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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
第1章「コウコの打刀」
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第8話「王の約束」

「魔王を倒し反乱を収めた者を姫の夫とし、国を継がせる」

 王がそう宣言したのは、クヌプス反乱軍が王都ルゼリアまでひしひしと寄せてきたのを、どうにかこうにか撃退した直後のことである。このあと、アレスたち勇者パーティはスタフォロンへとひた走ることになる。

 王の宣言は、反乱収拾の賞を保証することによって自軍の士気を上げようとするという実際的な意図の他に、己の大切な物を差し出すことによって大地の神に願いを叶えてもらおうとする宗教的な意図もある。すなわち、娘と国という相応の犠牲を差し出すことによって、大地の神に命を守ってもらう。それは王自身の命だけではなく、ルゼリア都民全体の命ということである。ちなみに、民衆による王制打倒という趣の中でも、王都都民は王室の味方であり反乱軍に(くみ)することは無かった。仮にルゼリア都民が反乱軍に呼応していたら、この反乱は確実に成功していただろう。

 魔王を倒したのは決してアレス一人の力ではないし、かといって勇者パーティだけの力でもない。ルゼリア防衛のために剣を振るった者や、更にはその防衛をバックアップした者まで全てを含む。であるので、「反乱を収めた者」と言っても誰になるのか、厳密に決めることは難しい。

 しかし、いやしくも王の言葉である。難しいのでできませんなどという理屈は通らない。しかも、ヴァレンスという国は非常に言葉を重んじる国なので尚更(なおさら)である。言葉を重んじるのは、どの国でも同じかもしれないが(そうでないと、約束というものが成り立たなくなってしまう)、ヴァレンスでは特別そうである。言葉に出したことというのは地の神が聞いており、それは神との誓約なのだという意識を一般市民までもが濃厚に持っている。まして、王であればそれはなおさらということになり、王が口にしたことというのは単に「為政者(いせいしゃ)の言葉は守られなければならない」という政治的な意味以上の意味を持っている。

 王の言葉の実質的解釈が難しいとすれば、形式的解釈として、魔王を直接倒したのは勇者であるので、王女の結婚相手は自然、勇者ということになる。

 アレスは今の今までそんなことを全く考えていなかったことに気がついた。王女との結婚なんて想像だにしたことない。もちろん、王の宣言それ自体は知っていたが、ピンときた話ではなく、自分に結び付けて考えたことなど一度もなかった。

「つまり、お前は結婚を阻止するためにここに来たってことか。花婿候補が死ねば、そりゃ結婚なんてできないもんなあ。いやあ、子どもでも分かる理屈だね……って、オイ!」

 アレスの一人遊びに、コウコは(こた)えない。

 彼女の代わりに、

「それにしても、思い切ったことをするものだ。どこの誰かは分からないが、まさか王が言葉にしたことを破ろうと画策(かくさく)する者がいようとはな。地の神を(おそ)れる者が王宮から減っているということか。全く嘆かわしい」

 感心二割、愉快さ八割の口調で、ズーマが口を出した。悲嘆の調子はゼロ。

「神聖にして侵すべからざるいとかしこきヴァレンスの血脈に小汚い緑色の血を混ぜ合わせるわけにはいかないというのは分からない話ではないが、そのために王の誓約を破るわけだから理屈に合わんな。いやむしろ、神との誓約の方を優先すべきであって、ヴァレンス王家の血脈などそれに比べたらさしたるものではないというのが普通の考え方だと思うがな」

 ズーマの言葉に皮肉は込められていない。

 コウコが言った「王女と勇者の結婚阻止」のために、今のような事態に至ったなどということは信じていないのだ。

 それはアレスも同じだった。

 やはり、ズーマが初めに言った「不必要になった粗大ごみ処分」説の方を信じていた。

 であれば、コウコがなぜ「結婚阻止」などということを言い出したのか、その説明がつかないことになるが、真相がどうであれ、とりあえず現状を打破し生き残る必要がある。殺されかけた真相に興味を持つのは生きている人間であって、死人は自分が殺された真相がどの説であってもそれほどの興味は持たないであろう。

 とはいえ、その現状打破とやらをどうやって行うか。それが大問題である。

「手を貸してやろう」

 不意に声が耳元で聞こえた気がした。

 アレスがその声に対して、「余計なことすんな!」というセリフの「よ」を言い出そうとまさに口を開きかけた瞬間に、

「もしも、アレスを殺すのがオージンの遺志(いし)だとすれば、ナメた話だがな」

 それを(さえぎ)るかのように、ズーマが声を出した。

 声量豊かな無駄にいい声である。

 オージンとはヴァレンス王の名である。

 すると、

「……まだ死んでないわ」

 コウコが、初めてズーマに反応した。

 単に反応しただけではない。

 その瞳に感情的な炎がごうごうと燃えている。

 ズーマは、ふっと笑うと、

「残念だがもう死ぬだろう。君はこんなところで遊んでいるより、王のそばにいたほうが良いのではないか、コウコ。臨終の席に立ち会えなくなるぞ」

 嘲るように言った。

 次の瞬間、コウコの口元から呪文の声が上がった。

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