第肆話
はい。これで今日は終わりです!
「……ハァ、……ハァ。」
俺は近くの山の中を歩いていた。
実は、記憶を思い出したお陰で俺の前世はこの山で死んだ事も、思い出したのだ。
──草木を掻き分けて進むと急に少し開けた所に出た。
そこには桜が……犬の姿で座っていた。
桜の目の前には小さな丸い石が置かれている。……多分、かなり昔に置かれた物だと思う。
桜は俺に背を向けたまま呟く様に言った。
「……ここは、私が造った……ご主人……、昔のあなたのお墓です……。」
桜はポツリポツリとそのまま言葉を発する。
「……私はあの後ずっと……代々あの術師の操り人形として……人を殺しました。……でも、明治になったら……私は忘れられた。」
俺は……泣きそうになった。
「……存在意義を無くしたけど……ご主人の言葉があったから……生きてた……。それで、あなたに出会った。」
桜はそう言うと俺の顔を見た。
哀しそう表情。桜が時々そんな顔をするのを……俺はとっくに気がついていたんだ……。
「あなたが産まれた時……嘘だって思ったんです。……ご主人そっくりだったから……それに、あなたは私が見えたし、それでも怖がらずに居てくれたんです。……嬉しかった。」
俺は黙って桜の話を聴く。
「……でも、私は沢山の人を殺して……沢山の人を不幸にして……。そんな私に……今更、幸せになる権利なんて……無いんです。……だから、嫌われようと思ってあなたにわざと嫌われる様にけなしたりして……。」
──桜は、泣いていた。
「……ごめんなさい。」
そう言うと桜は人の姿になり、泣きながら微笑み──言った。
「……大好きです、ご主人……。私は幸せだったから……ご主人の側にいられただけで満足だから……。私の事なんか忘れて……幸せになって下さいね?」
そして桜は歩き出し──消える。
俺は慌てて桜が消えた所へと走ると……そこは俺の居た所からは分からなかったが崖で、遥か下は──川だった。
「……さく……ら……?」
以前、桜から聞いた事がある。
──犬神が死ぬ方法……それは簡単で──実体化した状態で死ぬのだ。
眼下に見える川は流れが早そうで……落ちたらまず助からない。
「……さく……ら……ッ。」
『……大好きです、ご主人……。私は幸せだったから……ご主人の側にいられただけで満足だから……。私の事なんか忘れて……幸せになって下さいね?』
桜の最期の言葉が蘇る。
「……なんで、俺も……お前の事大好きだよっ……。何で……桜ッ……。幸せになんて……なれないッ……!」
俺はそう呟く。そして……、
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
俺は泣きながら叫ぶ。
──……その声は虚しく、いつまでも山全体に響き渡っていた……。
To be continued......
予告(ほぼ確定)
最終話は、"その後"をえがきます。
最終話『桜吹雪の中で(仮題)』
お楽しみに。