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大乱やみてのち、残念な少女たちのふる剣  作者: 眉村みこ
第3章「マナエルの杖」
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第23話「話し合いは冷静に」

 アレスは最低な気分だった。

 どのように最低であったかと言えば、例えるなら、数カ月の間生死を共にしてきたまさに信頼すべき仲間たちから、

「はあ? ふざけんな、クソやろう!」

「あんた、バカじゃん。自分が何言ってるか分かってないんでしょ」

「全く了承できませんね。あなたはアホです」

 情け容赦ない罵声(ばせい)を浴びせられたときのような気分と言えばいいだろうか。

 そうして、それは例えでもなんでもなく、ただの事実であった。

 アレスは今まさに仲間から罵り声の集中砲火を浴びせられている最中だった。

 かなり精神的にくる攻撃である。

 これに比べれば、反乱軍の一個師団に囲まれた方がまだマシだった。

「ちょっとみんな落ち着こうよ、うん」 

 アレスはなだめるように両手を、まあまあ、と動かした。

 しかし、それはなんらの効果も無かったばかりか、逆に火に油を注ぎまくる結果となった。

「国外に出ろって言われて落ち着いていられるかよっ!」 

「なんでわたしたちが亡命者みたいなマネしなきゃいけないの?」

「わたしは落ち着いています。あなたはアホです」

 窓からの光が室内を明るくしている。

 ふわふわとした昼の軽やかな光の中で、アレスの気持ちは重くなった。

「帰って来て何を言うかと思いきや、正気か、お前?」

「わたしたち何も悪くないでしょ」

「あなたはアホです。それもぶっちぎりの」

 宿屋の一室であった。

 反乱軍の首領クヌプスが奪って居城としたスタフォロン、その城下にある宿屋である。

 さして大きくない室内の一方の壁際にアレスはいた。初めは中央にいたのだけれど、じりじりとそこまで追い詰められたのである。

 美しき女暗殺者の襲撃を受けてから一日が経っていた。

 アレスは仲間を衷心(ちゃうしん)から想い、夜を昼に継いで馬を走らせて帰って来たわけだけれど、その仲間想いの返礼は、憤怒の声と憎悪の視線であった。

 アレスは自分たちが必要のなくなった凶器であり、グラディ卿という高官のおっさんの目障りになっているということ、それから逃れる為にはこの国を離れるのが良いのだということを、室内でくつろいでいた仲間たちに説明した。一緒にクヌプスと戦った仲間である。気心知れた彼らはきっと自分の提案を受け入れてくれるのではないかと、そんなことを考えていたアレスは自分のあまりの観測の甘さに気分が悪くなった。急いで帰って来たので疲労も溜まっている。

「この国に留まっていれば、刺客につけ狙われることになるんだぞ。オレだって理不尽だとは思うけども、でも命あっての物種(ものだね)だろ」

 アレスは背に壁の感触を感じながら言った。

「勇者が理不尽に屈するのか。大した勇者もあったもんだよ」

「魔王より、貴族の方が怖いなんてリクツに合わない」

「理に合わないことを言う人間を阿呆と呼びます」

 アレスは仲間の顔を見渡しながら、一歩力強く踏み出した。グズグズしている時間は無いのだ。今まさにこうして言い争っている間にも刺客が襲い掛かってくる可能性があり、すぐにもここを出るのが吉なのである。

「行きたきゃてめえだけで行けよ、アホ」

「そうそう。一人でね、ドアホ」

「ゲキアホ」

 アレスはグッと拳を握りしめた。そうして、

――こいつら、まとめてぶっとばしてやろうか、とりあえず!

 と寝不足で疲労した頭で考えたが、それは考えただけで終わった。一人一人がアレスと同程度の実力を持つ猛者である。仮にひとりのほっぺたをバチコーンと殴れたとしても、残りからタコ殴りに合うことは必定。少ない体力を無駄に消耗するだけの話である。 

「じゃあ、逆にキミたち頭いい人たちに聞くけども」

 アレスは皮肉げに言った。

「オレたちはどうすればいいんスか? 教えてもらえませんかね」

 何かしらいい方法があるのなら言ってもらいたいというのは、アレスの心底からの気持ちである。この宿に来るまで、馬に揺られながら考えていたアレスだったが、亡命以外の方法は思いつかなかった。

「王女に直談判(じかだんぱん)でもしてみますか? ん?」

 アレスは語を継いだ。

 それはおそらく難しい。と言うのも、王女の力が及ばなかったからこそ、このような状況になっていると考えられるからだ。もちろん、今回の件に王女が一枚噛んでいないという前提のもとであるが。それに、そもそもアレスは人の手を借りるような他力本願は極力する気がない。人にもたれかかれば、もたれかかった人ごと倒れるかもしれないことを知っている。自分の足で立つ。そういう強さをこれまで磨いて来たつもりのアレスである。

――その結果が逃亡なんだから、情けないけどな。

 アレスは心中で苦くつぶやいた。

「直談判しに行こうぜ」

 アレスに迫る仲間のうちの一人がやけに据わった目をして言う。

 戦士のゾウンである。

 アレスと同じくらいの背丈の彼は、天井に向かって手をにゅっと突き上げた。

「それでオレたちに手出しをさせないように言う。グダグダ言うなら――」

 その手を拳の形にして、ゾウンは言った。

「王女をつぶす」

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