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黄昏  作者: うみ
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第十章

2話同時投稿です。

はっと目が醒め、体を起こす。辺りを見ると湖があった場所ではないことに気が付く。木しかない景色は変わらないが、何か見たことのある景色だと感じた。すると頭上から声がかかる。

「…起きたか」

声の主はくくだった。

 そしてスズはスイの姿が見えないことに、すべて夢だったのではないかと不安を覚えた。

「スイはっ・・・」

「先に行ってる。ちゃんと魂も戻った、安心しろ」

 くくはスズを遮るように言った。

スズは体の力が抜けたように脱力し、安堵の息をつく。

「良かった・・・」

 はっと思い出す。ここはこちらの世界へ来るきっかけとなった場所だと気付く。その証拠に目の前にある高い木の葉は、さっきから風にぴくりとも動かない。

(そういえば狼がここまで導いてくれたようなものよね・・・)

 考えにふけっていると、後ろでがさりと物音がする。

「あっ!」

振り返って見みると、現れたのはここに来る原因ともなった狼だった。出会った当初となんら変わらない様子である。

狼はスズの驚きに介すこともなく、スズたちの前まで来ると座った。

「お前、この狼を知っているのか?」

くくはスズがこの狼を知っていることに驚いた。

スズは狼の後について、ここまで来られたのだと説明する。話終えると、くくは顔をしかめ呻くように言った。

「玉依、お前知っていたな」

 すると狼はくつくつと笑い始めた。


『まあ、そう怒るな。スズを見つけたのはたまたま、じゃ』


 くくはうそつけと狼を睨みつける。

 そんな様子にスズは何がなんだが分からず、混乱した頭で必死に考えた。

「狼が話してる、っていうか玉依って玉依様?」

驚き戸惑うスズにくくが説明した。

「とりあえず落ちつけ。この狼は玉依に仕えている神獣なんだ。狼を通して玉依が話をしている」

 すると狼はくくの後に続いて話始めた。


『そういうことだ。驚かせてすまぬな。本当はきちんと別れをしたかったのだが、あまり人間と馴れ合いすぎるのはいかんのでな。許してくれ』


白銀の毛並みの獣から確かに玉依の声がしている。

そしてようやく話が飲み込めたスズは狼にそろそろと近付き、目線を合わせた。

「いえ、ここまで力を貸してくださって本当に感謝しています。ありがとうございました」


『礼には及ばぬ。妾の気が向いたのと、ただ単にそなたが気に入ったのじゃ』


くつくつと笑った姿は、見た目が狼でも華やかで上品な雰囲気は少しも損なってはいない。


『もう会うこともないと思うが達者でな。妾はいつも見守っているぞ。それから久久ノ智よ、主も離れがたいのは分かるが、あまり居つくなよ』


 前半はスズに後半はくくに言葉を言ったあと、最後に言い残したとでも言うようにさらりと言い放った。


『あぁあとな、聖門を開いたのは妾じゃ』


 驚き目を見開くスズとくくを置いて、玉依は薄い笑みを残し森の中へと消えていった。

「・・・言いたいことだけ言いやがって」

くくは狼が消えたところを睨み付ける。

スズはいまだ驚きを隠せずに、狼が消えていった方を見つめながら尋ねた。

「じゃあ、玉依様は私が山に入るように。スイを探すようにと・・・?」

 うんざりとしたようにくくはそれに答える。

「だろうな。そうすると狼がお前を導くようにしたことも辻褄が合う」

 玉依は気まぐれであるが『たまたま』で人間に干渉することはないのだから。

溜息を一つ吐くと、スズを振り返り言った。

「…もうお前も行け。このままこの木の中に入っていけば、元の世界に戻れる」

言い終えると返事も聞かず立ち上がり、狼が去っていった同じ方向へ向う。


スズは去っていくくくに向って叫んだ。

「…ありがとう!本当に、ありがとう!」

背で聞いていたくくは薄く笑うと、手を軽く振りながら森の中へと消えて行った。

しばらくの間スズはくくの去っていた方を見つめていた。

さぁと風がスズの頬を撫ぜる。

「帰ろう」

スズは目を瞑り、寂しさを振り切るように一歩一歩と木の中へ消えた。


そして元の世界へ―――。




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