その12、散歩~2~
昼食をヴォルトの店で済ませたセラフは散歩を再開していた。
朝方の頃に比べると大分賑わいが増えている。
辺りには鎧や剣を身にまとった冒険者や買い物に来た女性、積荷をたくさん載せた馬車が見える。
「いい~天気だな~」
軽く伸びをするセラフ。
と、そこで見知った顔が見えた。
「ん?あれって……ひょっとしてザイールか?」
ポーションを販売している店なのだろう、店にでかでかと掲げられた瓶のイラストからそう判断する。
その店の前で何やら店員と話をしていた。
「お~い、久しぶりですね」
ザイール達に近づいて手を振る。どうやらザイール達も気づいたようだ。
顔を確認すると出会った時と同じメンバーでリーダーのザイール、黒髪のグルド、金髪のクリス、青髪のシンが揃っていた。
「んん?おお!久しぶりですねセラフさん!」
「どうも、お久しぶりです。だいたい一週間程度ですかね?」
「ああ、それくらいですね。どうです?この街には慣れましたか?」
「はい。まぁ、少し騒がしいところもありますけど逆に言うなら活気があるってことですからね。ところでそちらは何をしているんですか?」
「ああ、次の冒険の備えにポーションを少しばかり……でもなんか売り切れてたみたいでして」
「売り切れですか。それはまたなんとも運の悪い」
「まぁ、そうなんですけどここの店主が材料をまとめて仕入れてきてくれるなら割引して売ってくれるってことで少しばかり採集クエストに出かけてきます」
どうやら先ほどの店主との会話はこのことだったみたいだ。
「クエストの準備の為にクエストに行くって大変ですね……」
「ははは、そうですね。あ!そういえばお礼を言い忘れてました。シンに貴重な武器を譲ってくれて感謝してます。おかげで少しばかり攻撃力不足だったうちのパーティが上のクエストもクリアできるようになりましたよ!」
そういうとザイールと一緒にシンも軽く頭を下げた。
こっちがラフな格好だったからかあまり目線をこちらに向けなかったが。
「そいえば聞いてなかったんですけどザイールさん達のパーティってランクはどれくらいなんですかね?」
グレイウルフにてこずっていたわけだしあまりレベルは高くないのだろう。
「自分達のパーティはCランクですね。自分のレベルは31レベルです」
なるほど、どうやらほんとに駆け出しのようだ。といっても初心者の壁は越えているみたいだが。
「久しぶりだな姉ちゃんよ。ちなみに俺はちょうど30レベルだぜ」
「いやはや相変わらずお美しいですね~。あ、僕は27ですよ」
「僕も27です」
「皆さんそこそこありますよね。それならグレイウルフに苦戦しないと思うんですけど……?」
「まぁ今なら勝てると思いますけど、あの時はシンとクリスのレベルが低かったですからね。あのまま戦闘を続けてたら私とグルドはなんとかなってもシンとクリスがやられていた可能性がありましたから」
なるほど、パーティの命を第一優先にしていたから下手に攻勢に出られなかったということか。
「そういうセラフさんのレベルはどうなんですか?あの後ギルドで冒険者登録はしたんでしょう?」
「ああ、はい。一応登録はしましたけどクエストとかはほとんどやっていないんでランクはEです。あとレベルは不明でした」
「レベルが不明?そんなことあるんですか?」
「それがあるんですよ、ほら」
そういってセラフは自分のギルドカードをザイール達に見せる。
「本当だ……レベルが表示されていない」
「マジかよ、初めてみるぞこんなこと」
ザイールとグルドが一緒に驚いている。
「あ、あのセラフさんこの剣本当にありがとうございます!」
声をかけたのはシンだ。腰のところにセラフがあげた軍刀が佩いてある。
