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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
第3章「マナエルの杖」
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第33話「スタフォロンへの帰り道」

 ラミを無事保護した帰路は、しかし、それほど明るくはならなかった。本来であれば、姉妹が再会を果たしたわけであるから、ひとまずのハッピーエンディングとなるところなのに、アンハッピーな感じになっているのはなぜか。とはいえ、往路のようにみな押し黙っているというわけではない。むしろ、会話はある。そうして、率先してしゃべっているのがラミだった。向かっているスタフォロンのこと、現在のアレス達の状況、魔王との戦いなど、みなに質問を雨あられのように浴びせていた。

 ラミの質問に答えるのは主にマナエルとアレスの役割だったけれど、たまにズーマもそれに加わって、コウコでさえ答えるときがあった。

 ラミは明るかった。しかし、その明るさはことさらに暗さを払おうとするような明るさであって、それは闇夜の松明(たいまつ)にも似て、かえって闇の暗さを目立たせた。

 両親に騙され、更には姉を殺そうとしていたわけであるから、それはそうもなるだろう、とアレスは思いながらも、同情はしないように努めた。姉についていくと決めた時点でラミは、親から離れることを決意したわけであって、それはすなわち大人への第一歩を踏み出したと言うに等しい。そういう子に対して同情するということは、侮辱することと同じであるという気持ちがアレスにはある。

「ありがとう、アレス」

 マナエルが御者台でそう礼を言ったのが、キエリを出て二日目の朝だった。

 帰路は往路よりはゆっくりと馬車を走らせている。

「礼を言われるほどのことはしてないね」

 アレスはぶっきらぼうに言った。

「可愛くないなあ。素直に『もったいないお言葉でごぜえます、マナエル様』って言いなよ」

「なんでそんなにかしこまらないといけないんだよ」

「ラミはあたしの宝なの。ありがとうね、本当に」

 そう言ってマナエルは頭を下げた。

 アレスは、まともに礼を言われて何と言って返せば良いか分からず、「まあ、気にしなさんな」と言ったあと、あははは、と無駄に笑ってみた。

「あんたはいいの?」

「ん?」

「家族のことだよ。心配じゃないの?」

 アレスは空を見た。青空には一片も白雲も無い。いい天気である。

「悪かった? 訊いて」

「いや、別にそんなこと無いよ。オレは家族とは縁が切れてるみたいなもんだからさ。帰るわけにはいかないんだよ。それにウチの家族が曲者(くせもの)連中に遅れを取るとも思えないしなあ。まあ、大丈夫だろ。多分」

 マナエルはそれ以上その話題には突っ込まなかった。代わりに、

「これからどうする?」

 訊いてきた。

「それが問題だよなあ」

「グラディを殺すってのは本当にダメなの?」

「どうなんだかなあ。ていうかさ、ラミの前であんまり殺すの殺さないのって話するなよな」

「優しいんだ」

「今頃気がついたのか?」

「何でこんなことになっちゃったんだかね。あたしたち間違ってたの?」

「さあなー。仮に間違ってたとしても、もうどうしようもないしなあ。これからいい感じにするしかないだろ」

「いい感じって……このテキトーヤロウ」

「ま、何とかするさ。オレを信じろ」

「信じてるよ、もちろんね」

「マナは体調悪い方が性格良くなるよなあ」

「悪いままでもいられないけど。でも、サイによるとまだ時間がかかるみたいだから。役立たずでごめん」

「その方がいいかもしれないぞ。マナが役に立つときは、人が大量に死ぬ時だからなあ」

「人を殺人鬼みたいに言わないでくれる」

 アレスはマナエルに客車の中に入るように言った。

「襲撃が来たら起こしてね。あいつら程度だったら何とでもなるから」

 そう言ってマナエルは客車の中に入った。

 襲撃とはキエリで襲いかかって来た黒装束たちの生き残りによるものであるが、それはおそらく無いだろうとアレスは踏んでいた。彼らはプロである。キエリで失敗した彼らは無策で再びアレスたちに挑むというような愚を犯すはずがない。もちろん追跡はしているかもしれないが、それを阻止することは中々難しい。

「アレスさん」

 客車のドアからラミが姿を現した。

 アレスは馬車のスピードを落とした。

 ラミは御者台に乗り込んできた。

「どうした?」

 ラミは顎のあたりで切りそろえた髪を微風に揺らしたままちょっと前を見ていたが、心を決めたように、アレスの方を向いた。

「お聞きしたいことがあるんです」

「うむ、何でも聞きなさい」

「お姉ちゃんと付き合ってるんですか?」

「……ん?」

「お姉ちゃんと仲良さそうなので。違うんですか?」

「ラミ……キミのお姉ちゃんと付き合うにはまだオレには覚悟が足りない。魔王と戦う以上の覚悟がいるのだよ」

「じゃあ、アレスさんは好きな人いますか?」

「キミのことが好きだけれど、お姉さんに殺されそうな気がするから、それを言い出せずにいるのさ」

「全部言っちゃってますけど」

 アレスは笑った。つられるようにして、ラミも笑った。

 アレスは彼女に何も言わなかった。

 そうして、馬車のスピードを少し上げた。

 スタフォロンへはあと二日ほどの距離である。

 次の策を考える時間はまだあったし、何も思いつかない時のために仲間がいるのだということにアレスは気がついた。

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