☆蓮のうざさ?
頭を抱えながら苦悶していると、ガチャリと音が鳴った。
「楓、あんたに客……が………………?」
入ってきたのはお袋。そして口をあんぐりあけたままフリーズ。対して俺もフリーズ。
先に動いたのはお袋だった。俺の顔をチラリ、次に空をチラリ。次に数秒俺を見て空を数秒見る。そしてターゲットをロックオン。
「えっと…………蓮くん来てるわよ?」
語尾疑問という自分でもよく分かってない状態だ。それはまるで出来の悪いロボットみたいな。明らか『この子誰?』ってのが丸分かりだ。
「蓮が? じゃ、とりあえず……」
空を一度見て部屋を出ていく。
何やら不安そうに首を傾げているため少し戸惑ったが、この小さな頭の中を整理する時間もちょうど欲しかった。この後部屋で何が起こるのかはさっぱりだ。むしろ想像したくない。何もないことを祈ろう。
家のドアを開けると本当に蓮がいた。
オレンジ色のツンツン頭も空という名の闇によっていつもの明るさが無い。これくらいの方が見やすいんだけどな。
蓮は右手を挙げて『よーぉ』と言ってきたので適当に返す。服はなぜか制服のままだった。まぁ俺もだけど。
「んで、何だ?」
横にある家の柱にもたれつつ聞く。
すると笑いつつ、
「じーつは聞きたいことがあるんだ」
「さいですか」
わざわざ訪ねるくらいなんだからそんな事だと思った。ってかこいつの場合ろくなもんじゃねぇんだろうな。今までもこんなことがあったんだが、例えば中学の頃、
『はーつキスの味ってレモンとかいうけど何で?』とか……『そんなの知らねぇよ』と返すと
『ちーなみにどうだった?』『何が?』『キースの味』『したことねぇよ!』『まーたまた、楓くんは奏ちゃんとあんなことやこんなこと――』『してねぇよ』『へばぁ』
みたいなこともあった。だから今回もろくでもないことを……
蓮は家の前にあるマンホールを一瞥してから、
「マーンホールって何で円いんだろうな」
はい、どうでもいいこと来ました。
「それってメールじゃダメなのか?」
「どーうしても声で聞きたくなった」
「電話は」
「かーおが見たくなった」
キモッ、ホモかお前は。今の時代ケータイという超便利なものがあるんだから使えよ。
ちなみに、マンホールが円いのは四角だと対角線が長いだろ? だから少しずれたら下にストーンと落ちちまうんだ。これで君も雑学博士だ。
ため息をついていると、蓮はコホンと咳ばらいをした。
「けーど、目的はこっち」
「どっち?」
何か険しい顔を浮かべつつ言う。
なぜか不安の汗が流れる。
「かーえでの部屋の女の子は誰だ?」
「やっぱりそっちかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
膝から崩れ、ドアの前に倒れる。
最悪もっと後になってから言おうと思ってたのに、まさかこうも簡単に仁奈と蓮にバレるなんて……
「何で知ってんだ?」
「きょーうのお前が変だったからつけてきた」
「お前も尾行かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
何で? 何で俺は今、知り合いで尾行してたやつと関わるんだ? しかも2人。
いやいや、そんなことより、こいつの用はどうでもいいっぽい。なら次は家の中にいる2人、修羅場の方が心配だ。
なら、こいつは今の俺にとって邪魔だな。
なんてことを思っていると、
「ちーなみに、あそこから部屋の中を見させてもらった」
「もしもし、警察ですか? 実は今――」
「うぉぉぉぉぉ、ごめ、謝るから許して」
蓮はスライディング土下座をかましつつ縋ってきたのでとりあえず電話を止めてやる。
「今、俺忙しいから戻るぞ」
「おー、また明日な」
やけにあっさり蓮は引き、道路へと戻った。
結局何が目的だったのかもさっぱりだ。
「っと、そんなことより」
家のドアを開け、中に入ろうとした時、何かを見つけた。長方形で薄っぺらい紙のようなもの。ちょうどさっき蓮が土下座をかましてたあたりだ。
「なっ⁉」
紙のようなものを拾ってみると、そこにはベッドに座った空の姿があった。
横から撮られたもの。
姿は長い髪の奥に見える憂鬱そうな表情。けど、瞳は何かを見つけた、というか少し輝いて見えた。
それより何より、蓮は本当に覗いてたのか……
一度横を見つつ家へ入る。
横、そこは風呂場で二階には何もなく、形としては出っ張った感じになっている。そこを上り、見えるガラス窓は俺の部屋の窓。こういうのって盗撮……だよな?