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テクノブレイクしたけれど、俺は元気です  作者: 水月一人
2章・がんばれがんばれ
65/124

どうしよう……

 夜間陰茎勃起現象、通称朝立ち。いろいろ省略するが、要するに抗い難いものなのである。


「……くん……木くん……藤木君!!」

「ふが……?」


 脳みそが溶け出してしまいそうなくらい、ぼんやりとしていた。体は必死に再起動をしようとしているのに、ぱちぱちと頭の中で使い古しの100円ライターみたいに静電気が弾けて拒絶する。さっきから記憶が飛び飛びで、シーソーのように眠りと覚醒が繰り返されてるようだった。


「藤木君。さっきから何度も船を漕いでるみたいだけど。目が覚めないなら、いっそ立って授業を受けますか?」


 と言うか、既に勃っていた。


「いや、それは勘弁……すんません」


 股間のマグナムが火を噴いちゃうからな……


 昨晩、高橋刑事との情報交換の末、邑楽修を一晩中探す羽目になった藤木は、そのまま一睡もしないで学校に来た。別に一日くらいの徹夜なら、何度も経験してるし大したこともないのだが、一晩中歩き続けた疲労が副交感神経を直撃したようだった。


 起きてるんだか寝てるんだか分からない頭で会話もままならない。ちんこはいわゆる疲れマラでビンビンだ。


 このままじゃいけない。目を覚ますために一度顔でも洗いに行こうかと何度も思っているのだが、そのたびに股間のビッグマグナムが机の下にこんにちわしてしまい、席を立つこともままならず……いや、立ってるんだよ? そんなこんなで、あれよあれよと言う間に4限を迎えてしまった。


 もうじき、昼休みであるが……おそらく、朝倉が弁当箱を抱えていそいそとやってきて、ねえ、藤木君、お昼に行こう? 私、あなたといきたいの。ねえ、立ってよ? どうして立たないの? 私がこんなにお願いしてるのに……とか懇願されたら目も当てられない結果になりそうなので、そろそろ何とかしようと藤木は腹を括った。


「あー、それより先生。ウンチ漏れそうなんで、いっていいすか?」

「あなたねえ……我慢できないんですか?」

「ちゃんとトイレでしますから」


 勃ってしまったのは仕方ない。こうなりゃいっそ、90度直立させて堂々としていた方がかえって目立たないはずだ。一応、ポケットに手を突っ込んで押さえつけるように、にぎにぎする。いわゆるポケオナ状態である。


 数人の男子生徒に共感の意を示されたが、女子に至っては怪しむ者は誰もおらず、特に何事も無く教室から出ることが出来た。午前最後の授業であるからか、どこの教室も静かでのんびりとした空気が流れていた。


 昨晩、姿を眩ました邑楽であるが、結局、朝になっても見つかることは無かった。警察が追っていた藤後玲に関してもである。藤後の携帯は、彼が事件を起こした日から、電源を落とされて、追うことが出来なくなっていた。


 ただし、時々市内のあちこちから、長くても1~2分の電波が発信されるのを基地局が感知していた。パケット通信の状態から、おそらくSNSか、ウェブメールでも送ってるのではないか? と考えられる。それが何かは、特定出来ていないのであるが……この、時折出てくる携帯電波が曲者で、市内のかなり広範囲から確認されるので、時間が経つにつれて、警察はかえって彼の所在を見つけづらくなっていったようだった。姿は見えないが、市内のどこにでも出没するわけである。感のいい者ならすぐ分かるだろうが、となると、藤後自体は動かず、別人が使っていると考えるのが妥当だろう。


 それが誰かと考えると、一番怪しいのは邑楽修であろう。彼は元々、藤後玲の仲間……というか舎弟であり、高級マンションに一人暮らしと言う、逃げてきた藤後を匿うには十分な可能性を秘めていた。尤も、それを本当にやっていたら、既に一網打尽なわけで、そうなっていない現状を鑑みるに、少なくとも今回これまでは、彼と藤後は協力関係にないと判断される。


