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その6、謁見




目の前には分厚い鋼鉄の扉。そしてその周りは頑強そうな石作りの壁。

はっきり言ってしまえば牢屋であった。

そしてセラフはその牢屋の中に設置してある粗末なベッドに腰掛け腕を組んでいた。


「はぁ、こっそりと情報収集するのが目的だったのに……何やってんだ俺は」


そこでセラフはがくっとうなだれた。






時は遡りセラフが暴風剣を繰り出した直後。



「………な、なんだよ………アレ」


誰が言った言葉かは分からない。

だがその光景を見ていた皆が同じ気持ちであった。


目の前の美女がSSランク冒険者であるオルカと喧嘩になり、一方的にその美女がやられるだけの弱いものいじめが始まると思って皆がセラフと名乗る美女に憐みの視線を向けていた。

だが今その憐みの視線が向けられているのは対戦相手のオルカである。いや、今やその視線すら少数である。

そこにあるのは圧倒的な破壊の中心に佇む正に神々しいという表現が相応しい”女神”の姿であった。

そしてオルカはその姿を見て恐ろしいと思うよりも先に本心から「美しい」と思った。


だが当のセラフはというと……。


「(やべぇ……やりすぎた。限界まで威力を弱めてこれかよ……)」


と自分の起こした惨状に対して内心冷や汗を掻いていた。


そうこうしているうちに王国の騎士たちが登場した。


「巨大な嵐が発生したかと思えば気づいた時には南大通りがぶっ壊れてる……だと!?」


驚きの声を隠せずに惨状を目の当たりにしている5人の騎士たちはこの騒動の中心にいたセラフに目をつけ声を上げた。


「き、貴様がこれをやったのか!?ぶ、武器を捨て投降しろ!!!」


正直言ってこんな破壊行動ができるような冒険者に勝てる見込みは全くなかったが、職務上逃げたり見逃すというのは出来なかったので恐れながらも勧告を行う。


「……はい。わかりました」


と、予想外の返事が聞こえた。その声の主は先ほどまでの惨状を生み出した張本人であるセラフである。誰もが「何を言っているんだコイツは?」という表情でセラフを見ている。

セラフは武器を投げ捨て手を頭の後ろに組み膝をついた。

圧倒的な力を振るったかと思えば騎士の言葉にすんなり応じるセラフ。てっきりさっさと逃走するかと思えば予想外に聞き分けがよく騎士達は混乱していた。


「よ、よ~し。動くなよ?もう一回言うけどホントに動くなよ?」


「動きませんからさっさとしてください」


そういって騎士たちは投げ捨てた黒剣を回収しセラフの手を腰の後ろに回させ腕をきつく縛った。


「さぁお前ら!いつまでも見てないでさっさと散れ!し、し、」


そうしてセラフは周りを騎士達に囲まれ王城につれて行かれた。


「なんだ……そりゃ……」


後にはオルカの呟きだけが残された。







「ここに入ってしばらく大人しくしていろ!」


と言葉使いは荒いが態度は妙に優しく牢屋に入れられ今に至る。というわけだ。


「(はぁ~、あそこで逃げたりしたら王都を破壊した罪とかで指名手配されそうだったから大人しく捕まったわけだけど……)」


「(にしてもホントに目立ちすぎたな今後は自重しよう)」とうんうん頷いていると


「おい貴様、出ろ」


と鎧兜で顔の見えない騎士が扉を開け退出を促す。


「え~と、判決が決まったんですかね?」


死刑とかだったら速攻で逃げよう、とセラフは心で決心する。


「何も言わずについてこい。ぐずぐずするな」


なんだか随分と冷たい態度だ。それにセラフをここまで連れてきた騎士と違って全く恐れがない。


「ええと、どこにいくんですか?」


セラフは美しい白銀の全身鎧をつけた男の後をついていきながら質問をするが、その男は何も答えず黙って歩を進める。


「(だんまりかよ。少しぐらい答えてくれてもいいだろうに)」


王城の中をしばらく歩いた後ようやく目的地に着いたらしい。セラフの目の前には高さ5メートルはあろうかという荘厳なたたずまいの大扉と、その両脇に控える騎士の姿が見える。