「あのあと鑑定所に持って行って武器鑑定してもらったらなんか遺物に片足突っ込んだぎりぎり既存の武器とか言われてすごく驚いたんですよ!」
どうやら専門の鑑定士から見てもすごいものだったみたいだ。まぁ形が気に入ってたから結構魔改造してたしな。
「そうだったんですか。ところでロストウェポンってなんですか?」
これも初耳の言葉だ。まぁ語感的に黄金期時代の武器を指しているのかもしれないが。
「遺物っていうのは黄金期時代に作られた特に強力な武具の総称ですよ。更に一言で遺物っていっても段階が存在して、下から兵具、英雄具、伝説具、神具って呼ばれているんです。セラフさんからもらったこの剣はギリギリ兵具に入ってるって言われました!」
「へぇ~、細かく区切りがあるんですね。お店とかでそのロストウェポンって買えないんですか?」
「買えないこともありませんけど……兵具でも恐ろしく高いんですよ。特に神具は強すぎて発見されたら無条件で即国に回収されるほどですしね。しかも国家間の戦争の使用にすら禁じられているほどです」
そんな強力なのかよ……自分の持ってる武器はどうなのか少し見てもらいたくなったが騒ぎになりそうだからやめておこう。ていうか少し前に会ってたヴォルトはこの話を知ってたからあれだけ熱心に武器を譲ってくれといってきたのか?
「相変わらず武器のことになると熱心ですね~」
クリスが笑って答える。
「ま、確かに冒険者にとって遺物ってのは一種のステータスみてーなものだからな!熱くなるのもわからんでもないぜ」
グルドが乱暴にシンの頭をたたく。
「というか疑問に思ったんですけど今の職人達はロストウェポンに匹敵する武器は作れないんですか?」
「ん~まぁ作れなくもないが腕は一流でも素材がなかなか集まらないから結構てこずってるらしいぜ。もし貴重なモンスターの素材が大量に手に入れば兵具ぐらいなら量産できるんじゃねぇか?」
……ひょっとして王がヒートドラゴンの素材を欲しがってたのってコレか?
だとしたらまた面倒が増えそうな予感が……まぁその時はさっさと逃げるか。
「そうですか、まぁ武器がさらに強くなれば人間の活動範囲がもっと増えて色々と開拓が出来るようになりますね」
「だな。大きな火山やら森やら砂漠やらはなかなか開拓できねぇからな。その辺は国の守護の為に騎士はうごけねぇから俺たち冒険者頼りってところだな」
「なるほど……みなさん結構頑張ってるんですね」
「まぁ頑張ってるっつっても積極的に開拓するやつもいればモンスターの討伐専門の奴もいるしお使いしかやらないやつもいるからな。そのへんは冒険者によりけりだな」
「お~い、もう行くぞ。それじゃセラフさん、自分たちはこの辺で」
「あ、はい。それじゃまた」
そういってザイール達と別れた。
そういえばクリスにお兄さんとあったことを伝えるのを忘れてしまったな……まぁいいか。
その後もセラフは散歩を続ける。と、そこで何やら騒ぎを見つけた。
近寄って状況を確認する。あたりには人だかりができている。
近くにいた女性に声をかけるセラフ。
「すいません、なにかあったんですか?」
「ん?ああ、なんでもスラムの子がパンを盗んだんだってさ。気持ちは分からんでもないが盗みは盗みだからねぇ……」
「そうですか……」
どこにでもこういうものはいるものだ。この世界でも例外ではない。
騒動の現場をみると薄汚い恰好の少年がパン屋の店主に殴られていた。
「てんめぇ!!!二度ならず三度までも!!!もう我慢ならねぇ憲兵に突き出してやる!!!」
どうやらこれが最初ではないようだ。
店主も子供だからという理由で最初は見逃していたが何度もやられて我慢の限界が来たらしい。
「……っ!」