 しかし、では何故逃げたのか? 警察の監視下から姿を眩ますことで、彼に一体どんなメリットがあると言うのだろうか……ぶっちゃけ、そんなものは何一つない。寧ろ、彼は逆に窮地に立ったと言っていい。なにしろ、曲がりなりにも警察の目があるから手を出してこなかったが、ヤクザが気の弱そうなガキ相手に悠長にやってる暇はないだろう。それじゃ結局、どうして彼は逃げ出したのか。それは第三者に誘導されたと考えるのが妥当なのではなかろうか。


 なにしろ、あれだけの監視下で大胆に行動してのけたのだ。普通なら外出する以前に、ビビッて部屋から出てこない。それに、コンビニの裏口などは、前もって下調べが必要である。彼にそんな準備が出来た余裕があっただろうか。誰かが刻々と動く状況を見据えながら、手引きしたと考えた方が自然ではないか。では、それは一体何者なのか。


 恐らく、その日にあった出来事はこうだ。邑楽の家に夕方ごろ警察がやって来て、なにか変わったことはないか? 特に藤後と接触していないかと聞いてくる。もちろん、そんなことは無いのでお引取り願うが、よくよく見ると、マンションのあちこちに強面がいて、自分を監視しているのである。警察が言った、藤後と言う名前も気になった。藤後とは卒業以降、一切会うこともなく接触を避けてきた。それがつい先日、メールで連絡を入れてきて、それを無視していたら……旧校舎で殺人が起きたのだ。


 邑楽は不安に駆られた。この犯人が誰かは未だに分からない。藤原かも知れないし、もしかして、藤後が何かまた良からぬことを起こしてる可能性もある。人殺しという非日常的な凶悪犯罪も、藤後というキチガイにかかれば、十分にあり得る話だった。そんなとき、邑楽の携帯に電話が来る。「おまえのことを藤後が探している。いま、そっちに向かっているらしい」電話の声がそう告げた。一体、やつが何をしに? 考えるまでも無い、また自分を金づるにしに来るのだろう。「おまえ、見張られていないか? 早く逃げないと」そう言われてドキリとした。窓の外を見ると、明らかにやばそうな強面がちらほらと見える。邑楽は身の危険を感じた。一体どうすればいい?「安心しろ、俺が逃がしてやるから」そう言われた邑楽は、電話の声を信じ……コンビニの裏口から抜け出して、まんまと姿を眩ました。


 この第三者は何者か? 十中八九、真犯人だろう。


 邑楽は強面のヤクザと、見えない藤後の影に怯えて逃げ出したのだ。


 邑楽が藤後と接触を持っていないと言うのは、かなりの確率で断言できる。それが何故かと言うのなら、彼が野球部員であるからと言おう。考えても見て欲しいが、彼の中学時代の話を聞けば、自堕落な印象が拭えない。それが、高校に入ったら全国を目指す野球部に所属し、まだ2ヶ月とは言え、落ち零れることなくついてきているのだ。現に、同じ時期に同じような理由で入部したであろう、台場聖は1週間も持つことなく野球部を去っている。


 恐らく、邑楽は更生しようとしていた。それは例の33号事件がきっかけであろうが、家族や親戚連中から相当やられたのではなかろうか、当たり前の話であるが。そもそも、親が甘いだけで、何のステータスもない小僧である。家族に見捨てられたら生きていけない。おまけに金の切れ目が縁の切れ目と、友達はどんどん去っていくわけである。台場聖、藤原騎士、邑楽修が同じ学校に進学したのも、この辺の力が働いていたのではなかろうか。


 ともあれ、憶測は尽きないが、こうしてまんまと邑楽を警察の目から分離した犯人が何をしようとしているのか……あまり、いい結末は思いつかないものである。


 

