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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
第6章「リマリのダガー」
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第65話「ティパーティの午後」

 リマリにとっては、一年ぶりのミスティカだった。

 市門を入ると、馬車は瀟洒な建物が立ち並ぶ中を抜けて、中心部から離れた一角へと至る。

 時刻は昼前で、夏の日がガンガンと親の(かたき)のように照りつけて来ていた。

「夏はなんで暑いんだろうなあ、リマリん」

「え? 『リマリん』って、わたくしのことですか?」

「他に誰が? そんなステキなあだ名が似合う子はキミしかいないだろ」

「ありがとうございます! 勇者様の愛的な何かを感じました!」

「愛的な何かってなんだよ?」

「嫌がらせの気持ちです」

「それ、愛じゃないよね」

「屈折した愛じゃないでしょうか」

 御者台で勇者とかけ合いをするのに慣れたリマリは、この旅で磨きをかけたユーモアセンスを何かに活用できるかどうか考えたが、どうにも難しそうだった。

「なんか寂しげになって来たけど、道合ってるの? リマリん」

「わたくしも久しぶりに参りましたので、おそらく大丈夫であると思います。わたくしの記憶力をご信頼ください」

「昨日の夜、何食べた?」

「えーと……何か美味しいものをいただいたような気がします」

「間違ってるぜ、その記憶。昨日食べたのは、あり合せの食材で作った鍋もの、名付けてリマリスペシャルだからな」

「ひどいです。勇者様。昨日は召し上がりながら、『おいしい、おいしい』っておっしゃってたじゃないですか!」

「その記憶自体も間違ってるぞ。オレは無言で食べてただろ」

「心でそうおっしゃってました」

「心が読めるのか。じゃあ、オレ今何を考えてる?」

「……言えません。そんなはしたないこと」

「おいっ! オレが変態的なこと考えてるみたいになってるだろ」

「あっ、あそこです!」

 リマリが指差した先に、ぽつねんと一軒の家がある。家の周囲は垣根で囲まれており、裏手に雑木林があった。

「……あそこなの?」

「はい」

「グラディの親が住んでるって言うからすごい豪邸を予想してたけど、意外だな」

「おじい様がご存命の時は街中にある屋敷にお住まいだったのですが、亡くなってからはお屋敷を処分してこちらに移られたのです。大きくて不便であるからとおっしゃってました」

「門番もいないみたいだな」

「はい、ご自由にお入りください」

 開いた門から馬車を中に入れると、家の裏手から、野良着を身につけた女性が一人、現れた。ぴしっと背が高く、あまり作業着が似合っているようには見えない。

「おばあ様!」

 リマリが御者台からジャンプして、女性に近づいていった。

「まあまあ、リマリ。どうしたの、一体」

 リマリは、驚きの色を浮かべる祖母を見上げた。

「色々な事情があって参りました。お元気そうで何よりです」

「事情ですか……」

 祖母は、孫娘の後ろにいる者たちを見た。

「従者のようにも見えませんね。ご紹介いただけますか、リマリ」

「はい」

 一団の代表者として近づいてきた勇者を、リマリは紹介した。

「ヴァレンスの救世主です。勇者アレス様」

「あらまあ……」

 祖母は絶句したようにしばらく固まったあと、立ち話もなんだから、ということで、中に入るように言った。

「ミーシア。ミーシアはいますか?」

 祖母の声に応じて、家の中からこのひなびた家には不似合いなきっちりとしたメイド服を身につけた少女が、現れて、

「はい、奥様」

 とはせ参じた。

「お客様です。奥へご案内して」

「はい」

 祖母が先に家の裏手に消えると、メイド少女が、「どうぞ」と言って先に立った。

「ミーシア、久しぶりです。お元気でしたか?」

 リマリが言うと、「おかげをもちまして。リマリ様もお元気そうで何よりでございます」という声が返された。

 そのリマリの後に一行が従う。

 客間に通されて、「少々お待ち下さい」とメイド少女が去ったとき、

「なんだか目つきの悪いメイドね」

 言ったのはマナエルである。

 確かにちょっと鋭い目をしている少女であるので、そう思うのも無理はない、とリマリは思った。

「人の目つきのことどうこう言えないだろ。マナのイラついた時の目、メチャメチャ怖いよ」

「なんですって!」

「ホラ、その目」

 マナエルが勇者に掴みかかると、

「ただのメイドってわけでもないだろ。なんかやってんじゃねえのか」

 言ったのはゾウン。

「食事の調理どころか別のものを調理できそうな、そんなたたまずまいですねえ」

 答えたのはサイ。

「別のものってなんだよ?」

「人間です」

 ラミはソファに座ると、うつらうつらし始めている。たび重なる旅の疲労だろう。

 ズーマは、我関せずという例の調子で、テーブルについた。

「コウコさん、どうかなさいましたか?」

 コウコだけ壁に背をつけて何やら考えている様子であったので、リマリは声をかけた。

「何でもないわ」

「……そうですか」

 しばらくして、ワゴンにティセットが運ばれて来た。運んで来た先ほどのメイド少女が、テーブルにカップを並べていく。

 それが終わった頃に、ちょうど、祖母が室内に現れた。

 簡素なドレス姿であるが、先ほどが野良着であったので、まるで別人の趣である。

「お話は、お茶の前がよろしいかしら、それとも後?」

 祖母が訊くと、リマリは、

「飲みながらでもよろしいでしょうか?」

 と答えた。

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