おそらくは謁見の間なのだろう。

鎧の男は扉を優しく数度ノックする。少し待ったあとメイドが一人出てきた。


(くだん)の冒険者を連れてきた。王に取り成しを」


それだけ聞くとメイドは門の中へ消え、またしばらく経過したあと再び出てきた。


「準備が出来ました。どうぞお入りください」


メイドは門の中へ入るように促す。その返事を聞き大扉の両側に控えていた騎士二人が大扉を開ける。


「ついてこい」


それだけ言うと鎧の男はさっさと入っていく。セラフとメイドの順番でその後をついていき扉は閉じられた。

扉の奥は巨大な部屋だった。天井は豪奢なシャンデリアと大きなガラス窓から日が差し込み、壁はおそらく王国の紋章だろう。が金の装飾で施されている。床は一面大理石でできており中央には赤い絨毯が伸びていた。そしてその奥には巨大な玉座に座る王と厳重な警戒態勢を敷いている騎士がおそらく30人はいるだろう。


「陛下、先ほどの騒動の主犯だろう女を連れてきました!」


鎧の男は王に頭を垂れながら報告する。


そして玉座に座る王。深紅のローブを身に纏い白髪はオールバックで整えている。顔は彫りが深く豊かな髭を蓄え、強い意志を持つ青い瞳はじっとセラフを見つめていた。


「うむ、下がれ」


「はっ!」


王の言葉を受け鎧の男は脇に控えていた騎士たちに加わる。


「では娘、名はなんという?」


「えっと、セラフと言います」


セラフとしては普通に答えたつもりだったが、その普通がいけなかったらしい。周りの騎士達から「無礼者!」「王の御前だぞ!」と怒声が飛んでくる。が。


「よい」


その王の一声で辺りは一瞬で静まり返った。


「ふむ、ではセラフよ。おぬしに問うが、先ほどの嵐はおぬしが起こしたものか?」


「…はい。間違いなく私が起こしたものです」


「ではおぬしが決闘した男、オルカは私の孫だというのは知っておったか?」


「!…いえ、初めて知りました」


驚愕の真実である。だが後ろに控えていた鎧の男から「坊ちゃん」と呼ばれていたことや、荷車を同じ格好をした騎士達が引いていたことを考えれば確かにその答えにも頷ける。


「ふむ……最初に言っておくが私は決闘に関しておぬしを罰しようとする気はないと言っておく」


「え?…いいんですか?」


「ああ。あの子、オルカはとても優秀な子でな。勉学も剣術もとても良く出来た子だ。だが優秀すぎるがゆえに一度もつまずいたことが無くてな、いつも傲慢な態度をとってしまうのだ」


なるほど。SSランク冒険者で勉学も優秀ならば周りにいるのは全て自分以下の存在と思ってしまうのだろう。あのプライドが高そうな態度も頷ける。


「決闘を見ていた者達から事情は聞いたがその決闘はあの子から仕掛けたと聞く。ならば私はおぬしに責はないと見る。」


あの傲慢なオルカのおじいさんとは思えないほど人格者だ。この分なら早々に開放してもらえるかも……。


「だが、」


「へ?」


「それとは別におぬしが街を破壊したこと。そして最も重要な火竜の素材を消し飛ばしてしまったこと。この責はとってもらわねば困る」


……確かに街を破壊したのは俺だし、暴風剣の射程範囲にあった火竜の死骸を吹き飛ばしてしまったのも俺だ。ぐうの根も出ない正論である。


「そこでセラフ。おぬしにミッションを言い渡す!」


ここでミッションか……。まさかクエストを受けるより先に断れないミッションを受ける羽目になるとは。まぁ調子に乗りすぎた自業自得か……。


「おぬしに下すミッションは火竜三頭の討伐だ。本来の火竜の必要素材に加えて、街の修繕費用に追加の二頭を討伐してもらおう」


「火竜……ですか……。討伐するのはわかりましたけど、どの火竜を倒すんですか?」


「む?どの火竜とは……どういう意味だ?」


あれ?しらないのか?