少年は何度もぶたれているがそれでも泣き出していないとはなかなか我慢強い子だ。
周りの野次馬達は面白い見世物をみるような感覚で誰も止める気はない。
まぁ当然といえば当然か、悪いのは少年なのだし。
だからといってこのまま立ち去るの気分が悪い。
……しかたない、か。
「え~と、そこの店主、申し訳ない」
「あ、ああん?なんだおめぇは?」
「いや実はその子におつかいを頼んだのは私なんだ。」
「おつかいぃ!?こいつは金持ってなかったんだぜ!?」
そこでセラフはあらかじめ出しておいた旧硬貨500コルを店主に握らせる。新硬貨に直すと5万コルだ。
「おつかい……ですよね?」
とどめに笑顔もつけておいた。といっても天使ような柔らかい笑みではなく猛獣も逃げ出す悪魔のような冷たい笑みだが。
「あ、ああおつかいです。すいません。私の勘違いだったみたいです。以後気を付けます。それでは」
物凄い早口でお金を持ってさっさと逃げる店主。
セラフは少年を立ち上がらせ軽く埃や砂を落としてあげ、手を引っ張って歩き出した。
少年も含めその場にいた野次馬達はみなその女性から冷気のようなものを感じて動けなかった。
「お、おい!あんたいつまであるくんだよ!」
ここは大通りからはずれた裏路地だ。
薄暗くあまり人も通らない場所である。
「あんたじゃない。セラフだ。それとさっきのお礼をまだ聞いてないんだけど?」
「頼んだ覚えはない!」
「奇遇だな、私も頼まれた覚えはないんだ。どうしよう、なんだか急にパンが食べたくなってきたな」
「あ、あのパン屋のおやじに突き出すのか!?」
「それは君次第だ。君が今一番言わなくてはならないことを言えたら私のこの食欲も失せるかもしれないぞ?」
少年はしばらく押し黙った後口を開いた。
「あ…ありが……とう」
目を逸らしながら小さい声で感謝の言葉を口にする。
その声が聞ければ満足だ。
「うむ!よろしい」
納得した表情で頷きながら少年の頭をなでる。
「そういえば名前を聞いてなかったな。なんていうんだ?」
「……ジーノだよ。あんたは?」
「私の名はセラフだ。覚えておきたまえよ、ジーノ君」
「……ふん!じゃあな」
踵を返し立ち去ろうとする。
「まて、どこに行く気だ?」
「どこだっていいだろ!」
「……また盗みをするつもりか?」
「……あんたには関係ないだろ……」
後ろ姿のまま答えるジーノ。
「自分のためか?それとも誰かのため?」
「……姉ちゃんのためだよ。今まで俺を守ってくれたんだ。だから今度は俺が助ける番なんだ」
「盗んできたパンがおいしいとは思えないけどね」
「っ!じゃあどうしろってんだよ!学もない、力もない俺じゃこれくらいしかできないんだよ!何もしらないくせに邪魔すんな!!!」
目に涙をためながら怒りと憎しみ、そして悲しみを吐き出すジーノ。
自身の非力さが悔しくて悔しくて仕方ないといった様子だ。
「自分の力だけで解決しようとするな。誰かに助けてもらうことも覚えろ」
「……なんだよ、それ」
「今のお前に出来ることは限られてる。だったら自分以外の人間にやらせればいいって話だよ。なに、都合よくお前を助けてくれたお人よしが現れてやったんだ。だったら利用できる限り利用しろ、いやしてみせろ。お姉ちゃんを助けたいんだろ?」
しばらく下を向いて黙った後、ジーノは潤んだ瞳に強い意志を宿して答える。
「へ、厄介ごとに自分から首突込みやがって。俺を助けたんなら最後まで責任もって助けやがれ!この”お人よし野郎”!」
「ごもっともだ。じゃあ責任もって慈善事業でもするとしますか」
セラフの自分勝手な異世界冒険は続く。
ジーノとセラフは西大通りと北大通りの間にあるスラムへと向かっていった。
ジーノから見たセラフはものすごい美人な変人に見えてます。