表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
第6章「リマリのダガー」
63/105

第63話「更なる旅路」

 明朝出発の予定は早められた。

 買い物も回復も夕方までに済ませられたので、じゃあ、ということで宵闇(よいやみ)が迫る中、ソーゾックを出ることになった。

「宿で襲われるのも嫌だしな」

 ゾウンが言う。

 ユーフェイと会った件も、出発を早める一因になっていた。

「襲われる場所などどこだって同じでしょう」とサイ。

「いや違うね。宿のベッドとかでリラックスしてるときに襲われるのと、街道で襲われるのとじゃ、全然ムカツキ度が違う」

「わたしはいつでもリラックスしているので、どっちでも同じですが」

「緊張感、持てよ」

「それはあなたとアレスに任せます。わたしはもともとパーティの支援係なので」

「気楽なヤツだなあ」

「それがわたしです」

 馬車は二台で分乗することになった。総勢八名の大所帯である。

 リマリは、勇者が御をする馬車に乗った。その自分の後ろからラミが乗り込んで来るのを見る。そのあとに、マナエルが続いた。

「いや、ダメだよね、この分け方。オレしか御をするヤツいないじゃんか」

 勇者が御者台から、客車の中に文句を言うと、

「別にいいじゃん、御をやってれば」

 マナエルが答える。

「オレは御者じゃない」

「勇者ってガラでもないじゃん」

「最近、同じようなことを聞いたなあ」

「そうでしょ。もう転職したら?」

「御者に?」

「そう」

「勇者より割がいいか?」

「少なくとも命を狙われる機会は減るんじゃない?」

 勇者は、「じゃあ、考えてみるよ」と真剣な口調で言って、馬車を発車させた。

 リマリは、まさに彼の命を狙っているのが我が父であることに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 ソーゾックを出て、薄闇の風景の中を馬車が走る。

「馬車の旅っていいね」

 ラミが楽しそうな声を上げる。

 ちょうどいい機会である。

 リマリは、ラミとマナエルに向かって、父がしたことを詫びた。

「わたくしがお詫びすることに意味があるのかどうか分かりませんが」

 そう言って、頭を下げる。

 直後に、リマリは、自分の手に温かな手が触れるのを感じた。

 その手に勇気づけられて頭を上げると、ラミの笑顔がある。

「リマリは悪くないよ」

 心洗われるような清浄な声である。

 リマリには感謝の気持ちしかない。

 そのあと、勇気を振り絞って、ラミの姉に顔を向けた。

 対面にいたマナエルは、ふう、と息をつくと、

「まあ、あんたのことはいいわ。でも、あんたの父親のことは許せそうにない」

 はっきりと言う。

 それは仕方ないとリマリは思う。それだけのことを父はしているのだから。

 そういう風に自分の父親のことを突き放して見てしまう自分という子は何と薄情な子なのだろうとそう思ったりもするのだけれど、その思いはどうしても心の表層に留まって深層にまで落ちてはいかないのだった。

 父のことが嫌いだというのではない。むしろ父のことは好きだった。今回、勇者をおびき出すための囮にされたわけであるが、そういうことをされてもなお父を敬愛する気持ちに変わりは無い。

 敬愛する気持ちに変わりはないのだけれど、それよりも自分自身を愛する気持ちの方が強い。つまりはそういうことだった。

「恋人が欲しいです」

「どういう脈絡(みゃくらく)!?」

 不審げな声を出すマナエルに、

「自分よりも大切にしたいと思える人に出会えたら、自分自身に執着する気持ちも減るでしょうから」

 リマリが言う。

「執着していいと思うけどね。大体、自分より大事にしたい男って、そんなの世界の果てにでも行かないといないんじゃないかな」

「そうでしょうか?」

「はーい!」

 ラミが手を挙げる。

「どうぞ、ラミさん」とリマリ。

「『さん』いらないよ。わたしね、ズーマさんが素敵だと思います!」

「ダメよ。ラミ、年上過ぎる」

 すかさず、マナエルが釘を刺す。

 ラミは、「ぶー」と抵抗の声を出すと、

「でも、二十歳くらいでしょ? 十歳くらいの年の差だったら、愛があればだいじょーぶだよ。お姉ちゃん!」

 続けた。

「二十歳じゃないわ」

 マナエルは静かに言った。

「え? そうなの?」

「そうよ」

「……じゃあ、三十歳とか?」

「もっと上」

「お姉ちゃん、ウソついてるでしょ?」

「ついてないよ」

 リマリの目から見ても、とても三十を超えているとは思えないので、よっぽど信じられなかったが、

「とにかく、ズーマはダメ。お姉ちゃん、許さないからね」

 マナエルが強い声を出すので、真面目な話であることは確からしかった。

「じゃあ、アレスさんにしようかなあ」

「アレスなんか、よっぽど許しません! あんな優柔不断のチャラい男!」

 マナエルが大きな声を出すと、外から、

「丸聞こえだぞ、マナ! もっとひそひそやれよ!」

 という怒声が聞こえてきた。

 リマリは隣から、くすくすという笑い声とともに、

「お姉ちゃんはアレスさんのことが好きなんだよ。だからムキになってるの」

 耳打ちを聞いた。

「いや、違うからね、ラミ。勝手な話を作らないで」

「じゃあ、嫌いなの?」

「うん、嫌いだよ」

 マナエルがはっきりとそう言った直後に、「オレは好きだああ!」という絶叫が聞こえてきた。

「こういうところが特に嫌いなのよ」

 次の目的地までは一週間ほどかかるという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