 事件のことを考えつつテクテクと歩いて手洗い場へやってくると、疲れマラは多少マシになっていた。これなら顔を洗って、自販機で目覚ましに何か飲めばなんとかなるだろう……そんな風に考えつつ、ハンカチでも無いかしらんと、ポケットのあちこちを探しているときだった。


「ひゃんっ!」


 っと、短い悲鳴が一つ、廊下に響き渡った。


 振り返ると、キュキュッ……ペチンッ! と誰かが滑って床に転がった。


「ご……ごきげんよう、藤木様」


 凶悪的なまでに真白い太ももが伸びていた。両手で握れてしまえそうなほど細く、それでいて弾力を失わない最高の肉付きをしている。体を支える二の腕が尻餅の衝撃でプルプルと震えていた。あれがおっぱいと同じやわらかさと言うのは本当なのだろうか。わきの下の暗がりを潜って、向こう側に彼女がつけた水滴が、一直線に伸びていた。はち切れんばかりのバストが学校指定の競泳用水着にぎゅっと凝縮され、その青い衝動を惜しみなく押さえつけている。彼女をあらわすトレードマークの金髪ドリルは、今水にぬれていてしっとりしており、それが頬にぺたりと張り付いては色っぽさを助長していた。まさに水も滴るいい女である。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 藤木は思わず90度のお辞儀をした。したくてしたわけじゃない。背筋を伸ばして直立できないからだ。


 床にぺたりと尻餅をついた、茶道部の白木はバツの悪そうな顔で、たははと笑い、


「どうしてお礼を?」


 と返してきた。いや、この状況でお礼を言わない男子は恐らくこの世に存在しない。って言うか……学校指定の水着はもちろん好きであるが、プールではなく、廊下で見かけると、どうしてここまでエロく感じるのだろうか。この非日常感がたまらない。なんて暴力的な肉体なのだ……いたたたた、いたたたたたた、あいたたたたたあ! 静まれ! マイサン!


「どうしてもなにも……」


 ありがたすぎて、涙がちょちょ切れそうである。そんなことより、


「っていうか、白木さんこそ、どうしてそんな格好でこんなとこ歩いてるんです?」

「そうでした……」


 白木ははっとして立ち上がると、


「職員室へ行く途中でしたの。名残惜しいのですが、お暇させていただきますね」


 そういうと、白木はいつものように芝居がかって、スカートを摘むしぐさを見せて軽く目礼し、


「ごきげんよう」


 と言って去っていった。なにこれ……エロい! エロいよ! 奴はとんでもないものを盗んでいきました! 私の理性です!


「ふお……ふぐおおおお!! ふぐおおおおお!!!!」


 藤木は頭をかきむしってはのた打ち回った。股間が張り裂けて破裂しそうだ。


「ぐおおおおおお!」


 天使にテクノブレイクの弊害を告げられてから警戒して、実は3日ほどオナっていなかった。つまりフル充填なのである。やばい、これはやばい……だって、あの人エロ過ぎるよ、なにあの体。なにあの仕草。普通、あの場面で、あんなことするか? 誘ってんの? ねえ、誘ってんの? 行ってもいいんだよ? なにがご機嫌ようだよ。クンニすんぞおらあ!


「ああ゛あああああ゛あ゛ああぁあ゛……」


 思わず、藤木が叫びそうになったとき、


 バラララララバララララバラララララ……


 っと、大きな音が上空から聞こえてきた。


「うっせええええええ~~~!!!!」


 ぎゃんっ! っと叫んだら、すぐ目の前の1年生の教室から、教師がガラガラと扉を開けて出てきて、おめえがうるせえよと言った目で見てきた。


「すみません」


 と言っても、声が届かないらしく、藤木は天井を指差し、ね? っと小首をかしげるジェスチャーを見せた。教師は、うんうんと頷くと、彼女も天井を指差し、そしてやれやれと言ったジェスチャーを見せて、教室内へと帰っていった。


