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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
おまけの章「ラミの木刀」
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第95話「故国出国」

 国境に近付くにつれて、ラミの心にさざ波が立った。

 国境を越えるということは、生まれ育った国を出るということである。

 これまでは国内をさまよっていただけだったが、いよいよ国を出るということになると、感慨深いものがある。なにせこの道行きは単なる旅行ではない。帰る当ての無い旅である。再びヴァレンスに戻れるかどうか分からない。

 姉やみんなが国を出なければいけない理由については、

「オレたちは使い捨てのコマってことだよ。もう必要とされなくなったのさ」

「そうして、危険視したんですよ。我々のことを。ちょっと派手にやりすぎましたかねえ」

「貴族ってのは常に敵を作りたがる人種だ。クヌプスがいなくなったから、今度はオレたちってな」

「敵を作るのは、恐怖心と猜疑(さいぎ)心によるものです。物が豊かであると、心が貧しくなるんでしょうか」

「どのみちこの国は長くなさそうだから、ちょうどいいのかもな」

「潔く死ねば、再生も早いのですがね」

 ゾウンとサイの説明を聞いて、ある程度ラミは理解しているつもりである。

 ヴァレンスから出なければいけないことについて、理不尽であると怒る気持ちはラミには無い。悲しみも無い。ただ何となく寂しいのである。

「寂しさを抱えて生きましょう、ラミ」

 ヴァレンスとキョウオウ国の関の前で、午前の清爽な光の下、馬車から降りて、ゾウンが手続きをしてくれているのを待っている間、ラミは姉から声をかけられた。

「そうして、もっと大きく考えましょう。ヴァレンスはあたしたちが生まれたところだけど、そこで生きて死ななければいけないということはないわ。この大地全てがあたしたちの前に開けているんだから」

 姉の手が、ラミの肩に触れた。

 その手が少し震えている。

 ラミは、姉の手に自分の手を重ねると、生国である古の国を見納めるような気持ちで、じっと自分たちが来た方角を見つめていた。

 ゾウンが帰って来た。

 関所は特に問題なく抜けられるらしい。

「アンシに一筆書いてもらって正解だったな」

 ラミは客車に乗る前に、

「さようなら。また会えたら、よろしくね」

 そっとつぶやいて、ヴァレンスに向かって礼をした。

 馬車が関所を抜ける。

「さて、キョウオウですね」とサイ。

「どういうところなの、サイ?」

「そうですねえ。なかなか勢いがある国ですよ。ヴァレンスとは違って、貴族が政治を牛耳っているということはありません。平民にも政治に参与する機会が開かれています。武勲を立てるか、試験に合格する必要はありますけれど。地味(じみ)は豊かであり、軍もなかなか強い。ヴァレンスよりよっぽど暮らしやすいんじゃないですかねえ」

 ラミは、サイから姉へと目を向けた。「お姉ちゃん」

「ん?」

「これからどこへ行くの?」

「キョウオウの首都だよ。そこに先生はいるらしいから。なんか士官しているらしいわ」

 姉の話によると、クヌプスの乱が起こる前、最後に来た師からの手紙にそんなことが書いてあったらしい。

「マナの師とはどんな方です?」サイが訊く。

「うーん、まあ一言で言うとクソオヤジだね」

「一言で言い過ぎじゃありませんか?」

「でも、それ以外で、先生のことを的確に表現する言葉が無いのよ」

「そうですか。あまり会っても面白そうな人じゃありませんねえ」

「面白くないわ、全然。逆にムカつく」

 ラミはあまり、姉の師のことは覚えていない。姉は、師に魔法を習うときは師の家に行っていたのであまり顔を合わせたことがない。

「エロイし。あたしを弟子にしたのも可愛かったからに決まってるわ」

「それはどうでしょうねえ」

「どういう意味よ?」

「いえ、言葉通りの意味ですよ」

「喧嘩売ってんの?」

「可愛かったからではなくて、やはり才能があるから弟子にしたのではないかとそう思っただけなのですが」

「それなら許す」

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