「ええと一口に竜といってもいろいろ種類がありまして、炎のブレスを吐き大きな翼を持つ「レッドワイバーン」や、翼が無く鱗が熱を帯びている「ヒートドラゴン」などいろいろありますが……」


「……お前たち、知っているか?」


「ええと、私が知っているのはブレスを吐き翼を持つ火竜だけです。ヒートドラゴンというのは初めて聞きますが……」


護衛の騎士たちの中で最も王に近い位置にいた騎士が声を出す。

どうやらこの世界で火竜というモンスターはレッドワイバーンだけを指すようだ。このぶんだと竜種の更に遥か上位の「龍種」なんかまったく知らないのだろう。


「セラフよ。そのヒートドラゴンというのはどういったモンスターなのだ?」


「ええと、すいません。その前に確認しておきたいのですが火竜討伐の適正レベルはいくつぐらいでしょうか?」


「その質問には私が答えよう」とセラフを謁見の間まで連れてきた騎士が一歩前に出て答える。


「一般的に竜種の討伐はSランク以上の冒険者、または60レベル以上の者に許されている。なぜ竜の討伐に許可がいるかというと必要以上に竜を刺激せず無駄な争いを起こさせないためだ」


ふむ、人類の最高レベルが79と言っていたから竜を倒せるだけでも十分英雄レベルなのだろう。

そう考えるとあのオルカは十分凄い奴なのかもしれない。だが……。


「ええと、ヒートドラゴンは火山の奥深くに潜むモンスターで適正討伐レベルは……100……です」


そもそもレッドワイバーンは初級を脱して中級に上がろうとするプレイヤーに用意された所要壁モンスターなのだ。本格的な「ドラゴン」は80レベル以上でようやく戦えるモンスターだ。

だがこの世界はいかんせん何もかもレベルが低いので、ぎりぎり倒せる竜が初心者向けのレッドワイバーンしかいないのである。


「う、嘘を言うな!人類の最高レベルが79なんだぞ!?でたらめを言うな!」


「そうだ!ホラを吹くのもいい加減にしろ!」


騎士たちが口ぐちに文句を唱えてくるが仕方ない。事実なのだから。


「静まれ、お前達」


王が荒れた空気を鎮めるように呟く。

王の命令により一応は静かになったが、騎士達は納得いかないという態度だった。


「ふむ、セラフよ。ならばそのヒートドラゴンとやらを討伐してまいれ。それで此度の件を全て不問にしよう」


「お、王よ!よろしいのですか!?」


「構わん。もしヒートドラゴンとやらが存在しそれを倒せるというのであれば我が国は貴重なモンスターの素材が手に入り、存在しないのであればまた火竜を倒しに行かせればよいだけの話だ」


「し、しかしこやつが途中で逃げる可能性も!」


「逃げるつもりならとっくに逃げておるわ。それにこの大胆不敵な態度。お前達騎士全員が相手でも負けないと言っているようなものだぞ?それだけの力があるなら逆に安心できるわ」


なんだか戦闘能力だけじゃなくて人格面もいろいろと見透かされている。さすがは一国の王といったところか。


「ではセラフよ、改めて命ずる。ヒートドラゴンを討伐せよ!」




こうしてセラフは王より課されたミッションによりヒートドラゴン討伐へ向かうのであった。



この世界ではレッドワイバーン=火竜ですが、アナザーワールドでは火竜=レッドドラゴンです。

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