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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
おまけの章「ラミの木刀」
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第94話「再認識した広さ」

 新しい一日が始まる。

 迎えた日は、昨日と同じように抜けるような青空である。

 固いパンとスープという携帯食糧で朝食を取って、一行は出発した。

 御はラミが取った。隣にいるゾウンが教官役である。

 剣でもそうだが、ゾウンは、口やかましい教師ではなかった。教え好きなのか口では色々なことを説明することもあるが、実際にやらせるときは簡単な指示を一つだけ与えるだけである。一つだけ与えて、それをやらせてみる。間違えたら、横からそっと訂正する。そうして、またやらせる。それの繰り返しだった。

「動いてる、動いてるよお、ゾウン」

 ラミが感動の声を上げた。

 馬は確かに、ラミの持つ手綱によって整然と歩いている。かなりのゆっくりではあるけれど。

「ラミが御ができるようになったら、オレは楽できるな」

「わたし、がんばる」

「おー、がんばれ」

 ラミはしばらくの間、御を続けたあと、ゾウンに代わった。

 お昼頃、ちょうどお腹が究極に空いて来たころ、村らしきところに到着した。

 家が十数戸寄り集まっているくらいの小さな集落である。

「どうやら何か食わせてもらえそうな雰囲気じゃないな」

 ゾウンが言う。

 家は壁や屋根がボロボロの掘立小屋で、住人は靴も満足に無い痛々しいほど粗末なナリである。

 貧しい。

 ラミも貧しさを経験したことがあるが、これほどまでではなかった。

 馬車を物珍しそうに見る子どもの頭にハエがたかっていた。その子の手が何かを求めるようにこちらへと向けられる。

 思わず目を背けたくなる光景を、見ようとして、やはり見られなかった。

 ラミは、客車の中に逃げ込んだ。

 そうして、姉にしがみついた。

「お姉ちゃん、わたし弱虫だ」

 姉は、ラミの頭をよしよしと撫でながら、

「弱いということを素直に認められること、それは十分に強いことよ」

 そう言って慰めた。

 ヴァレンスは元々平民に優しい国ではない。その上、クヌプスの大乱があって、国土は荒廃し、人心は荒んでいた。その余波をまっさきにかぶるのは、やはり、平民階級である。

「やっぱりアンシを倒しておくべきだったかしら」

 その村を出て、少ししてから、携帯食糧でお昼ということになって、みなが街道脇に腰を下ろしたときに、マナエルが言った。

「アンシだけじゃなくて、五大臣全てを」

「そうすれば、オレ達の気が晴れる分にはいいけどな。ヴァレンスに別の主が必要になる」

 ゾウンが言う。

「クヌプスを倒して正しいことをしたんだよね、あたしたち」

「さて」

 干し肉をおいしそうに食べながらサイが答えた。

「どうでしょうねえ。時のしからしむるところによって、われわれは戦ったに過ぎないとも考えられますよ、善悪の彼岸(ひがん)で」

「人には意志は無いということ?」

「その意志とは大河にたゆたう小舟のごときものではありませんか」

 ゾウンが口を差し挟んだ。

「オレは嫌だね。そういう考え方、単なる責任逃れのための言い訳に使えそうだからな」

「同感。道は、誰でもない、このあたしが切り開く」とマナエル。

「二人とも熱血ですねえ。まあ、嫌いじゃありませんが。しかし、とりあえず、われわれの戦いは終わりましたよ」

「生きている限り戦いは終わらない。じじいの口癖だ」

「じゃあ、それまでの間、力を溜めましょう」

殺伐(さつばつ)としてますねえ」

 ラミには、三人の話は難しくてよく分からなかった。しかし、ただ一つ分かったことは、分かったというより再認識したことは、世界は広いというそのことである。世界は広く、いろいろと知らないことがある。その中には知りたくないこともあって、ただし、その知りたくないことこそが自分にとって大事なことなのだということをラミは知った。

「しかし、願わくば、次に戦うときも、良き(かたき)に会いたいものです」

 サイの言葉は、認識を新たにしているラミの耳には入っていなかった。

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