その2、出会い
草原の街道を歩くセラフはメニューを開いていた。
「(アイテムはっと……うん、ポーションや武器防具その他のマジックアイテムはあるみたいだな。レアアイテムを装備していちゃもんをつけられても面倒だな……これでいいか)」
とインベントリから軍刀+2を取り出す。
軍刀はレベル20程度から装備可能な下位武器であるがセラフはその軍刀に希少鉱石やレアアイテムを混ぜて強化しておりレベル自体は20だがそのステータスは50レベルの装備と遜色ないほどの物になっていた。
だがセラフのレベルは200である。このレベルはアナザーワールドver1.9までに育成可能な最大数値である。
当然ステータスも凄まじいものになっており、物理防御力と魔法防御力以外はカンストしていた。
セラフは腰のベルトに軍刀を差した。
三時間ほど歩き続けて発覚したがこんな華奢な体なのにまったく息切れを起こしていない。ここがゲームの世界か異世界かはわからないがどうやらステータスはゲーム準拠のようだ。
「(この体がアナザーワールドでプレイしていた俺のキャラクターならかなりの無茶は利くみたいだな)」
と自身の体に改めて納得した後、前方に戦闘をしている集団を見つけた。
ここから見た限りではどうやら馬車と冒険者のような風体の男が4人。相手はグレイウルフが3対のようだ。アナザーワールドでのグレイウルフはレベル30ほどのエリアに出現する所要雑魚モンスターだ。
それにてこずっているということは新米冒険者か?と疑問を持ちながらも彼らを助け恩を着せ、情報を聞き出すためにセラフはスキルを発動した。
セラフが発動したスキルは「疾風迅雷」と呼ばれるもので四つのランクが存在する中での三つ目、上位に含まれるスキルだ。
効果は攻撃力強化、敏捷強化、移動速度強化でかなり使い勝手のいいスキルだ。ゲームでは発動すると雷と風を纏っていたがリアルになってもばっちり出てくるようだ。
疾風迅雷を発動したセラフは高速でグレイウルフに近づき流れるような剣捌きでほぼ一瞬の内に3体のモンスターの首を落とした。
「大丈夫ですか?」
と艶やかな声でセラフは言うが冒険者達は混乱していた。
先ほどまで運悪く遭遇してしまったグレイウルフに囲まれ自分達の実力では逃げるのも怪しいと思っていたら、強風が吹き荒れ雷の音が聞こえ次に目を開けたら首を落とされたグレイウルフの死体と目を見張るよう美女である。なんだかわけがわからなかった。
が、さっさと正常な思考を取り戻したリーダーらしい男が前に出てくる。
「い、いや…凄いな、ありがとう。助かったよ」
と剣を鞘に戻しマントを羽織った短い茶髪の大柄な男が感謝の言葉を掛ける。
続いて他の三人も感謝を述べる。
「あ、ありがとな。感謝するぜ」
「た、助かりました……ど、どうも」
「………ど、どもっす」
どうやら先ほどの惨状を見て全員びびっているようだ。
そして馬車の中から恰幅のいい商人のような男が顔を出す。
「な、なにが起こったんじゃ!?」
どうやら疾風迅雷の発動音に驚いて顔を出したらしい。
「な、なんじゃ……こりゃ……」
冒険者同様の反応を商人もした。
「いや本当に助かったよ。君が来てくれなければやられるところだった。そういえば挨拶がまだだったね、私の名前はザイールというものだ。このパーティのリーダーをしている」
さきほど最初に声をかけてきた者はやはりリーダーでザイールというらしい。
「え~と、俺はグルドってもんだ。しかしすげぇな、姉ちゃんよ……」
ザイールよりもさらに大柄で黒い短髪に無精ひげを生やしている男はグルドというらしい。
どうやら斧と盾が主武装のようだ。
「私の名はクリスと言います。まあ見てのとおり魔法使いです」
明るい金髪の青年はクリスというらしい。ローブは来ていないが大きな杖を持っている。
「えと、その、シンです。どもっす。」
口下手な青いぼさぼさな髪をした青年はシンというらしい。腰のベルトに少し大きめのナイフを4本差しているのでおそらくはアサシンかシーフだろう。
「わしはグラーフという商人じゃ。この冒険者達の依頼主じゃよ。」
小奇麗な服に身を包んだ男は商人でグラーフというらしい。立派なヒゲに輝く頭、そして恰幅のいい体をしている。だが嫌悪感は感じない。彼の雰囲気が明るく清潔感があるからだろうか?
そしてセラフの番になったが皆がその言動や身なりに注目していた。当然だ、はたから見たらすさまじい実力を持つすさまじい美女だからである。
「え~と、セラフと申します。冒険をしております。はい」
「ほう!あなたもですか!」
冒険者ではなく冒険をしていると答えただけなのだが勘違いされたようだ。
「いや、それにしてもお美しい!あなたほど美しい方を私はいままで見たことがありませんな!」
グラーフが声を大きくして答える。セラフは自分の顔を鏡で見ていないので「そんなにきれいなのか?」と少し疑問に思ったがどうやら相当な美人らしい。
「いやまったくだ。こんなに美人でしかも強いだなんて嫉妬を通りこしてしまそうだよ。」
とザイールは笑って答える。
だがセラフはこんなに褒めらるのに慣れていないのでさっさと話題を変えたかった。
「いやどうも、お上手ですね。ところでウルフの死体は放置していてもいいのですか?血の匂いに釣られて魔物が寄ってくると思うのですが?」
「おっと、そういえばそうだ!おまえら毛皮と牙をはぎ取ってさっさと出発するぞ!……ええとセラフさん、どうすればいいですかね?」
「?どうすればいいとは……つまりどういうことですか?」
「いや、このグレイウルフを倒したのはセラフさんなんで報酬の分配は全部セラフさんに譲った方がいいですよね?」
「ああ、そういうことですか。ええと皆さんの戦闘中の不意を討ったという形だったので折半でいいですよ」
「そうですか!いやぁありがとうございます!」
ザイールとしては思わぬ臨時報酬が手に入ったのでこれはかなりの儲けだ。
もともとグレイウルフ自体、自分たちのレベルでは逃げるだけで精いっぱいなのだ。
素材を売却すれば武具の新調もできるかもしれない。
「ではセラフ殿はこの後どうしますかな?我らはこのまま進んで王都に入るつもりなのですが?」
とグラーフが少しの期待をこめて問いかける。
「ええと、それじゃあお供させていただいてもかまいませんか?」
「「是非に!」」
とグラーフはとてもいい笑顔で答える。ついでに強引に手をとって握手をしてきた。
こうしてセラフは王都に向かうのであった。
二週間以上の空きが出ないように投稿していくつもりです。