 その間、藤木は90度のお辞儀のままである。


 こらあかん……と言うか、今はちょっと触っただけでイッてしまいそうである。このままにしておくわけにもいかず、藤木は一番近くにあった教員用トイレへと駆け込んだ。ここは生徒が近寄らないので、ウンコをするにはベストスポットであると全校生徒に認知されている、人気が少ない場所だった。藤木はトイレに駆け込むと、苦しそうに壁に手を付きながら、とりあえずチンポジをずずずいっと直した。


「あ~……死ぬかと思った。つーか、マラマラマラマラうっせえなあ……」


 ポジションをニュートラルに入れて、多少の余裕が生まれた藤木は、先ほどから頭上で鳴り響く音に苛立つように声を荒げた。そういえば、白木と出会う前からも時折聞こえていた。多分、報道のヘリだろう。


 トイレの窓から上空を覗いてみると、アラビア数字を模したテレビ局のロゴが見えた。殺人事件があった高校ということで取材だろうか……それにしても、


「それにしても……近すぎやしないかい?」


 上空をホバリングするヘリの風が届くくらいだった。迷惑どころの騒ぎじゃない。藤木が目を細めてその動きを見守っていると、ヘリコプターは低空を旋回しながら、何度も成美高校に近づこうとしている。校舎を見れば、藤木と同じように上空を迷惑そうに見上げる影がちらほらと見えた。


 こりゃ……なんかあったな……


 白木が水着で走って来たのを思い出して、藤木はそう確信した。外から見えないよう、半ドームになっている温水プールがあるのは、体育館などと同居している特別棟の屋上だ。対してヘリは藤木たちの教室のある本棟の校舎の上を気にしている……そこは普段、人が入り込まないように鍵がかかっているはずだった。


 どうしよう……見に行こうか? 気になるし、そしてなによりビンビンでもある。


 藤木は口実さえあれば、どこでもいける男である。


「白木さん……白木さん……白木さん……うっ!」


 結局、最後はいつも力技だなあ……と思いつつ、藤木は幽体離脱すると、ふよふよと屋上へと飛び立っていった。



 藤木が成美高校の上空に差し掛かると、特別棟の上のプールにパライソを見つけた。お揃いの競泳用水着を身にまとった、およそ60人の少女たちの引力には抗い難く、藤木がひきづられるようにプールに飛んできたら、小町の姿が見えた。


 小町と白木は学年が違うが、成美高校は男女別々にプールの授業を行う関係上、かなりアバウトに合同授業を行っていた。今回はたまたま一緒だったのだろう。なにはともあれ、好都合である。


『おーい、小町。小町さんや』

「ぶごっ……げほっ……ごほごほごほっ!!」

「きゃっ!」「馳川さんどうしたの、いきなりむせて」「大丈夫?」

「へ……平気……ちょっと気管に水が入っただけだから……ちょっと、顔洗ってくるわ」


 小町は人ごみから離れると、更衣室へと続く手洗い場へと移動した。


「……あんたねえ……なにやってんのよ」

『お約束はもういいよ。それより、何があったか教えてくれ』

「知らないわよ。なんか気づいたら、あのヘリが上空を旋回してて、何を気にしてるのかな? って、授業が中断になってね。こっからだと何も見えないから、何があるのかさっぱりだったんだけど、そしたら、授業が始まる前に人影を見たって人が何人か出てきて……」

『あー、なるほど。痴漢か……ん?』


 痴漢ごときで、報道のヘリがあんなに無鉄砲な動きをするだろうか。なにはともあれ、見に行ってみないことには始まらない。


『俺、職員用トイレで死んでるから、あとで回収頼むわ』

「ちょっと、あんた! なにふざけたこと言ってんの! ちょっと!」


 藤木は小町の返事を待たずに飛び上がると、ヘリの気にしている本棟の屋上へと近づいていった。

 


