1周年迎えさせてくれよっ!」

「あっはっはっはっはっはっはっは!! やばっ! ツボ! ツボに入ってる……あっはっはっはっは!!」

「……つか、愛ちゃん……君、性格変わってない?」

「あっはっはっはっはっはっはっは!!」


 こうして、藤木による究極のオナホ探しが始まったのである。


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