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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
おまけの章「ラミの木刀」
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第97話「キョウオウ国王都へ」

「では、行って参ります。隊長」

「うん、そのまま王都にいてもいいよ」

「それを決めるのは隊長ではありません」

「そんなに帰って来たいのかい……え、なに、もしかして、ボクに気があるの、ジア?」

「冗談は顔だけにしてください」

「提案があるんだけど」

「却下します」

「いや、聞こうよ、とりあえず」

「何でしょう」

「隊規に『隊長に対しては優しく接しよう』というのを追加するっていうのはどう?」

「無駄なことはやめてください。誰一人守らないと思いますので、では」

 隊長と隊員の麗しい別れが済むと、一行は出発した。

 夏の野である。

 緑が目に()みるほどだった。

 ラミは、緑の大地に心を奪われた。ヴァレンスにいたときと、大地の色が変化したのではない。

 ここは新たな大地。

 その想いが、ラミを魅了したのである。どうやら故国を離れた悲しみに浸り切るには、ロマンチックさの持ち合わせが足りないようだった。

「お弟子ですか?」

 新たな道連れであるジアが、ゾウンに声をかけたのは、しばらく馬車を走らせたあとの、休憩時間のことだった。

 ラミは馬車から降りて、木刀を振っていた。少しでも時間があると、ラミは修行に費やしていた。

 そのラミの姿を近くで眺めているゾウンに、ジアが声をかけたのである。

「まあ、そんなところだ」とゾウン。

「天才剣士の弟子とは末が楽しみですね」

「オレだけの弟子じゃない。サイとマナエルの弟子でもある」

「なんと……」

 勇者パーティ三人の弟子であるという話を聞いてジアは呆然とした様子を見せると、

「勇者にでもなるおつもりですか」

 と、これは、ラミに向かって訊いた。

 ラミはいったん剣を止めると、

「わたし、強くなりたいんです」

 とだけ答えた。魔王を倒したいとか、そういう願望は無い。

「なれますよ。剣筋が澄んでいます。才能がおありです」

「ありがとう、ジアさん」

 ラミはぺこりと頭を下げると、再び剣を振った。

「ロソフトっていう名前を知ってる?」

 姉が、ジアに話しかけた。

「ロソフトですか?」

「あたしの師なの。王都にはその人に会いに行くのだけれど」

「思い出しました。そうですか……マナエル様は、ロソフト元魔法師団長殿のお弟子ですか」

「魔法師団長?」

「将軍だと考えていただければ」

「へー、偉くなったんだあ。あのクソオヤジ」

「クソ……?」

「オヤジよ……て、ちょっと待って、『元』って言った?」

「はい」

「じゃあ、今は何の役職についているの?」

「何もついていません」

「死んだの?」

「いえ、死んではいないと思います。先日、王宮内で政争がありまして、二人の大臣が争ったのですが、ロソフト殿が味方した方の大臣が破れたのです。ロソフト殿はその大臣に従って、都落ちされたはずですが」

「ええっ! じゃあ、今、あのスケベオヤジは、王都にはいないの?」

「スケベ……?」

「オヤジよ。で、どうなの? いないの?」

「おそらくは」

 マナエルは天を仰ぐようにした。「まったく! 役に立たない!」

「ロソフト殿にお会いするためにいらしたのですか? 師を訪ねに?」

「まあね」

「では、なんらかヴァレンスのアンシ殿下の命でいらしたわけではないのですね?」

「違うわ」

「そ、そうですか……」

 予想外の事態だったのだろう、ジアはクールな瞳に驚きの色を浮かべた。

 サイは、ふっくらふくふくとした笑みで、

「どうします? 頼みの師がまさかの行方知れずとは。困りましたねえ」

 と全く困ってなどいない様子で言った。

「うーん……」

 マナエルは腕組みして少し考えたあと、ジアに向かって、ここキョウオウ国の中で住みやすい土地を訊いた。

「それはやはり王都であると思います」

「本当? 王に賢者を推薦すると貰える金一封目当てにそう言ってるんじゃないの?」

「それもあります」

「あるんだ」

「住みよいかどうかは別にしても、一見の価値はあると思いますよ」

「そして、住みよいかどうかも別にしちゃうんだ」

 マナエルは少し考えるようにしたが、

「いいわ。王都に向かいます」

 言った。そのあと、ゾウンとサイに訊いたところ、異論は無いようである。

「ラミもそれでいい?」

 ラミに否応があるはずもない。

 剣を止めてうなずいたラミは、額の汗をぬぐった。

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