☆笑みの裏……
ここで話は戻る。
そう。言っちまえば今、我が家の前に昨日の夜見たやつがいる。今の心境はとにもかくにも『なんでなんだー⁉』と叫びたい。でも叫べない。そりゃね、近所迷惑だし俺の柄じゃない。
鴉が遠くで鳴く。張りつめられる空気。いや、まだここからは距離がある。仁奈をうまく誘導すれば何とか……
何てことを考えていると、
「あ……か、えで」
とすぐに打ち砕かれた。そしてこちらへ走ってくる空。昨日と同じ服で(でもきれい)銀色に青が入った髪が風になびく。その髪からはキラキラとしたまるで魔法みたいなものが、このわずかな空間を支配しているようだった。空は瞳を輝かせ、光を求める影の如く一直線にやってくる。
「う……」
俺は気になる仁奈を見た。いや、見たと言うより見えてしまった。横で故障している機械よろしくギギギという効果音が似合う動きでこちらを見ていた。
「いや~仁奈、何のことだろうな?」
なんて白々しく仁奈に振ると、
「……楓君、明日学校でね」
といつもより低い声で言われた。考えてみてくれ。普段学校ではタメで話していて幼稚園とか古い友人が急に敬語で話してきたら……一般に急に敬語になるのは怒りに表れらしい……
仁奈は笑みを浮かべつつ道を歩き、すぐ近くの家へ入っていった。明日学校行くの嫌だな。
ハァとため息を吐く。女の子の前でため息はどうかと思うが、それでも出てしまうものはしょうがない。
「えっと……よっ!」
とりあえずあいさつをしてみた。理由は無いけど強いて言えばこれならどんな事言われても対応しやすい。
「ん……」
なのに、空はそう一言だけ小さく呟いた。いや、もうちょっと愛想よくしてほしいな。
空は上目遣いで見てくる。それにものすごぉぉぉぉぉくドキッとしてしまう。
出来る限り顔に出さないよう少し前の記憶をたどっとこう。
昼の弁当おいしかったな。蓮は結局何が言いたかったんだ? 仁奈には明日誤解を解く必要があるな。空って俺ん家の前にいたんだよな……家の前?
再び視線を空に戻してみる。
するとまたも上目遣い。背的にしょうがないんだけど多いよな。いや、もしかしたら今のはさっきのまま止めずにいたのかもしれない。
その瞳には何かを求める子猫のようでまるで放っておけない。
「……入るか?」
短く告げるとコクンとかわいい顔が縦に揺れた。