 それは血だまりだった。


 もう夏の太陽に晒され、あっという間に酸化して黒くなった血だまりの中に、邑楽修は倒れていた。


 目を見開き、何故? と言った驚愕の表情で、手にはナイフを持ち、おそらく一撃で仕留められたのであろう。胸の傷に手を押しやっている。


 報道のヘリが近づいては遠ざかる。彼らは、これを知らせたかったのか。


 ちっ……やられたか。


 藤木は舌打ちすると、死体の周りを旋回した。


 屋上は給水搭などは無いが、各教室に設置されたクーラーのダクトが集中管理され、室外機やらなにやら機械がたくさん置かれていた。そのため、生徒が出入りしないように閉ざされているのだが……邑楽修はその機械に隠れるように、外からは見えない角度で倒れていた。恐らく、たまたま上空をヘリが通りかかり、たまたま目を凝らして見ていなければ発見されていなかっただろう。


 邑楽の死体のおよそ10メートルほど先には、階段へと続く、屋上の出入り口があったが、近づいてみると、


「くそっ、鍵が掛かって開かない」「まだ見つからないんですか?」「昨日は確かあったんだけど、誰が最後に使ったのか……」「管理ズボラですもんね」


 階段の踊り場から呑気な声が聞こえてきた。恐らく、ヘリがうるさいから教師たちが集まってきたのだろうが、まだ何が起こってるかまでは把握していないようである。


 ドアは、室内側に鍵穴があるタイプで、屋上側からは簡単に開けられるが、中からは鍵が無いと出られないようになっているようだった。藤木がこれを捻ることが出来れば簡単な話なのに……


 なんか変な力が備わってやしないだろうか……ふと思って、ドアノブを握るような仕草をしてみせたが、スカッてしまうだけで何も出来なかった。


 仕方ないよな……と諦めかけたその時、ふと、藤木は邑楽の死体に目が行った。


 別に予感があったわけじゃない。


 ただ、なんとなく……なんとなく、彼は死体の周囲を離れて旋回していた。それは、死体を忌避する根源的な感情からだろう。そうに違いない……そう思いつつ、藤木はおそるおそる、その死体に触れてみた。


 何か重力に引っ張られるような、強力な力が発生した。唐突にうまれたからだの重さ。体の中心に向かって潰れていくような奇妙な感覚。それでいて、頭の中でパシンパシンと火花が散るような、電気がショートするような音が聞こえる……視界がグルグルと回って、世界がピンホール映画のように遠ざかっていく……


「うおっ!」


 藤木は咄嗟に死体から飛びのいた……体も無いのに、心臓がどきどきと脈打つような気がする……


「いま……俺、こいつに乗り移ろうとしてたの?」


 ごくりと唾を飲み込んだ。


 藤木の足元で寝転がる邑楽修は、どうみてもすでに絶命している。これだけヘリが近づいて来ても、なんの反応も無く、目は見開かれたままである。手足はだらりと力なく垂れ下がっており、片手で押さえられているから良く見えないが、胸には大きな刺し傷が抉れるように空いていた。


 どうする? ……どうしよう……


 もし、いま藤木がこの死体を動かして、屋上のドアを開けたらその後どうなるのか?


 天使はやりすぎたのだと言った。藤木の今の状態は夢の続きみたいなもので、世界にとって彼はただの異物にすぎない。だから藤木があるべき姿を変えてしまおうとするのは、世界にとって不都合なのだ。それを続けては、今後は何が起こるか分からない。


 放っておけばいいじゃないですか……もう、殆ど残っていない、あなたの余生なのだから、自分のために使ったらいいじゃないですか……


 天使の言葉が思い出される。


 そうだ、放っておけばいいんだ。放っておいても、そのうち扉は開かれて、この死体は発見される。自分がリスクを負う必要はない。何しろもう、目の前の男は死んでいるのだから……


「でも、死んでから、こいつ何分くらい経ってんだろ……」


 死んでから、どのくらいなら助かるのだろう……


 そんなことする義理は無いし、こんな奴は助ける価値も無い人間だ。見捨てろ。絶対そっちの方がいい。


 だと言うのに、藤木はその場を離れることが出来なかった。


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