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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
第5章「ユーフェイのフランベルジェ」
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第55話「撤退のパーティ」

 それは油断ではなく、信頼だろう。

 リマリを守るという目的のもとに共闘している者に対する信頼。

 そういう信頼に応えたい自分を感じつつ、ユーフェイはフランベルジェを振るった。

 神速の突きと言って良い。

 ずぶりと肉の感触がして、細身剣を引き抜いたユーフェイは、すぐにリマリの手を引いて、その場から下がった。

「サイ!」

 村人風暗殺者に向かおうとしていたゾウンが、振り向く。その目に、ふくふくとした体が、地面に倒れるのが映る。

 ユーフェイはリマリの手をさらに引いて、その場から離れようとした。

 しかし、リマリが動こうとしない。

「リマリ!」

「ユーフェイ。人は何をしてもいいけれど、卑怯なことだけはしてはダメです。それは面白いことではないから」

 そう言ったリマリは、ユーフェイの手を振り切るようにして、サイとゾウンのもとへと向かった。

 追いかけようとしたユーフェイの背に、ぞっとするような気配がある。

「……どけよ」

 振り返らずに跳んだユーフェイは、反射的に出したフランベルジェに衝撃を感じ、その衝撃で体が吹き飛ばされた。そのまま、地に転がるようになる。見上げたユーフェイの目に、鬼のような形相をしたアレスが映った。

 横から襲いかかって来たリマリの護衛兵を、アレスは体の向きを変えてその護衛兵に向けながら、袈裟斬りに、斬って捨てた。そのまま、次に襲いかかって来た暗殺者の短剣の一撃を受け、受けた瞬間に飛んできた矢をステップしてかわす。かわしざま、目の前にいた暗殺者を斬った。

――強い……。

 なんていうものではない。レベルそのものが違う。ユーフェイも大概、修行を積み、戦場を踏んで来たが、どういう激烈な生き方をすればあのようになれるのか、想像さえできない。

 アレスがサイのもとへと近づいたとき、倒れていたサイが普通に体を起こしたのが見えて、ユーフェイは仰天した。命に届く一撃だったはずである。なぜ立てる?

「それは秘密です」

 サイは、絶望的な顔をしていたゾウンに言った。

「お前、死んでないのかよ?」

「死んでません。しかし、動けません」

「ん?」

「これ以上、動けないんですよ。死ななかっただけマシですが、立ち上がれないんです。背負ってってください、ゾウン、あるいはアレス」

 合流したアレスはホッとした顔を見せつつも、

「オレは殿(しんがり)を引き受ける。ゾウン、コウコを護衛につけるから退け」

 サイをゾウンに押し付けた。

「ちっ、オレかよ。なんで男なんか運ばなきゃいけないんだ。てか、コウコは護衛になんか来ないんじゃないか?」

「……あいつ、どこいるの?」

「あそこ見ろよ」

「……あー、道理で矢があんま降って来ないわけだ」

 コウコは家の屋根に登っていて、そこで大立ち回りを演じていた。射手となっている暗殺者をおおかた倒し、今また一人倒す。そのあと、彼女は屋根からひらりと降りて着地すると、着地しざまに地を蹴って、別の暗殺者に向かう。

「サイの言った通り、お前よりコウコの方がよっぽど役に立つなあ。今度からあいつをリーダーにするか。見栄えもするしな」

「勇者は顔じゃないよ。心意気だよ」

 アレスは、近くに少女を見た。

「君はどうする?」

「参ります」

 リマリは、はっきりと答えた。

「リマリ!」

 ユーフェイは立ち上がると、フランベルジェに炎を灯した。

 戦況は全く芳しくない。

 二十名ほどいたリマリの護衛兵たちもすでに二三人となり、暗殺者連はもともと何人いたか分からないけれど、二十数戸の村の村人に化けるくらいだから相当数いただろう。その相当数が累々とした死体になって、地に落ち屋根の上に沈んでいる。

 それに比べ、こちらの戦果としては、勇者パーティのメンバーひとり。しかも、死んではいない。どうやら動けないようではあるが。

「ユーフェイ、来ないでください」

 リマリが静かに言った。

「来れば、あなたは死にます」

 確かにリマリの言う通りだと、ユーフェイは思った。

 しかし、だからといって引き下がれない思いがある。

 ユーフェイは突撃した。そうして、突きを放つ。

 放った先に、勇者の胸があった。

 ユーフェイの一撃は手ごたえを得ない。だが、それでいい。今の一撃は、勇者の命を狙ったものではない。単なる牽制である。ユーフェイが用があるのは、主の娘であり、妹である存在だった。

 リマリに向かったユーフェイは、ぶんと振られたロングソードの一撃をなんとか、フランベルジェで防いだ。しかし、防ぎきれず、そのままフランベルジェ越しにロングソードの一撃を脇腹に受けた。

「……ぐっ」

 ユーフェイは、打撃の瞬間自分から飛ぶようにしたが、エネルギーを逃がしきれず、再び地面に転がった。立ち上がったユーフェイの脇腹に激痛が走る。

「おい、ユーフェイだったな。次に会ったら、てめえはぶっ殺す。ダチの敵だ」

 ゾウンがサイを背負った状態で言った。ユーフェイに対する一撃はゾウンのもので、しかも背にサイを負った状態での一撃だった。

「まだ死んでませんけど、ゾウン」とサイ。

 いつの間にか、コウコも合流していた。

「よし、行くぞ」

 アレスの声で、パーティが撤退を開始する。

「健やかに、ユーフェイ」

 リマリの言葉は簡単である。

 その背を追う力がユーフェイにはない。

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