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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
第6章「リマリのダガー」
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第59話「集合のソーゾック」

 スタフォロンへ至る道から外れて一日走ると、ソーゾックという都市に到着する。

 そこで仲間と合流するということである。

 ソーゾックは自治を許された自由都市なので、国家の力が及びにくく、他の市よりは安全であるということが理由らしい。

「あー、嫌だよー。マナに会いたくないよお」

 ソーゾックに近づくにつれ、勇者のぶーたれる回数が増えた。

 今は客車の中である。ゾウンが御を行っていた。

 仲間と会うのにどうして気が乗らないのか、リマリが訊いてみると、

「どっかの誰かさんのオヤジのせいで、あいつが超キレてるからだろうが、ああん?」

 なんだかひどく品の無い言い方で責められた。

 どうやら父の命によりスタフォロンへ騎士の一団が送られたそうだ。

 つまり、リマリの結婚の件は、勇者をおびきだす手段であったとともに、スタフォロンを奪還するための策略でもあったわけである。

 リマリがさすがにしゅんとすると、

「婦女子を脅えさせ、また婦女子に怯えては勇者の名が泣きますよ」

 サイが言う。

「なんだよ。じゃあ、お前は平気なのかよ、サイ?」

「わたしは勇者ではありませんので」

「ふざけんなよ。オレだって、勇者ってガラじゃないし」

「確かに。勇者と言えば、品行方正、容姿端麗、頭脳明晰、強力無双、衆をまとめ、皆に愛される……アレスはまだちょっと及びませんね」

「『ちょっと』だって? このイヤミヤロー」

「恐縮です」

「褒めてねえよ」

「……とはいえ、まあ、それはあなただけのことではなく、そのような人となりの方は、わたしは一人しか知りませんが」

「オレもだ」

 勇者の顔に一瞬、憂愁の影が差したのをリマリは見た。

 しかし、それはすぐに消えて、

「それで、サイ、体調は?」

 勇者は話を変えた。

「絶好調ですね。お腹空きました」

「たく、化け物め。腹を貫かれてよく生きているもんだ」

「これも日頃の行いが良いからでしょう」

「行い関係ないだろ」

「それにしても、あなたにしてもゾウンにしても、随分と焦った顔をなさってましたね。お二人の愛を感じましたよ」

「薄気味悪いこと言うな。オレは、パーティの回復役がいなくなると思って慌てただけだ」

「まあまあ、照れなくても良いではありませんか」

「言ってろ」

 そういう勇者の声には温もりがある。

 到着したソーゾックは活気のある都市だった。

 大路に人と馬車の往き来がかまびすしく、王都よりも賑わっているように見えるくらいである。

「この町は、内乱中も中立を守り、ヴァレンス国にも反乱軍側にもつかなかった。その分、力が溜められているんですよ」

 サイが解説した。

 宿に着くと既に、勇者の仲間は到着していたようである。

「お連れ様がお待ちです、アレス様」

「……どうもっす」

 宿の主人に礼を言った勇者が近づいて行く先に一つのテーブルがあって、そこに三人の男女がついているのを、リマリは見た。

「あ、アレスさん。みなさん!」

 そのうちの一つが、勢いよく椅子を蹴って立ち上がり、走り寄って来た。

 リマリより年下の少女である。

 おそらくラミという子だろう、とリマリは思った。

「元気か、ラミ?」と勇者。

 当たりのようだった。

「はい!」

 屈託のない笑みに、勇者は微笑みを返したが、

「ハァイ、アレス」

 それはすぐに固まった。

 すらりとした細身の少女が柔らかな表情でラミの後ろに立つ。

 アレスが答える前に、少女はリマリに目を向けた。

 その瞬間、リマリは背筋が立つのを覚えた。

 まるで猛獣の目に射すくめられたような恐怖。

 今すぐこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになるリマリを隠すように、勇者が立つ。

「よお、マナ。調子はどうだ?」

「いいよ」

「完全回復か?」

「いつでも王都に乗り込めるよ」

 後ろにいた勇者の他の仲間たちは、勇者と少女から離れるようにして、別のテーブルへと腰を落ちつけた。

「王都に乗り込むのもいいかもしれないけど、一つ面白い案があるんだ、マナ」

「面白い? あんたの顔とどっちが笑える?」

「もちろん、二枚目なオレの顔よりはずっと面白いよ、うん」

「その冗談は全く面白くないけどね……それで?」

「グラディの生家に行く」

「ん?」

「母親が住んでいるらしい。グラディはこの母親には頭が上がらない。ヤツの唯一の弱点だ」

 アレスの背で話を聞いていたリマリは一人うなずいた。

 父に何かをさせることができるとしたら祖母しかいない。

 マナエルは考えるような沈黙を取ってから、

「めんどうくさい」

 ぼそりと言う。

「人生は面倒なもんなんだよ」

「……これ以上は譲歩しないわ。これで最後だよ」

「分かった」

 勇者は重々しく言うと、この間、我関せずと言わんばかりにテーブルで茶を飲んでいた銀髪の青年に声をかけた。リマリは、よくよくと彼を見て、思わず胸が速くなるのを覚えた。青年は、リマリがこれまでに会ったどんな男性よりも美しかった。

「ご苦労だったな、ズーマ」

「可憐な女性二人を守る役目だ。全く苦労は無い。お前のお守りをするよりよっぽどな」

「サイを診てやってくれ」

 リマリが視線を感じると、きらきらと輝くつぶらな瞳に出会った。

 リマリが自己紹介すると、ラミは白い歯を見せた。

 ソーゾックには一日滞在するということだ。

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