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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
第4章「サカレの山刀」
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第42話「明かされる事実」

 テミアとヴァンの姉弟が、サカレの前に後姿を見せていた。

 その手にはそれぞれ武器が握られていた。姉の手にはごく短い棒が握られ、弟は左手に短剣、右手に剣を握っていた。

「選手交代か?」

 面白そうな口調で勇者が言う。

 それにテミアが答えた。

「はい。負傷した主に代わって、ここからはわれわれがお相手します、勇者殿」

 いつもの軽口とは打って変わった丁重さで言うと、それに、

「……同じく」

 弟が和した。

 サカレは、腕の鈍痛に耐えながら、二人に下がるように言った。これは彼女が選んだ戦場である。それに、まだ動けなくなったわけでもない。

「手助け無用」

 しかし、テミアは、

「嫌です」

 と答えた。弟もまた、「同じく」と姉に同調する。

「友達を傷つけられて黙っていられるほど、人間できてないからね」

「おれもです」

 こんな時になんだけれど、サカレは胸にこみ上げるものがあった。

「おいおい、こっちが完全に悪役みたいになってるじゃねえか」

 勇者が軽口をたたく。実際そうなんじゃないだろうか、と思ったサカレの心を、

「実際そうでしょうが。このクソ勇者」

 テミアが代弁した。

――言っちゃうんだ、それ!

 サカレの腕が痛んだ。

 見ると、隣にシューハの愁顔があった。シューハは、サカレの腕を取りながら、

「踏み込んだのが良かったですね。折れてはいないようです」

 言った。

「クソだと?」と勇者。

「そうよ。女の子を傷つけて平然としているヤツは男の風上にも置けないわ」

「なにが女の子だよ。手切棒(てきりぼう)持ってるヤツが女を語るな」

「うるさい。とにかく、一手ご教授願うわ。クソ勇者様!」

 言いざま、テミアは突っ込んだ。ほぼ同時に、まるで息を合わせたかのように、ヴァンも突っ込む。

 サカレが止める間は無かった。

 テミアとヴァンは、サカレと行動を共にするときはその警護役を務めている。当然腕は立つ。サカレは、これまで武術でテミアとヴァンに勝ったことはなかった。この前会ったときから数カ月、間があったので、今は少しは差が詰められているかと思えば、そんなことは全然無いようだった。テミアにしても、ヴァンにしても、はるかに動きが洗練されている。

――また差がついちゃったか……。

 勇者の一太刀をヴァンの短剣が受け止める。ヴァンの短剣は盾代わりとして機能する。そうして、攻撃はもう一方に持つ剣で行うのである。受けざまに振ったヴァンの剣を勇者がかわす。しかし、かわしたその地点に接近する影があって、影から繰り出される一撃は短い棒の突きである。必ず当たるタイミングのようにサカレには見えたが、勇者の姿はその場からかき消えるようになって、一瞬後、テミアの背後にあった。

「遅えよ」

 振り払うようにされた勇者の木刀を、テミアは手に持つ棒で受けた。一見何の変哲もないように見える短い棒は、しかし、「手切棒」という名称を持つ立派な武器である。受けながら、テミアは受けた部分を支点にして体を反転させると、後ろ回し蹴りを放った。正確に頭を狙ったその蹴りを、ほんの少し顔をのけぞらせただけでかわす勇者。その手に持つ木刀が動いて、しかし、それはテミアを攻撃するための動作ではない。

 カッ、という軽い音が響いて、勇者の木刀は、ヴァンの剣を受け止めた。

「惜しかったな。だが、まあまあいい線いって――」

 勇者の言葉が終わる前に、体勢を直したテミアが体を沈めて水面蹴りを放った。宙に飛んでよけた勇者に、テミアがその姿勢から宙に向かって伸び上がるような蹴りを放つ。放った蹴りは胴をとらえる代わりに、木刀に当たった。蹴りを受けた木刀は、ぶんと振られ、ヴァンの頭に向かった。攻撃しようとしていたヴァンが、逆にその一撃を短剣で受ける。

 着地した勇者が地を蹴る。その体が今度は瞬時にヴァンの背後に回った。

 振り下ろされた一撃をヴァンが横に飛んでかわす。弟への追撃を阻むように、立ち上がったテミアが勇者へと向かう。繰り出される棒の一撃を勇者の木刀が受ける。

「なかなかやるなあ、お前ら」

 勇者が言う。

「勇者様に褒めていただいて光栄至極」

「魔王とやっても、五秒くらいはもつんじゃないか?」

「それ褒めてるんだよね?」

「モチロン」

 姉が勇者と会話を楽しんでいるところに、弟が迫る。

 振られた剣を勇者がかわす。

 そうして、彼は距離を取った。

「やめだ。もう十分いい汗かいた」

 そう言って、勇者は木刀を捨てた。

 満足したということだろう。

 一部始終を見ていたサカレは、終わったかと思ってほっと息をついたが、

「ふざけろ。ここでやめられるわけないでしょ」

「……続きを所望します」

 テミアとヴァンが聞かん気を起こしたので、内心で悲鳴を上げた。

 勇者を倒すことがこの旅の目的などでは全然ない。仇を取ろうとしてくれていることは嬉しいが、これ以上の争いは無意味である。サカレは、シューハに助けを求めた。

 シューハはうなずくと、

「二人とももうやめなさい」

 と言った。

 それでもなお攻撃態勢を崩さない二人に、

「その方は勇者アレス殿ではありませんよ」

 驚くべき事実を告げた。

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